2001年度国の政策に対する中小企業家の要望・提言

2000年5月吉日
中小企業家同友会全国協議会 会長 赤石義博

中小企業政策への基本姿勢

 私ども、中小企業家同友会全国協議会[略称・中同協]は、1969年(昭和44年)設立以来、自助努力による経営の安定・発展と、中小企業をとりまく経営環境を是正することに努めて参りました。その一環として1973年(昭和48年)以降毎年、国の政策に対する要望・提言を、政府各機関とすべての政党および国会議員にお伝えし、懇談を積み重ねて参りました。

 現在国際経済は、市場原理万能主義がグローバリズムというアメリカ化の別名として急速に展開、自動車、金融に限らずあらゆる産業の産業地図が塗り変わり、少数の国際的大企業が市場分割をはかる集中化傾向が進んでいます。このような流れは経済の国際化が進展している日本の国内・地域にも押し寄せ、市場原理万能論による熾烈な競争戦がたたかわれ、この過程で日本の金融構造、産業構造、市場構造、財政構造などが大きく変わり、市場原理万能主義がもたらす所得格差や雇用不安などの歪みが顕著になってきました。

 さらに日本経済は、1997年後半以降景気後退が続き98年、99年と低迷していましたが、大企業が行なったリストラ効果により、大企業では雇用なき景気回復現象がでてきました。しかし、1990年代の長期不況の影響を最も厳しく受けた中小企業の経営環境は依然不透明であり、2000年も水面下で不安定な動きが続くものと予想されます。日本経済の本格的回復は中小企業の景況好転なしにはあり得ないといってよいでしょう。

 こうした経営環境をめぐる動きの中でとくに注目される事態が二つあります。一つは投機資金として国家間を移動する国際短期資金の動向です。97年のアジア通貨危機が教えることは、これら短期資金の急速な移動は一国経済を根底から揺るがし、混乱に陥れるので野放しにしてはならないということです。資金の流れを正すための国際ルールを確立して資金の投機的動きが世界の経済の動揺につながらない防御壁を構築しなければならないことです。

 もう一つは赤字が一方的に膨らんでいる日本の財政問題です。大量に増発し続ける赤字国債の発行残高は、99年末には2倍の経済規模を持つアメリカを上回り、ついに世界最大の359兆円に達しました。赤字公債発行によりこれだけ財政を出動させても景気回復が実感できないことは、財政とはいったい何に使われるべきなのかという根本問題を突きつけています。とくに、地方財政悪化が一段と進む中で財源委譲なき地方分権化が推し進められようとしているだけに事態は深刻です。

 このような時代にあって、私どもは、日本の中小企業が新たな社会経済的役割を果たすことが一つの焦点になってきていると考えています。中小企業が国民の暮らしを支え、空洞化・疲弊化が進む地域経済の再生と日本経済の「質」を高める中心的担い手として、活力のある豊かな経済社会を創造していくために持てる力を発揮していくことがその内容です。こうした時代の要請に応えるため、これからの中小企業づくりの課題を、私どもは次のようにとらえています。

 第1に、自社の存在意義を自覚し、社会的使命感に燃えて事業活動を行ない、国民と地域社会からの信頼や期待に高い水準で応えられる企業。

 第2に、社員の創意や自主性が十分に発揮できる社風と理念が確立され、労使が共に育ちあう、活力に満ちた豊かな人間の集まりとしての企業。

 私ども中小企業家同友会は、このような企業のあり方に向かって努力することこそが、当面の経営課題を解決し、21世紀における企業と時代の展望を確かなものにする道であると確信しています。

 したがって、新中小企業基本法下にあって国の中小企業政策は、ベンチャー企業の育成や創業だけにとどまらず、健全な企業家精神を持つ多様で多数の中小企業の「経営革新」等の自主的経営努力を着実に実らせるために、現実的かつ適切にバックアップすることに努めなければなりません。

 国全体の経済政策としては、日本経済において中小企業が果たしている役割を正当に評価し、従来型の政策比重の置き方を抜本的に転換させ、中小企業政策を産業政策の「エンジン」とする中小企業重視へ、姿勢転換を明確に示すことが求められます。

 以上の認識に基づいてここに政策要望・提言を提出する次第です。

1.中小企業重視への政策転換を推し進めつつ既存企業への積極的支援を具体的に

(1) 中小企業は日本経済において、企業数(99.4%)及び従業者数(77.6%)で量的に多数を占める存在であるうえに、これまでの大企業中心の大量生産・大量消費の経済システムに替わって、国民経済の豊かで健全な発展を質的に担っていく中核的存在として見直されている。しかし、政策的位置づけでは新中小企業基本法においてもこれまでの補完的役割を変更したかどうかは不明瞭である。そこで改めて中小企業政策は、転換期の日本経済に果たす中小企業の重要な役割を正確かつ正当に評価することを通して、その政策比重を補完的役割から中小企業重視へと抜本的に転換させること。

(2) 中小企業に関連する予算を評価にふさわしいレベルまでに急速に拡充すること。国の2000年度総予算84兆9871億円に占める中小企業対策費1943億円の割合は0.23%と極めて低いレベルが継続している。

(3) 新中小企業基本法にもとづく具体策として、自立的中小企業へ向けた既存企業のさまざまな「経営革新」の取り組みに対して中小企業の実態に即した支援を積極的に行なうこと。

(4) 中小企業の範囲の基準として「独立性」を厳格に適用して、形式的には中小企業であるものの、実際には大企業の分社等の大企業保有企業を中小企業の範囲に入れないこと。

(5) 地域経済の活力を地域の中から築いていく地方分権において、権限委譲に比べて財源委譲が遅れていることがさまざまな問題を引き起こしつつある。そこで国税の一部を地方税に回すなど、適切な財源委譲措置を速やかにとること。

