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【16.05.25】最近の中小企業振興基本条例制定5つの特徴

2015年1月から1道12県と35市6町1村で制定

 中同協は、中小企業振興基本条例(以下、振興条例)の制定を推進しています。本稿は、現時点での振興条例の制定状況を概観し、新しい条例の特徴は何かを明らかにします。(中同協事務局 瓜田 靖)

全国で条例制定の動きが活発に

 振興条例は、県レベルでは、2015年に石川県、長崎県、岩手県、宮城県、福岡県、兵庫県、島根県、栃木県の8県、2016年の現時点では山梨県と岐阜県が制定されています。ただし、「新潟県小規模企業の振興に関する基本条例」と「北海道小規模企業振興条例」は「小規模企業」で制定され、振興条例の数にはカウントされていません。

 県レベルでは2002年に埼玉県が初めて制定して以降、現在40道府県が振興条例を制定しています。未制定の都県は、群馬県、東京都、新潟県、静岡県、広島県、高知県、佐賀県の7都県になりました。はたして、全都道府県にまで振興条例が行き渡るのか。非常に興味のある課題です。

 また、市区町村レベルでは、2014年に14、2015年に34、2016年に8(4月現在)と自治体数が年を追うごとに増えてきています。現在、172市区町村(137市17区17町1村)です。

 振興条例は、「理念条例」と呼ばれています。「理念条例」とは、行政や地域の基本的な考え方、姿勢や枠組みを提示したもので、具体的なルールや数字を決めたものではありません。なぜ、「理念条例」として制定するのか。中小企業を大事にする地域として行政、地域全体の姿勢を中長期的に明示することができるなどのメリットがあるからです。このような長所に気づいた自治体から「宣言」をしていっているわけです。

 以上のように、県レベルでも市区町レベルでも条例制定が最大の規模に達したことが第1の特徴です。

 第2の新しい特徴は、小規模企業への配慮がより明確に位置づけられるようになったことです。「○○○中小企業・小規模企業振興条例」という名称の条例が2015年ころから急増しました。2014年6月の小規模企業振興基本法の制定を踏まえ、人材や資金といった経営資源に制約があり、高齢化、国内外の競争激化などさまざまな構造変化を受けやすい小規模企業に対する支援を推進する観点から、「中小企業」と「小規模企業」を並記したものです。

 しかし、先に見た新潟県の場合のように、小規模企業振興基本条例は制定しても中小企業振興基本条例はまだ制定していないということもありえるのです。

東日本大震災被災県では「復興」が掲げられる

 第3の特徴は、被災県での振興条例に東日本大震災の復興が入り始めていることです。例えば、福島市の場合、「施策の基本方針」の項に、「市は、東日本大震災からの中小企業の復興再生に向けて、事業継続支援、風評払拭等の施策を講ずるものとする」とあります。

いわき市は、項目として独立し、「東日本大震災からの復興及び創生」として「市は、東日本大震災からの復興及び創生に向け、国および県と連携を図りながら、次に掲げる施策その他必要な施策を重点的に講ずるものとする。(1)被災した中小企業・小規模企業の事業継続及び業績の回復のため、産業インフラの整備並びに企業による施設等の復旧及び整備を促進すること。(2)観光、農林水産業、製造業等における風評払拭のための対策を推進すること。(3)原子力発電に依存しない地域社会を目指し、再生可能エネルギーを核とした産業振興を図ること。(4) 東日本大震災からの復興及び創生に関連する産業の集積を図ること」という文面になっています。

中小企業と教育の結びつきを規定

 第4の特徴は、教育活動の拡張が見られることです。これまでは、教育機関の定義を「大学及び高等専門学校」としている場合が大半でしたが、新潟市や松山市、いわき市などにおいては、学校教育法に規定する小学校・中学校・高等学校及び特別支援学校も併せて定義しています。この定義のうえ、松山市においては「学校の自主的な協力」として、「学校は、自主的に、職場体験活動その他職業に関する理解を深める学習等を通じて地域の次世代を担う人材の育成に協力するよう努めるものとする」ということが書かれています。もちろん、「前2項の規定による協力は,学校その他教育に関係する者の自由かつ自律的な意思のみに基づいて行われるものとする」という規定は忘れてはいません。

