Ⅲ.中同協における情報化の位置づけと展開~全国ネットワークを生かして

中同協は、組織としては、都道府県単位の同友会からなる協議体であり、規約第4条には、各同友会の力を合わせて政治的経済的要求を実現していくことや、同友会間の交流と親睦の場を設け、企業の自主的近代化をめざし、経営者の自覚と姿勢を正すこと、中小企業の地位向上などを団体の目的として掲げています。

では、「協議体」という組織が、なぜ情報化を進めることになったのでしょうか。その流れを、各同友会での実務の合理化、各同友会間や中同協間の通信手段としての活用、全国レベルでの情報共有の3段階でふりかえってみたいと思います。

1.各同友会事務局での実務の合理化と相互交流による連携

(Ⅰ)80年代急激な会員数の増加へ~OA化急ぐ

各同友会では1980年代からの急激な会員数の増加に伴い、当時1000名を超えていた同友会では、オフィスコンピューター(以下、オフコン)による会員管理システムの導入が開始されはじめ、会員管理、財務会計(会費の入出金管理)などの業務の合理化が進められていました。中同協にはこのころからそれら同友会事務局から「どのように合理化を進めていけばいいのか」「各同友会では会員管理システムをどのような形でつくっているのか知りたい」など、実務の合理化に関する相談が寄せられています。

一方、中同協は、月3回発行している「中小企業家しんぶん」を、パートナー企業に印刷・発送の業務委託しており、当時は発送用の会員宛名データ集約・管理・運用をパートナー企業に依頼する形を取っています。

80年代から急激に膨らむ会勢に対し、会員管理実務の合理化を強く志向する同友会からは、中同協へ更新情報を伝票でなく、データ化してFDなどの媒体で送付する形で更新することが望まれ、それへの対応をパートナー企業と進めていました。89年「コンピューター利用アンケート」を行い、その結果、36同友会中13同友会がコンピューターを導入していましたが、多くの同友会では会員管理をワープロや手書き書類で行い、コンピューターを導入している同友会でもそれらが併存することが一般的でした。

(Ⅱ)90年代前半からはじまった実務交流会

91年の「事務局実務処理アンケート」では、37同友会中24同友会がコンピューターを導入しており、89年に比べ2年間に倍近い同友会がコンピューターを導入し、事務局業務の合理化が図られました。

この間、中同協事務局としても、大阪(90年3月)、大阪・兵庫(91年3月)の「実務OA化研修」に行って、ヒアリングも行っている。また、91年の調査結果から、事務局の実務交流会を望む同友会が17あったため、92年には初めての「同友会事務局実務交流会」が、3月(東日本:関東近県対象・千葉、7同友会)と6月(西日本・兵庫、12同友会が参加)に開かれています。

93年3月には同交流会が中日本を対象(7同友会が参加)に三重で、同年9月には大阪同友会事務局OA見学会(11同友会が参加)が開かれており、当時一気に事務局実務の情報化が進んでいくようすが分かります。

また、これらの動きは、93年の中同協総会で議論された中同協ビジョンの内容とも符合しています。

中同協がその実務レベルでの交流の場を持つことで、それぞれの同友会事務局では業務の見直しにつながり、事務局間ではありますが「全国統一のデータベースを作るべき」など、全国ネットワークの展望も語られはじめています。

ただ、当時より事務局員のITリテラシーの課題や戦略的IT活用が論じられており、その後95年に実施されたアンケートでは40同友会中33同友会がコンピューターを導入しており、実務の低コスト化や処理の迅速化、データの活用などが課題となってきていました。また、次々設立されてくる同友会では、会員管理手法やデータベース項目の企画化などに関して、将来のネットワーク化を見通して、中同協に対し指導的な役割を求める声が強く寄せられていました。

96年(開催地・兵庫)、98年(福岡)、2002年(愛知)、2003年(広島)、2004年(東京)と、中同協主催で実務交流会や情報化研修交流会が開かれました。

90年代後半から設立された同友会には、組織強化の支援として、中同協で作った会員管理の簡易ソフトを提供するなども行ってきました。

2.各同友会間や中同協間の通信手段としての活用

(Ⅰ)90年代からの中同協のIT化~ファイル管理やDTPへ

中同協がワープロを併用しながら、コンピューターを導入したのは1989年。NECのN5200を1台導入し、ワープロ機能による発信文書作成をはじめ、表計算機能で会員数の集計、組織率などを、データベース機能で準備会名簿、各種名簿などを管理していました。また、財務会計ソフトも載せ、会計業務の合理化も図ってきました。

91年にはパソコンNEC-PC9801シリーズを3台導入、その後徐々に増やしていき、97年からは事務局員一人に一台のパソコンPC98を導入し、MS-Windows95のピア・ツー・ピアのLAN構築を行い、局内にファイルサーバーを置くようになりました。

中同協事務局と各同友会事務局の情報交換は、80年代当時はファクシミリ(以下、FAX)が全同友会事務局に導入されていなかったため、郵送を基本としていましたが、90年代からは会員増強速報などをFAXの一斉同報機能などを利用して各同友会事務局に送信されるようになりました。

96年から中同協事務局では一部のパソコンでパソコン通信を試験運用し、97年からインターネットを介した電子メールの利用を開始しました。これ以降、インターネットに接続できる同友会事務局からの情報は、FAXから電子メールに切り替わっていきます。