(6) 政策の具体的立案にあたっては、住民や中小企業等地域における現場の声を正当に反映させるために、これら当事者の参画を積極的に図ること。

(7) これらの改善を率先して実行できるようにするために、担当省庁の政策担当者を数年間は同一セクションに専念させる人事的措置をとること。

(8) 現在実施されている各種補助金の有効性を調査し、中小企業の現場の声を取り入れた方向へ根本的に再検討すること。

2.地域の雇用を維持し地域経済を活性化させ力強い景気回復をはかる

(1) 中小企業が地域で行なう多種多様な新規事業、事業転換、ネッワーク化、自立化などのさまざまな「新しい仕事づくり」――それらは市場としては小さいが多種多様な事業であり、地域経済と国民生活を豊かにすること、地域雇用を維持しさらに拡大することにつながっている――に対して景気回復策としても特別に位置づけて積極的な振興を行なうこと。

(2) 大手ゼネコン中心の国家的大型プロジェクト方式による従来型公共事業ではなく、生活基盤整備、社会福祉重視、環境保全型等、生活密着型の公共投資は地域雇用に果たす役割が大きい。したがって、公共投資の地元発注比率を高くしながら、事業内容をこうした方向へ抜本的に転換させること。

(3) 短期的な個人消費回復策としてとくに効果が高いといわれている消費税率を景気の回復が明らかになるまでの期間3%に戻すこと。

(4) 国民の消費回復策のベースになる政策として、1:雇用不安を解消すること、2:国民の将来への不安を取り除くようなの社会保障制度(介護保険、年金等)にすることの2点を有効な景気対策(消費回復策)として位置づけて実行すること。

3.国民と中小企業・地域に優しい金融システムを

(1) 「貸し渋り」をなくし、日本の金融システムを国民と中小企業・地域にとって健全かつ社会的に望ましいものにするために、1:金融機関の公共性を維持させる、2:銀行と借り手の取引慣行の歪みを是正する、3:裁量型金融行政を利用者参加型金融行政に転換させなければならない。そのために、「円滑な資金需給」、「利用者利便」、「経営の健全性」の観点にたって必要な情報を収集して金融機関の活動を評価することを監督官庁に義務づけると同時に、その評価と判断理由を利用者が入手しやすい形で公開することを義務づける「金融アセスメント制度」を制定すること。

(2) 金融機関の合併・破綻によって生じる取引先中小企業に対する事業資金のパイプを細くすることなく、資金供給の継続を保証する法制化措置をとること。

(3) 金融監督庁の各金融機関に対する「検査マニュアル」の一律適用を改めて中小企業向け融資を行なう金融機関に対しては実情にあった別の適用にすること。

(4) 国の「貸し渋り」対策が中小企業に有効に働く政策へ、とくに中小企業金融機関である地域金融機関に行き渡る政策へと改善すること。そのためにも、金融機関の中小企業への「貸し渋り」の根源にある自己資本比率を唯一の基準とする「早期是正措置」の適用を国内業務を行なう金融機関に限って直ちに見直すこと。

(5) 「ペイオフ」は2002年4月(あるいは2003年4月)解禁に延期されたが、中小企業にかかわりの深い金融機関から預金が流失して企業の融資がたたれるなど、中小企業の企業存続を不安定化させる要因となるから、預金保険法の適用を猶予すること。金融機関の健全性とペイオフは切り離してとらえるべきである。

(6) 債権回収銀行に回った融資の回収にあたっては節度を持った対応をするように指導されたい。

(7) 民間金融機関および政府系金融機関(信用保証協会を含む)のいずれにおいても融資審査にあたっては、物的担保優先主義を改めて、経営指針の確立、経営者の経営能力、企業の技術力、開発力、市場性、社風等を総合的に評価するシステム(総合評価システム)への転換を早急に図られたい。さらに、その評価の公正さを保持するために、金融機関以外の第三者が加わった融資審査のあり方をチェックするシステムを設けること。これは先行的に政府系金融機関からはじめること。

(8) 民間金融機関では拘束預金が依然として継続されている。これは、「取引上の優越的な地位の濫用」にあたり、独占禁止法に違反するおそれがある。公正取引委員会、全国銀行協会連合会などを通じての監視と指導の強化を改めてすすめること。

(9) 「特別保証制度」は、現行の保証制度期間を1~2年延長し、返済据置期間も2~3年延長し、保証限度額を2倍程度引き上げること。また、返済期間は10年と返済しやすい制度に改め、返済猶予を受けた場合でも再利用可能な制度に変えること。

(10) 中小企業に対する「貸し渋り」の発生は、中小企業の金融の不安定性と政府系金融機関の役割の大きさを改めて実証した。政府系中小企業金融機関は整理統合を行なうのではなく、設立時の原点に立ち返ってそれぞれの金融機関の特性を生かして育成する政策方向をとること。その上で、政府系中小企業金融機関への一般会計等からの政府出資及び財政投融資からの融資を大幅に増額して、貸付限度額の引き上げ、長期低利の制度融資等の拡充を図ること。なかでも、1:市場金利の動向に連動した既融資分の借換制度を設けること、2:一般会計から市場金利との差分について利子補給を行なう制度を設けること、3:制度融資全体の手続きを簡素化すること、以上の3点を緊急に実施すること。

(11) 中小企業信用保険公庫の保険準備基金、融資基金及び信用保証協会基金補助を大幅に増額し、普通及び無担保保険限度額の引き上げと保険料・保証料の一層の引き下げを実施すること。

(12) 信用保証協会が行なう「信用保証」の重要な役割は、担保力に乏しい中小企業金融の円滑化をはかり、中小企業を健全に育成するという信用補完機能にある。したがって物的担保優先主義を克服した信用保証協会こそが本来の姿である。「特別小口融資」については保証料免除措置導入を検討すること。