 以前は教育委員会と一緒に活動することは難しかったのが振興条例が規定することで拡張されています。

 第5の特徴は、石川県や長野県の振興条例の中に、労働団体の規定が初めて採用されたことです。例えば、長野県の場合、「労働団体等の役割」として、「労働団体は、労働者の一層の勤労意欲の向上等を通じて中小企業の発展を図るため、中小企業者が行う労働環境の整備等に協力する役割を果たすよう努めるものとする」としています。

 さらに、「中小企業の労働者は、中小企業が重要な存在であることを理解し、その就業する中小企業の将来をその経営者とともに考え、当該中小企業における自らの役割を自覚し、自らの能力の向上を図ることを通じて、中小企業の発展に寄与する役割を果たすよう努めるものとする」とまで書いています。

 このように、県が「宣言」したことは中小企業家にとって非常に励まされることではないでしょうか。

 以上のように、振興条例は年々発展を遂げています。

2015〜2016年4月までの条例制定状況

2015年 都道府県

「ふるさと石川の地場産業を担い地域経済を支える中小企業の振興に関する条例」、「長崎県中小企業・小規模企業の振興に関する条例」、「岩手県中小企業振興条例」、「新潟県小規模企業の振興に関する基本条例」、「宮城県中小企業・小規模企業の振興に関する条例」、「福岡県中小企業振興条例」、「兵庫県中小企業の振興に関する条例」、「島根県中小企業・小規模企業振興条例」、「栃木県中小企業・小規模企業の振興に関する条例」

2015年 市町村

「宮城県・仙台市中小企業活性化条例」、「北海道・根室市中小企業振興基本条例」、「北海道・北斗市中小企業振興基本条例」、「静岡県・富士宮市中小企業振興基本条例」、「鹿児島県・霧島市中小企業・小規模事業者振興条例」、「富山県・南砺市中小企業・小規模事業者振興基本条例」、「山形県・米沢市中小企業振興条例」、「山形県・天童市中小企業振興条例」、「和歌山県・和歌山市産業振興基本条例」、「新潟県・聖籠町小規模企業振興基本条例」、「徳島県・徳島市中小企業振興基本条例」、「岩手県・北上市地域産業振興基本条例」、「福井県・越前市中小企業振興基本条例」、「長崎県・平戸市中小企業・小規模企業の振興に関する条例」、「福岡県・田川市中小企業振興基本条例」、「愛知県・大府市中小企業の振興でまちを元気条例」、「愛知県・常滑市中小企業振興基本条例」、「愛知県・豊明市小規模事業者振興基本条例」、「沖縄県・宜野湾市中小企業・小規模企業・小企業振興基本条例」、「神奈川県・川崎市中小企業活性化のための成長戦略に関する条例」、「沖縄県・南風原町中小企業・小規模企業振興基本条例」、「福島県・福島市中小企業振興基本条例」、「青森県・三沢市中小企業振興条例」、「北海道・新得町産業振興基本条例」、「北海道・音威子府村中小企業振興基本条例」、「山梨県・韮崎市中小企業・小規模事業者振興基本条例」、「静岡県・磐田市中小企業及び小規模企業振興基本条例」、「静岡県・三島市中小企業振興条例」、「山口県・山陽小野田市中小企業振興基本条例」、「秋田県・美郷町中小企業振興条例」、「埼玉県・川越市中小企業振興基本条例」、「熊本県・益城町中小企業振興基本条例」、「新潟県・十日町中小企業・小規模企業振興条例」、「大阪府・四條畷市産業振興基本条例」

2016年 都道府県

「山梨県中小企業・小規模企業振興条例」、「北海道小規模企業振興条例」、「岐阜県中小企業・小規模企業振興条例」

2016年 市町村

「福島県・いわき市中小企業・小規模企業振興条例」、「福岡県・飯塚市中小企業振興基本条例」、「大分県・日田市中小企業振興基本条例」、「大分県・豊後高田市中小企業振興基本条例」、「北海道・室蘭市中小企業振興条例」、「新潟県・村上市中小企業振興基本条例」、「新潟県・佐渡市中小企業・小規模企業振興条例」、「山口県・柳井市中小企業振興基本条例」

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