中小企業憲章と私

街の歴史の中に息づく小売店とともに

静岡同友会広報・情報化委員 竹内 昭八((株)タケウチ会長)


 私がEUの「小企業憲章」を詳しく知ったのは、2004年4月、季刊『中小企業問題』誌上での大林弘道・神奈川大教授のインタビュー記事です。

 「中小企業はヨーロッパ経済の背骨である」の前文から始まる「シンク スモール ファースト」の精神に大変な衝撃を受けました。そして大企業主導の経済ではなく、小企業を発展させることが21世紀の経済であるという、このEUの決意に感動しました。

 当社は日用品雑貨の地方の卸問屋として、地域の小売店と76年の取引を積み重ねてきました。激しい外圧の中、2000年大店法の廃止から「まちづくり3法」といわれる大型店立地法へと変わり、規制緩和の名の下に、事実上の大型店出店自由となりました。

 無差別に出店する大型店の歯止めの無い価格競争は、地域の小売店の売上激減とそれに伴う廃業倒産が相次ぎ、当社も売上減少と貸し倒れに苦しみました。経産省04年の統計速報によれば、2年間で6万の小売店が姿を消し、一方で人口1人当たりの売り場面積は増え続けています。全国日雑卸の組合に89年で1540社加盟していましたが、04年に569社となり、一方で支店が微増していることは、いかに合併、廃業がすさまじかったかがわかります。

 このような状況の中で地域の卸売業として生きてきた当社も、その街のシャッター通り同様に、将来の方向を見失っていました。しかしEUの「小企業憲章」に勇気づけられ、同友会が提唱する日本の「中小企業憲章」を作る運動の中で、改めて自社の地域における役割りと進むべき方向が見えてきました。

 それは、街の歴史の中に息づいてきた小売店とともに、地域経済の担い手としての自覚と、地域のコミュニティを再構築していく共通の目標を共有して、「競争的共存」の関係を築いていくことが必要だということです。

 卸も小売店もそれぞれが地域の生活者である以上、私たちのビジネスが街の活性化にどれだけ貢献できたかを競うものです。

 「焼きそば」で有名な当富士宮市では、「ご当地グルメ」のB1グランプリが6月に開催されます。各地自慢の「食」の祭りで静岡同友会のメンバーも参加し、10万人のにぎわいが予想されています。街おこしの輪が大型店には無い人々の交流の場を創り出すでしょう。

 私たちは、実践を通して地域社会に有用な流通として認知されるべく努力していきます。当社の中小企業憲章実現への道は大型店問題に集約されますが、その競争至上主義的な市場を、小売店、生活者そして地域の関係諸団体と共に秩序ある市場に変革していきます。

 中小企業が生き生きと活動できる社会を目指すことが、日本の社会のあり方、経済のあり方を改革してゆくことにもつながっていると思います。

*竹内昭八氏は、7月5〜6日、香川で開かれる「中同協第39回定時総会」第12分科会「中小企業憲章学習運動の今後の方向と制定運動の展望」で、報告者を務めます。

「中小企業家しんぶん」 2007年 5月 15日号から

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