(13) 「制度融資」に関する「連帯保証人制度」について、連帯保証人の要らない制度融資のいっそうの拡充をすすめること。

(14) 既に受けている制度融資の返済について、長期不況の継続に対応して返済猶予期間を延長する措置を取ること。

(15) 本来中小企業向けに設けられている制度融資を大企業が経営権を握る子会社に融資されてしまうということがないように、中小企業の独立性の基準を厳格にして審査すること。

4.透明で公正な市場のルールに基づき取引を適正化して公正競争を

 規制撤廃・緩和の本格的な進行によって競争の激化、大都市圏と地方圏の経済力格差の激化、大企業と中小企業の経済力格差の過度な拡大など市場の歪みが発生し、中小企業の存立条件が縮小している。豊かで活力ある経済社会の創造は「市場原理の尊重」のもとに築かれるが、このような市場の歪みは是正されなければならない。そのためには規制改革の視点から透明で公正な市場のルールをつくり、その運用を厳格にしなければ公正な競争は担保されない。

(1) まず、独禁法(独占禁止法)の改正及び運用強化を行なうことによって、中小企業の公平な市場参入の機会が確保されなければならない。それにはなによりもまず中小企業に不当な不利益を与える不公正取引(とくに大企業と中小企業との間における)に対して市場のルールを守るべく具体的で「厳正・迅速」な政策的対応が不可欠である。

(2) さらにそのルール遵守のために、公正取引委員会の規模と権限の強化と司法(裁判所)機能の強化および独禁法の私訴規定のさらなる充実を図って、ルール違反防止と不公正取引の是正・防止を厳正に実施すること。

(3) 1997年12月から始まった純粋持株会社解禁は、多様な形態による大企業の経済力集中化を促進させて過度集中、大企業による市場寡占を引き起こす危険性が高い。その野放しは国民経済の歪みの増大、中小企業の大規模消滅につながるので、独禁法に過度集中に歯止めをかける明確な措置を入れること。さらに、2002年導入予定の連結納税制度は上記の危惧に拍車をかけることになるので、過度集中への明白な歯止め措置を講じない限り導入しないこと。

(4) 許認可手続きの迅速化、手数料負担の軽減など中小企業の日常業務の規制撤廃・緩和を行政手続法等を活用してすみやかに改善すること。さらに、行財政情報の開示を行なって透明度を高めること。

(5) 公正な取引の視点から以下の3点について取引条件の確立を図ること。

  1. 海外展開、低価格等を理由にした中小企業への一方的な発注の停止、大幅削減、取消、買いたたき、取引条件の変更などの不公正取引の実態を自治体と共同して正確に調査すること。その上で不公正取引発生にたいする適正化措置として、データの公表(企業名公表)を含む情報公開等の緊急対応体制と相談体制の整備を図ること。
  2. 下請取引の適正化は公正な取引のもとでこそ実現されるから、公正取引委員会は、独占禁止法や下請代金支払遅延等防止法など法律に沿って下請取引の実態を調査・監視し、強力に指導して健全な取引環境づくりに努めること。
  3. 独禁法の「優越的地位濫用」による「下請いじめ」規制を発動できるように整備すること。また、下請企業は親企業の発注に対応した生産設備・人員を抱えているので簡単に転換することができないから継続的下請取引の一方的解除には歯止めをかけことができる措置をとること。

5.日本の景気回復と市場創造をバックアップする税制

 2000年度税制改正は、従来のわが国の税制改正に比べると中小企業にも目を向けたものになり始めた。長引く不況の中で、経済を活性化させるためには大企業への支援政策ばかりではなく、中小企業への支援とベンチャー企業の育成の重要性にわが国の税制が目を向けたこと自体は評価されてよい。しかし、新規事業促進が中心で既存企業への配慮が少ないこと、中小企業にとって重い負担となりつつある消費税の一層の引き上げが懸念されること、事業承継税制が不十分であること等の多くの不十分さも抱えている。何よりも大事なことは、個々の特別措置で微調整するよりも、税制の基本的な部分において応能負担原則を貫くことである。そこで中小企業の負担能力を適切に反映し、日本の景気回復と市場創造をバックアップする税制を実現すべきであるという視点から、現行税制の問題点と早急に改善すべき方向をここに提言する。

