講演録

人を生かす経営と中小企業憲章
〜「3つの目的」の総合的実践で、豊かな地域づくりをすすめよう〜

(株)大橋製作所 代表取締役 大橋 正義氏(中同協政策委員長)

 2006年10月28日に行われた広島同友会・第21回広島県経営研究集会・第3分科会での大橋正義氏の報告要旨を紹介いたします。

大橋製作所 4つの特徴

 大橋製作所の特徴をまとめると4つになります。1つは、中小企業のメッカである大田区で、精密板金からスタート。同友会で学んだ経営指針の成文化と実践を軸に、コア技術製品の育成と開発を実現する人材育成を一貫して追及してきたことです。精密板金加工とハイテクオリジナル製品の開発製造販売を複合展開しています。また、同友会への参加が産学官交流につながり、第二創業、新規事業となる自社製品の源流機を生むことになります。

 2つ目は、差別化技術による事業の多角化と経営の自立化を追求してきたことです。単なる受託加工だけではなく、製品の開発設計から完成組み立てまで、一貫した業務展開が可能となり、さまざまな社会、産業との接点を多角的に持つことが可能になりました。

 3つ目は、1991年、バブル経済の崩壊を契機にして、「環境創造型の企業づくり人づくり」を10年ビジョンの中で展開してきたことです。80年代に開発した自社製品の源流機は、携帯電話、パソコン、プラズマディスプレイなどの画面を動かすICを、パネルや基板などに搭載するための機械装置に結実し、現在では、東南アジア、北米、ヨーロッパへと展開しています。1998年に開発した新製品は、99年にiモード、トヨタビッツとともに、日経優秀製品賞を受賞しました。大田区の名も知れない大橋製作所が、世界展開するまでになりました。

 4つ目は、オール世代社員による全員参加の経営になっていることです。知人からの紹介で、豆腐屋や畳屋を営んでいた方が入社したり、大田区内の同業者で廃業された経営者や、職人という技術者も入社しています。また、大企業の重要なポストで活躍し、ベンチャー企業経営を担っておられた方が入社されたり、200名程度の企業経営に実績をもちかつ大変な技術力を持つ方が入社され、この方が中心になって、自社製品の源流機が誕生しました。同友会の共同求人で毎年新卒を採用していますので、10代の若い人から最高記録では84歳の社員までユニークな集団になっており、それぞれが持ち味を生かして働いています。

経営環境を主体的につくる

 同友会へ入会して間もなく、経営指針をつくる勉強会へ参加し、そこで経営環境の分析が重要だと学びました。自社はどのような状況の中に置かれているのか、今後どうなっていくのか。働いている人の労働条件はどのように変わり、それがどのように企業負担にかかわってくるのか。そのためにはどのような企業組織をつくり、どのように対応していかなければならないのか、このような経営環境の分析ができてこそ、安定した企業づくりができるのです。

 このことがきっかけで、政策委員会や地域ビジョンの策定会議にも参加するようになりました。そして、大田支部でもビジョンを考えていく必要があるということになり、21世紀大田中小企業政策研究会(21研)をつくりました。21研では、先の変化を読み具体的な行動に移せるよう、経営環境を分析する能力をつけていく勉強をしました。

 まず、足元である自社の経営分析を行う。次に置かれている地域の変化を見定める。次に、大田区の変化を捉える。産業は、産業政策は、中小企業政策はどのように変わろうとしているのか。次は、東京都、日本、そして世界という風に視野を広げていきます。今度は、その逆に、世界から、日本、東京、大田区を見て、自社に落とし込んでいく、こんな作業を毎月継続的に行い、経営環境を分析する能力を身につけました。

 21研を通して感じたことは、本来、多数者でありさまざまな場面で中小企業が主役であるはずなのに、なぜ主役になりきれないのか、ということです。元来、日本人の気質として、自分たちが必要な社会を自分たちで決めるのではなく、決められたものを享受してその中でやっていくという社会でした。今こそ、そこを私たちの手で変えていく必要があるのだと思います。つまり、環境は人から与えられるのではなくて、自分たちで主体的に創り上げる、私たちが環境をかえていけるという立場に立って行動を起こしていくときだと思います。