(Ⅱ)90年台後半、電子メールの活用からはじまった情報共有

電子メールが、中同協事務局実務に有効に機能し始めたのは、1999年からです。98年に中同協事務局員全員に個別メールアドレスが付与され、各同友会からの「中小企業家しんぶん」記事の入校がデジタル化されることで、「中小企業家しんぶん」局内DTP化構想が生まれ、99年1月25日号からDTP化を実施。そのことで年間450万円程度のコスト削減と作業の合理化ができるようになりました。

すでに10年間が経過し、累計で4500万のコスト削減を行ってきたことになります。

また、98年11月からは中同協から「同友会事務局メール通信」の形式で、メールアドレスを持つ同友会事務局に配信を開始し、事務局の諸連絡については事務局のグループウエアが立ち上がるまで利用されました。

このように中同協として通信手段インターネットを活用し、編集手段としてパソコンを活用することが実務面での合理化につながり、中同協と各同友会事務局との情報交換の密度を増すことになりました。

98年2月に1100名が参加して宮崎で開かれた第28回中小企業問題全国研究集会の設営段階で、参加者集約のために、電子メールを活用し、表計算ソフトで各同友会が作成する参加者リストを設営同友会でデータベースソフトに一本化する作業が行われました。

中同協に対し全国行事参加者管理システム構築の強い要請がありました。しかし、先の機種依存型のシステムでは課題も多く、2001年にインターネットのウエブ上で機能する全国行事の参加者管理システム「Netpro」がつくられ、中同協第33回定時総会(北海道)から稼働し、その後、全国会員データベースとも連動するようになって、設営同友会に限らず全国行事にかかわる事務局の作業は一気に合理化されました。詳細はNetproの項参照。

3.全国レベルでの情報共有と発信

電子メールの利用とともに、99年には中同協として独自ドメイン「CHUDOKYO.GR.JP」を取得してホームページを立ち上げ、中同協がどのような組織なのかを広く発信することとなりました。

中同協よりも先に、各同友会では共同求人活動でホームページが利用されるようになり、97年2月の段階では公式のサイトを持つ同友会が42同友会中13、独自ドメインを持っていた同友会は、石川、大阪、兵庫の3同友会でした。事務局にインターネット接続環境があったのは16同友会でしたが、2001年6月の「事務局の情報化に関する調査」では、公式サイト44同友会中31、インターネット接続環境は42同友会と、急激に環境整備が進みました。

インターネットの普及とともに中小企業がホームページを持つ割合も高くなっており、上記調査では、各同友会理事クラスの会員のホームページ開設割合「3割以上5割以下」と答えた同友会は、50%となっています。

(Ⅰ)2001年中同協情報化促進検討会の発足~統一ドメインへ

インターネットが一気に普及し、無政府状態になる中で、同友会内部でも問題が起きました。

2000年に一人の同友会会員が、「これが同友会だ」として、当時立ち上がっていた各同友会のホームページに掲載されていた会員名簿を、自社のホームページにまとめて発信するという事件が発生。

中同協としては広報委員会で対応し、委員会の諮問機関として「同友会ホームページ運用ルールML会議」を置き、中同協として初めてメーリングリスト上で会議を行い、同友会がインターネットを利用する際のルール化を試みました。その結果、「同友会活動におけるインターネット活用にあたっての考え方」(以下、「考え方」)をまとめ、2001年3月の中同協第2回常任幹事会で承認をえて、この見解を発表しました。

また同時に、この諮問機関では、中同協第32回定時総会時の議案への意見として提起された、同友会としてのドメインの統一について検討しました。その結果、兵庫同友会が使用していた「DOYU.OR.JP」をもとに、中同協がDOYU.JPを取得し、汎用ドメインとして使うことで統一ドメインとする方向を出しました。この結果、各同友会の公式サイトにこの統一ドメインを使うことで、一体感を出し、全国的な連帯を表明することができるようになりました。

これらの論議を深める中で、「考え方」の浸透及び、今後のインターネット活用に当たっては、中同協の中に実践を交流する組織や方向性が出せるような常設した組織が不可欠であるとして、幹事会の諮問機関「中同協情報化促進検討会」を2001年6月に発足。委員には役員だけでなく半数が各同友会の事務局員で構成され、日常的意見交換の場としてメーリングリストを使うなど、委員構成も意見交換の場の持ち方も中同協としては異例の組織となりました。

本検討会の目的は、「①同友会の情報の有効活用・ネットワーク化についての検討、②『同友会活動におけるインターネット活用にあたっての考え方』の浸透と再考、③インターネットの活用や情報化について全国的な研修交流会の内容についての検討」の三点としていましたが、検討会発足を承認した幹事会では、「会員の経済交流ができる環境をつくるよう検討してほしい」との強い意見が出され、その後の検討会の議論に大きく影響することになります。

その後、中同協が行うすべての情報化に関する課題は、この検討会で審議され方向性が提案されていきます。

まず検討会発足後すぐに、2001年6月に「事務局の情報化に関する調査」が行われ、ホームページを持つ同友会が44同友会中31、事務局に接続環境があるのは42同友会で、2001年度中には全同友会事務局にインターネット環境が整備されることが判明しました。

FAXが各事務局に導入され始めて全同友会がFAX持つまでに10年以上かかっていますが、電子メールはその倍の速さで普及し、常時接続で利用料が定額となってから利用頻度も急激に上がっていきました。

「同友会活動におけるインターネット活用にあたっての考え方」とは、「①インターネットを会活動の発展のために活用する、②同友会理念を会内外へ知らせる、③管理・運用の責任、④更新、相互リンク、⑤著作権やプライバシー、⑥ウイルス対策など情報セキュリティー」の6点にわたって、同友会としてインターネットを活用する際の考え方を示したもの。