(1) 法人税のあり方について

  1. グローバルスタンダードという国際的な水準に適合させるという考え方のもとに、99年度に引き続き2000年度改正において法人税率(37.5%→34.5%[99年度改正]→30%[2000年度改正])の引き下げがなされた。同時に担税力からみて実質的に負担が重い中小法人において一定の税負担の軽減(課税所得800万円以下の軽減税率28%→25%[99年度改正]→22%[2000年度改正])措置がとられたことは評価できる。しかし、課税ベースの見直しが不十分のまま税率の引き下げだけを行なったため、税収の空洞化現象が目立つようになっている。そこで、日本の未来を考えた税収構造として、グローバルスタンダード(国際基準)を唯一の基準とすることなく、大企業の本来の負担能力、財源の確保、財政の再建を考慮した、日本にふさわしい税制に改めることが必要である。
  2. 2002年を目標に連結納税制度の導入が図られようとしている。この制度は、親子会社の関係にある企業の利益を通算して法人税を計算しようとするものであり、赤字会社を抱えている場合、通算でこの制度を使う企業は税金の負担を免れることになる。同時に、連結納税制度は会社分割による純粋持株会社立ち上げにとってキーポイントとなっている。さらに、税制のループホール(抜け穴)を生み出すといわれ、既に導入している国では税収が大きく落ち込んでいる。この連結納税制度導入も、グローバルスタンダード(国際基準)が主たる理由になっているが、 このままでは大企業に有利に働くばかりでなくグループを通じた租税回避など税制を大きく歪め、税収を減少させ、大企業と中小企業との格差を一層広げて健全な国民経済の発展に大きな障害となることが懸念される。そこで連結納税制度導入は中止すること。
  3. 応能負担原則は法人税においても実現すべき原則であり、次のような累進税率の導入を提言する。すなわち、所得1500万円まで15%(資本金1億円未満)、所得5000万円まで25%、所得5億円まで34.5%、所得5億円以上40%。ただし、個人にたいして法人が相対的に有利になることを是正するために、現行の法人税を個人事業も対象に含めた企業税(仮称)に改めることも税率と合わせて検討すること。なお、このような累進税率を導入した場合でも、財政にたいしては中立すなわち増減税ゼロになる。
  4. 交際費課税については、1999年度改正から中小企業の損金算入枠が20%削られたが、1994年度以前の「全額損金算入」に戻すこと。さらに、交際費の範囲を明確にして、中小企業の経営の実態に即した交際費課税になるように改善を図ること。
  5. 減価償却においては、特定情報通信機器の即時償却制度(パソコン税制)の適用期限の1年延長により100万円未満のパソコン取得の損金算入が認められているが、機械・什器備品等の少額減価償却資産の取得基準が、20万円から10万円未満に引き下げられている。これは時代に逆行する措置であるから、元の20万円の基準に戻すこと。
  6. 役員報酬や役員退職金については「不相当に高額」と認定された場合、損金算入が否認されることになる。しかし、その基準が不明確で企業家として判断に苦慮させられるので、この基準を明確にするか、あるいは、もともとの規定の精神である企業の自主的判断を尊重することに立ち返って、原則として否認できないことを明記すること。
  7. 役員の親族である使用人に対する過大給与について損金の額に算入しない規定が作られ、この規定により過大報酬に対する否認規定が使用人にまで広げられたが、役員の親族である使用人の範囲が不明確であり、過大給与の基準も不明確である。これでは事実上課税庁の裁量権限だけを広げることになるので、廃止すること。
  8. 役員賞与についても損金算入ができないが、賞与か報酬かの基準も形式的であり、実質的合理性を失っている。OECD諸国と同様に、役員賞与も報酬と区別することなく損金算入を認めること。
  9. 中小企業だけに課税されているといってよい同族会社の留保金課税は、一定額以上の内部留保金(少なくとも1500万円以上)に対して10%から20%まで通常の法人税に加えられる税制であり、その趣旨は、株主が少なく会社の意思を自由に出来るため企業が配当を行なわないで内部留保をすることで累進課税の所得税を不当に免れることがないように設けられたものである。しかし、所得税の最高税率が法人税と遜色がないほどに下降し、さらに貸し渋り等金融不安が常態化した金融環境の下にあっては、中小企業は積極的に内部留保の積み増しを実行しなければ資金繰りが難しい状況に追い込まれている。2000年度改正では同族会社の留保金課税を「創業10年以内中小企業」「新事業創出促進法の認定ベンチャー企業」について適用を停止したが、適用停止の範囲はベンチャー企業等に留まらず、すべての中小企業にまで拡げること。

(2) 消費税について

  1. 消費税が、1997年4月に3%から5%に引き上げられた結果、予想を上回る消費低迷を招き、平成第2次不況の大きな要因となった。こうした事態を考慮するならば、消費税率の引き下げで景気を回復させる姿勢を明確にすること。それにくわえて消費税廃止を含めた消費税の負担を軽減する措置―食料品など日常生活用品、公共料金のゼロ税率―を検討すること。また、将来の税率引き上げを予定するかのように、消費税の「福祉目的税化」がかなり具体化されつつあるが、国民生活に直接関連するだけに、税率引き上げにあたっては、国民の納得と合意を実施の大前提にすること。
  2. 消費税は他の税目と異なり、届出書等の提出の有無によって納税額に大きな影響が及ぶだけでなく、事業年度が始まる前に届出書等を提出しなければならない。そのためトラブルが急増している。そこで、これらの各種届出書及び提出期限については、事業年度が終了してから納税者が適切に選択できるようにすること。さらに、仕入税額控除については、「帳簿及び請求書等」の保存と、帳簿と請求書の両方の保存が必要になったことにより仕入れ税額控除が否認される傾向がでているので、従来のように「帳簿又は請求書等」の保存に戻すこと。
  3. 小規模法人、新設法人への配慮として以下の2点を実施すること。第1に、免税業者及び簡易課税業者の判定については、2年前を基準にすることを改めて当該事業年度の課税売上高を基準にした判断に変更すること。第2に、資本金1千万円以上の新設法人は、当初事業年度から課税事業年度となっているが、最低資本金制度との関連で、1千万円「超」に改めること。
  4. 急増している消費税の滞納に対しては、徴収に係わる売掛金の差し押さえ等、営業に大きな影響を与えるような対応を改めること。また、滞納があたかも消費者から預かった税金を中小業者が払わないでいるかのような大蔵省の宣伝がみられるが、これは事業者を納税義務者としている消費税の性格に反する説明であり、早急に是正すること。