中小企業を取り巻く情勢

 ご存知の通り、中小企業は雇用では、就業人口の7〜8割を雇用しています。また、1996年から2001年における雇用変動状況は、企業規模が小さくなるほど増加率が多くなっています。つまり、雇用の担い手、源泉は、中小企業にあるという現実です。この傾向は、アメリカもヨーロッパも同様です。また、多様な働き方が提供できるのも中小企業です。

 さらに、新しい産業を興しているのはほとんど中小企業です。しかし一方で、新しい産業を中小企業が生み出しても、市場化して利益の対象になると、その市場に大企業が参入してくるという問題があります。これを可能にしたのが実は規制緩和なのです。

 さらに重要な問題は、開業率と廃業率の動向です。開業率と廃業率が驚異的に乖離してきています。企業の数が減り続けているという現象が起きているのは、先進国の中で、日本だけです。

 1999年に中小企業基本法が改正されて以降、状況はさらに悪化しています。それまでの基本法は、中小企業全体を対象にしていましたが、99年の改正以後は、「意欲のある」中小企業を対象にする方向に転換しました。それは、これまで、中小企業は大企業の補完的な役割という立場でしたが、大企業がグローバル化する中で、国内の中小企業にその役割が薄まり、中小企業育成の必要がなくなったとの立場に立っているからです。その具体的な結果が、開業率と廃業率の乖離という形で現れ、結果として雇用を担い経済を支えている中小企業の数が減ってきているという現実です。

 そして、中小企業に対する国の予算は減り続けています。これだけ多数派で、経済や雇用に圧倒的な責任を負っている中小企業に対して、予算では0.3%ほどの位置づけでしかないという現実です。現実の方向と、国が向かっている方向がこれだけ違っているのです。

世界に先駆ける同友会型経営

 わが社は、フィンランドの大手メーカーと取引を始めるにあたって、先方から20項目を超える確認書の提出を求められました。社員にどう報いるのか、社会にどう責任を果たすのか、どのような経営理念なのかなどの項目が並んでいます。まさに、社員や社会に向けた責務、経営理念を問うことが取引の条件になっていることに驚きました。これは、間違いなく国際的な流れです。この確認書の問いの中身は、まさに同友会が提起している21世紀型企業そのものです。つまり、私たちが行っている同友会の日常的な取り組み、社員教育や共同求人、経営理念・経営指針成文化などは、グローバル化の積極面から見ても、非常に意義深いことだと言えます。

 また、同友会は、経営に真摯に取り組み、しっかりとした経営をやっている経営者が多いと、行政からも高く評価され、中小企業振興基本条例などを検討していくメンバーに同友会が加わるという状況が、全国に出始めています。同友会の「3つの目的」に向かう、良い会社、良い経営者が増えてくるということは、社会との信頼関係が生まれてくるということになります。共に育つということが、社員と経営者の関係だけではなく、行政や社会との共に育つ関係づくりという意味合いを持ち始め、自主民主連帯の「連帯」がまさにここに生きてくるという状況になり始めています。

「3つの目的」の総合実践こそ中小企業憲章制定への道

 中小企業が経済や雇用の担い手としてその責任を一社一社が全力を挙げて取り組んでいく、しかし、それでも自助努力では解決できない問題があるとすれば、その問題がどのような社会であれば解決していくことができるのかを一人ひとりが考え、それを共通の課題としてまとめ、声を上げ行動に移していくことが中小企業憲章の制定運動だと思います。

 同友会が質的に前進するためには、一社一社が良い会社良い経営者に取り組み、地域の優れた経営者の集まりは同友会だといわれること、同友会型の中小企業がたくさん増えること、自主民主連帯というかかわり合いの中で、行政や大学の方も安心して私たちのところへ足を運べるという共に生きる関係を築くことです。そういう関係が生まれてくれば、同友会が質と量も前進し、「3つの目的」の総合的実践という大命題につながり、真に豊かな地域づくりにつながるのだと思います。

(文責 広島同友会事務局 源田)

(広島同友会発行「同友ひろしま」No293、2006年12月20日号掲載文を一部加筆訂正しました)

このページのトップへ ▲

同友ネットに戻る