(3) 所得税について

  1. 2000年度税制改正において最高税率の大幅な引き下げ(50%→37%)が行なわれたが、これが、所得税の本来持っている社会的な所得再配分機能を失わせるとともに、不況のための税収の落ち込みと併せて財政の困難性を拡大させている。租税負担の社会的公平性を確保する応能負担の原則に基づいた適切な課税と適切な税収の確保こそが健全なる国民経済の展開のために必要である。この視点から国民のライフステージに応じた柔軟な見直しを行なうこと。
  2. 低所得者に配慮した負担軽減措置の導入を実施すること。とくに基礎控除額は生活保護基準額に比しても低いのは大きな問題である(ドイツ連邦憲法裁判所の1992年決定はこのような基礎控除を違憲と判断している)。当面は基礎控除及び扶養控除を1人あたり70万円に引き上げる措置を講じること。また、現行の配偶者控除及び配偶者特別控除は一本化して、76万円を限度として所得に応じて段階的に控除額を減少させる方式(消失控除)に統一をはかること。これによりパート収入103万円の壁が取り払われ、141万円未満まで統一した配偶者控除を受けることが可能になる。
  3. 給与所得者と事業所得者同士の無用な誤解を解消するためにも、給与所得者に必要経費の実額控除選択制を導入すること。現行の特定支出控除制度は現実性に乏しいので、この制度を必要経費実額控除選択制に抜本的に改めることが望まれる。
  4. 給与所得者にたいする源泉徴収や年末調整のために、企業はかなりの負担を強いられている。納税義務者の納税義務は憲法に定められているが、源泉徴収の事務負担は別個のものであるから、このような負担にたいして一定の補償措置を取ること。
  5. 消費税率引き上げによって生じた低所得者の税負担の逆進性を緩和するために、所得税において消費税額控除(たとえば1人当たり3.5万円)を導入すること。
  6. 住宅取得特別控除制度が従来の6年の税額控除制度から15年の制度へと大幅に拡充され、建物だけでなく土地も対象に入り、さらに譲渡損失控除との併用も可能になった。しかしバブル期に土地家屋を購入した層は評価の減少に見舞われているので、減税措置を既存住宅へも抜本的に広げること。

(4) 中小企業の事業承継について

 アメリカは97年度税制改正で中小企業の事業承継を可能にする大胆な改革を実施したが、このような中小企業育成策が好況の一要因になっている。これに対して、わが国は抜本的な改革が一向になされず、相変わらず相続税の負担が中小企業において深刻な事業承継問題を生み出している。中小企業の事業承継が円滑に行なわれることは今後の日本経済の健全な発展に大きく寄与する。とくに、都市部の中小企業が安心して事業を承継して地域の街づくりに貢献できるように、相続税を抜本的に改革すべきである。こうした中小企業の声に圧されて現在、事業承継税制の導入が具体化しつつあるが、以下のような点に特に配慮した事業承継税制の導入を行なうこと。

  1. 相続税の基礎控除額を抜本的に改めること。高度成長によって地価が騰貴する前の昭和30年代は100件の相続事例のうち相続税の対象になるのはわずか1件(課税対象割合1%)であった。その後、地価高騰により相続税の対象となる割合が著しく増大した。富の再分配を必要とする一部の資産家に対する税である相続税の本来の姿に戻すためにも基礎控除を1億円程度に大幅に引き上げること。
  2. 事業承継は、事業自体の存続を前提にするから取引価額で資産を評価すること自体が問題である。ドイツ連邦憲法裁判所の95年6月22日決定も明言しているように、「企業に属する財産はそうでない財産より処分可能性が制約されている」。したがって、事業用資産については、事業を継承するという条件の下で以下のような事業承継猶予制度を設けること。
    イ)事業用資産については通常の評価額とは別に「事業承継価額」で評価する。
    ロ)事業承継者は事業用資産を「事業承継評価額」で評価した税額を納付し、通常の評価額で評価した場合の税額との差額は猶予される。
    ハ)10年以内に事業を廃止した場合は当該差額を納付する。
    ニ)10年以上事業を承継した場合には当該差額を免除する。
     なお、アメリカやドイツでは5年~10年の事業継続を条件とした事業承継税制を導入している。
  3. 株式評価については、自社株式は流通性がなく資金化が困難であることに加えて企業の存続を前提にすると、企業の利益水準に基づいた収益還元方式による評価が適切であるから自社株式の評価方法に収益還元方式を導入すること。
     なお、2000年度改正から類似業種比準方式の評価方法においてわれわれが提言してきたように、減額割合が大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5となったが、純資産価額方式の評価において、土地の評価は上記の「事業承継価額」とすることが、収益還元方式へ移行するまでの経過措置として残されている。
  4. 上記の整備を行なう間の当面の措置として、自己居住用の土地については、300m2までを非課税、個人所有事業用土地については、1000m2までは80%の軽減(1999年度改正から80%の軽減措置が200m2から330m2へ拡大したが、まだ不十分)という2点は、直ちに実施すること。
  5. 財産評価額については現在、財産評価基本通達など通達で定められているが、この評価額は相続税額の増減を決める基本的要素になっている。したがって、このような基本的事項は法律本文に規定するとともに、公正な評価が行なわれるよう、その方法を法定するなどの整備を図ること。
  6. 相続手続きに関する測量、分筆、登記、相続税申告費用などは、相続手続きに必然的にかかってくるものであり、その額も相当なものにのぼる。そこで、これら費用が取得財産を実質的に減少させるものであることを考慮して、相続税の課税財産からの控除を認めること。
  7. 贈与税の基礎控除については、1975年以来改正が行なわれていない。その後の土地建物の高騰をはじめ、住宅資金の贈与の特例の創設や、相続税の遺産にかかる基礎控除が漸次引き上げられてきた経過を踏まえて、贈与税の基礎控除を300万円に引き上げること。
  8. 贈与税の配偶者控除は、婚姻期間が20年以上の夫婦に限って認められている(現行1000万円)が、夫婦間の価値観の多様化や高齢化、社会環境が変化してきている。したがって夫婦間の財産形成の貢献度合などを考慮し、婚姻期間10年以上の配偶者控除額を1000万円とし、以後婚姻期間が1年増すごとに100万円増加させ、最高額を3000万円に改正すること。
  9. 相続税における保険金及び退職金の非課税限度額は法定相続人1人当たり500万円となっているが、残された遺族の生活や事業承継を考慮して1000万円に引き上げること。

(5) 地方税制について

 中小企業にとって自治体の政策は極めて影響が大きい。しかし、3割自治といわれていた従来の税制では自治体の固有財源がないために、多くは国の補助事業等を中心とした産業政策が地方レベルでも実施されてきた。各自治体が当該自治体にとって重要な中小企業育成政策を展開できるようにするためには、自治体の固有財源を充実させる必要がある。具体的にいうと、税収面では国が60%、地方が40%であるが、歳出面では国が35%、地方が65%程度と割合が逆転している。この65%について地方自治体の独自財源として運用されるようにすることなどが望まれる。その意味で、地方分権推進一括法における地方税制改革に注目してきたが、法定外目的税の創設程度の不十分な内容に止まってしまった。地域の実体に相応しい中小企業育成政策を自治体が独自に実施できるように、大幅な税源委譲が必要である。こうした視点から以下の提言を行なう。

[1]事業税

 政府税制調査会は98年4月に「地方法人課税小委員会」の設置を決めて法人事業税の外形標準課税の検討に入ったが、99年7月に発表された同小委員会報告によると、課税標準とされる外形基準は、事業活動によって生み出された価値(「利潤」+「給与総額」+「支払利子」+「賃借料」)とされ、2001年に導入する動きがこのところ急速に高まっている。仮に外形標準をこのような付加価値基準にすると、同一事業に対して消費税と事業税の二重課税になるばかりでなく、人件費比率が比較的高い中小企業ほど負担が大きく、さらに不況下で赤字経営を余儀なくされている企業にも課税されることになる。税負担能力がないところへの課税は、倒産や滞納の拡大につながるなど、もともと無理が生じるから、外形標準課税の導入は中止すること。

[2]固定資産税・都市計画税

  1. 固定資産税の地価公示価格に連動した評価引き上げは、多くの訴訟や自治体の反対決議にみられるように非現実的であり、納税者の負担能力に適合しない。また土地所有者のみならず土地建物賃料にも影響を及ぼさざるをえない。この間一定の軽減措置はとられてきたが、まだ不十分といわざるを得ない。固定資産においても負担能力に対応した収益還元による評価方式に徹底すること。さらに、都市居住・営業が確保されるためには都市計画と結びついた適切な軽減措置をとること。なお、都市計画財源のために徴収されている都市計画税の存在意義を明確にして、適切な都市計画財源として企業の経営環境確保のための都市形成に使用すること。
  2. 上記整備の間の当面の措置として、まず、次回の評価の価格時点は法律の定めるように基準年度の賦課期日である1月1日とすること。その上で基準年度の評価においては以下の措置をとること。
    イ)土地評価価格は、土地価格の下落が続いているので、a.地価の下落に応じて評価を引き下げる、b.評価方法は収益還元法による価格を上限とすることに改める。
    ロ)家屋評価価格は、現行の再調達価格に残存率を20%として償却額を控除する方式は実状と乖離しているので、残存価格をゼロとして残存率を算出するように改める。
  3. 評価について審査の申し出を基準年度だけでなく、第2年度、第3年度でも審査の申し出ができるように法律を改正すること。
  4. 固定資産の価格が下がっているにもかかわらず負担額が増えるのは納税者の納得を得られない。価格の下落を反映した負担になるような措置を講じること。
  5. :縦覧制度の趣旨は、評価基準の公開と評価額の公平性を保つものである。したがって、評価額の妥当性が検討できるよう、路線価公開をさらに徹底するとともに、自分(社)以外の土地も縦覧できるようにすること。
  6. 固定資産税の免税点を引き上げること。固定資産税の免税点は、同一市町村ごとに土地30万円、家屋20万円、償却資産150万円と定められている。この免税点額は1990年の改正で見直されたものであり、その後の評価額の引き上げや事業用設備資産の高性能化による価格上昇などを考えると不十分であるから、免税点を土地及び家屋は150万円、償却資産は300万円程度に引き上げること。
  7. 共有の固定資産に対する固定資産税の納税通知書はその共有者の代表に告知されているが、このような取扱いは共有者間における納税面で諸問題を引き起こすので、共有者ごとに納税通知をすること。

(6) 税務行政(国税通則法等を含む)について

  1. 行政手続法、情報公開法などが制定されているが、税の執行など「適用除外」特別規定があり、税務行政の公正さの確保と透明性において問題を残している。そこで、納税者と税務行政庁との間の信頼関係を築くために、税務行政の執行に関する手続き規定を、諸外国の例にならい納税者権利憲章の立法化か、国税通則法の改正によって早急に整備すること。
  2. 税務行政における法令、省令、通達の適用については、意見照会手続き(パブリックコメント制度)と課税庁の公的見解の事前照会手続(アドバンス・ルーリング)[既に国際課税問題に関して一部実施されている]を制度化すること。
  3. 国税庁が1996年から順次段階的に導入を進めているKSK(国税総合管理システム)は「すべての納税者について、税務行政の全国全業務について、納税者ごとに一元的に管理する方法」が基本的機能となっている。その内容及び運用については公開するなど透明性を保障するとともに、プライバシーの保護に関する制度を整備するなど慎重な運用を義務づける措置を講じること。また、住民基本台帳法が改正されたが利用範囲と利用制限について国民のプライバシーの保護が明確になっていない。このままではKSKシステムに連動し、将来「納税者背番号制」につながる懸念があるので、明確な利用範囲、利用制限の規定を設けること。
  4. 中小企業の景況の現状からして中小法人の法人税の延納及び地方税の徴収猶予制度と欠損金繰戻し還付措置(当該年度に欠損金を出した場合前年度の税額の一定割合が還付される措置)を復活すること。また、延滞税及び利子税の税率を現行市中金利の水準を基準とするよう見直すこと。
  5. 重加算税が、安易に賦課される事例が多発しているので、賦課決定の基準を明文化するとともに、賦課決定通知書にその理由を附記すること。重加算税は「隠ぺい・仮装」を行った納税者に対する行政上の制裁であるから、濫用は避ける措置をとること。

(7) 税の使途に関する情報公開

 われわれには納税した税がどこにどのように使われたかを正確に知る権利がある。非公開のため現在調べることが不可能な税金の詳しい使途についての文書を「公会計制度改善」として情報公開に努めるとともに、歳入と歳出の実態をわかりやすく国民に明らかにすることを目的とした報告書を速やかに刊行すること。とくに、財政投融資の使途の情報公開及び国、地方公共団体が取得した資産及び後年度負担を伴う資産を個別に明瞭に情報公開すること。また、金融機関への公的資金導入に伴ってゼネコンの債権放棄が行なわれたが、これが税の使途として公正なものであるか疑問である。さらに、近年のODA(政府開発援助)予算と補助金行政には不透明な部分が多すぎるので、補助金は個別の公表にとどまらず、その全体像を公表すること。ODA予算には事前チェックや使途の公表等が不可欠である。

(8) 低金利国債への借り換え

 景気対策という名目で国の借金になる国債の増発が理念なく実施された結果、国の借金(国債、借入金、政府短期証券の合計)は99年度末で約501兆5813億円と国内総生産(GDP、496兆3000億円)を初めて上回り、税収の約11年分に達した。2000年3月末の国債発行残高の年間金利にあたる国債費(21兆9653億円)は国の予算の25.8%となる。金利の1%削減は1兆円以上の財源になるので、財政法に基づいて既発国債の「期限内償還」を行なって低金利国債に借り換え、浮いた財源を景気対策等に投入するなど有効に活用すること。

6.新しい地域振興で空洞化を克服し地域産業・中小企業の活性化を

 大企業の事業所の撤退・閉鎖や海外移転などによって地域経済の空洞化がすすみ、地域集積・地域経済の衰退が進行している。その影響をできるだけ和らげ、新たなものづくり、新しい産業などを興して地域経済の再構築・再生をはかることが日本経済の大きな課題になっている。地域と共に歩む中小企業をその再構築・再生の中軸に位置づけて、地域の中小企業を重視する政策スタンスをとること。

  1. 地域経済の多くの部分は地域の住民生活に密着しているので、現在国に過度に集中している財政の権限と行政の権限を大幅に地方・地域に委譲する地方分権化を進めること。それにより、地域の実情に応じた空洞化対策、産業興し、都市計画、住環境整備、自然環境の保護などの規制の見直し(規制緩和・規制強化)などの実行が可能になる。ただし、その具体的な政策立案作業には地域住民と中小企業の現場の声を適切に反映できるように、制度的に当事者の参加を必要条件にすること。
  2. 大企業の事業所の突然かつ一方的な撤退・移転は地域経済に甚大な影響を与える。そうした工場移転、閉鎖などにあたっては、その計画段階から地元の自治体・地域代表者と協議するというルールを制度化すること。それに加えて撤退・移転の影響をできるだけ軽微にして、その後の地域経済再振興プランを現実的に促進できるように、たとえば撤退・移転企業に一定のペナルティを負担させる措置を義務付けること。
  3. 地域開発政策等の一環として地方進出した大企業の事業所が企業側の事情で早期撤退・閉鎖する場合は、国や自治体が負担した公共経費と事業所税・固定資産税などの減免措置相当分を返還するというルールを制度化すること。
  4. 空洞化とともに、需要の停滞、販売価格の低価格化、取引先の分散・縮小化、製・販ルートの短縮化などが続いている。それへの対応策として、新分野進出などの新経営資源活用や既存市場の掘り起こし等の既存経営資源活用に取り組んでいる「経営革新」企業に対して、金融、技術に限らずマーケット開拓、ネットワーク化、ソフトの面まで含む総合的な自立支援策を実施すること。
  5. 地域産業の振興と地域に密着した内需喚起策として下記の点に力を入れること。
    1. 既存下請企業の自立化支援強化策として、イ)下請中小企業の自立化支援助成金制度の整備・拡充、ロ)営業力強化セミナーの実施、企画開発、デザイン、市場開拓への支援など下請企業の弱点強化策、ハ)各地域に「地域中小企業ネットワークセンター」(仮称)などのネットワークシステムを構築して、仕事確保、仕事づくりのために企業データの情報化をすすめるとともに、中小企業が主導して取り組む川上から川下までの多様な企業間ネットワークに対する支援を強化すること。
    2. 創造的企業に転換を図る既存企業への支援措置として、中小企業が行なうリエンジニアリング、異業種交流、同業種交流、経営革新などによってもたらされる市場創造活動に対する支援を一層強化すること。さらに企業と技術者・研究者・各種団体が試みる多種多様なネットワーク化の動きに国・自治体も積極的に役割を果たしてこれらを推進する方向の施策を強力にとること。
    3. 公共投資・官公需の拡充については、イ)公共投資は、欧米諸国と比較するときわめて遅れている生活基盤の整備、住宅、下水道、公園、福祉施設、生活道路など国民生活に密着した分野において推進すること。ロ)国の官公需の中小企業向け発注は、閣議決定の中小企業への官公需発注比率を現行水準の約4割から少なくとも5割に拡大すること。とくに、景気回復をはかるために、地域経済の実情に応じた発注を行なうとともに、一定の質をもつ公共工事価格を適正価格のナショナルミニマムとして位置づけて、モデル化すること。また、技術的に可能な限り分離・分割発注を拡充、一定金額以下の発注を中小企業に限定する制度の導入、施工準備金・前払い制度の活用、発注の平準化推進、官公需適格組合の積極活用を図ること。
  6. 農林漁業と中小企業との連携によるさまざまな地域興し事業に対して、助成と支援をすすめること。
  7. 近年中小企業の開業率の低下傾向、とくに製造業の独立型開業率の低下と中小流通業の開業率低下が続いている。日本の産業活力維持の視点から見ると開業率低下を転換させる早急な対応が求められる。開業にあたって、高い地価や立ち上がり投資の高さをクリアし、資金調達が可能になるように創業支援(開業支援)策を整備すること。

7.市街地再生と流通・物流の革新

  1. 地域経済の発展、地域コミュニティづくりに大きな役割を果たしてきた多くの商店街が存亡の危機にさらされている。そこで街の崩壊、地域の衰退につながっていくような状態を打開する新たなルールづくりと具体的な振興策が急がれる。そのためには、街づくりの主体者は商店街、中小企業、地域住民であることを明確にして、商店街における中小小売業の事業活動の機会を適正に確保することを基本ルールに据えることが必要である。その上で各省庁横断的な権限を地域に移管して、街全体を改造する地域性を生かしたプランを策定(地域の中小小売事業者の参画が必要条件)して、抜本的に新しい街づくり策を講じること。その街づくり策においては、中小小売事業者、商店街、共同店舗及び小売市場等を総合的に位置づけること。大店立地法、中心市街地活性化法、改正都市計画法の「街づくり3法」を活用して抜本的な新しい街づくり策を積極的に推し進めて、既成市街地の活性化、良好な都市生活環境の確保を図ること。
  2. 大型店、専門店の営業時間の延長・元旦営業が広がりつつあるが、営業時間の延長・元旦営業は従業員の労働時間の延長、問屋等の年末超過対応が必要になり時間短縮という時代の流れに逆行する。元に戻す方向の措置をとること。
  3. 地域中小企業の物流環境を整備するため、縦割り行政になっている卸売業・小売業・運輸業・倉庫業等について、業種を超えて地域単位に括る地域密着型の支援策に転換すること。
  4. 物流効率化のため中小企業が共同して行なう「物流システム」事業に対しては、中小企業流通業務効率化促進法による金融、税制上の支援措置の一層の拡充を講じること。
  5. 1995年の阪神・淡路大震災は、日本の大都市の都市構造の弱点をはからずもあらわにした。この痛ましい貴重な経験を無駄にすることなく、人間を重視し、人間中心の安全で住みやすい都市づくりを行なうという視点からこれまでの各都市が策定した都市計画を見直して、防災対策を強力に推進すること。

8.国際取引・国際交流への支援

 国際化の進展は中小企業への新たな支援を要請している。

  1. 中小企業が国際化のなかで取り組む以下の取り組みに対して適切にバックアップして国際取引の不安を緩和させること。イ)中小企業が参加する国内開催の国際見本市・展示会への参加や販路拡大情報について、ロ)海外製品の並行輸入、開発輸入におけるリスク分散システム、配送システム、商社を通さないシステムづくりの取り組みについて、ハ)海外部品調達にかかわる情報提供と指導、トラブル回避、共同購入について。
  2. 中小企業の海外進出への円滑化策として、投資関連情報の提供、金融、信用補完、保険などの支援措置を拡充強化すること。
  3. 外国人研修生受入事業の充実として、外国人研修生受入れにたいする支援措置の拡充ならびに研修生の入国手続きの簡素化等環境整備を図ること。また、外国人労働者の宿泊施設、住宅の提供、住宅の斡旋、労災保険や健康保険等の制度の充実を図るとともに、外国人労働者の社会生活に対する相談センターや社会生活に必要な日本語ほかの知識を習得するための研修機関を整備すること。

9.人間らしく育つための教育・人材育成環境の整備

(1) 中小企業と教育

  1. 学校を卒業して社会にはばたく青年層のなかに、自分のやりたいことを見つけられない、生きることや働くことについてのスタンスが定まらないという状況が広がっている。青年や子どもたちが健全な労働観や地域社会観を形成していく一つの機会としての労働体験を中学校・高等学校の授業の一環に組み込み、その現場として中小企業を積極的に活用すること。さらに、労働体験の期間は1日に限らず一定期間とるように検討すること。
  2. 大学生を受け入れるインターンシップ制の実施にあたっては、企業の採用活動とは完全に切り離し、仕事のノウハウを覚えるという狭義の職業教育にするのではなく、学生が働く意味や生き方を学ぶ機会となるような教育理念のもとで行なうように指導すること。当会の経験では、中小企業で社員とともに働くことにより、働く姿そのものから学ぶことの意味が持つ比重が大きい。大学に入ることだけを目的に入学してくる新入生が、入学後目的を失う現象が多発している。大学一年生にとっても、インターンシップは学ぶ目的を明確にし、学ぶ意欲を湧き立たせる意味で有効であり広く活用することが望まれる。
  3. 長期的視野に立って人材を育成するためには、教師、父母、行政、経営者等が協力し合い、地域内で共に努力を積み重ねることが必要であるから、これら4者による懇談会やシンポジウムなどの試みに対して積極的に支援すること。新しく導入される学校評議員制度の実施にあたっては、地域の経営者の任用も検討すること。
  4. 日本のものづくりの機能を保全するための一環として、中学校以上の教育に、技術・技能教育を積極的に取り入れること。さらに、別立てに専門職人を養成していく公的システムを新たに作って日本のものづくり機能の保全に努めること。
  5. 中小企業についての正確な認識がはかられるように、学校教育等では中小企業の最新の実態に基づいた正確な姿を教えること。そのための一環として、中小企業の経営者を授業の講師とすること及び教師が中小企業の現場で研修することを検討すること。

(2) ゆとりある教育に向けて

 企業で働く若ものたちの間にも、なかなか自立できない、コミュニケーションがとれないなどの「歪み」が見られ、「学級崩壊」が小学校低学年で起きるなど、現代の子どもをめぐる状況が深刻であることは国民の共通認識になっている。子どもの権利条約の批准国として、98年国連の「子どもの権利委員会」から日本が受けた勧告を真摯に受けとめて「子どもの最善の利益」を考慮した様々な措置をとること。何よりも子どもがゆとりをもって生活できるよう、おとなの管理から離れて自分で考え自分で判断し行動する自由な時間を保障するための手立てを急ぐべきである。子どもは子どもの中で育つという子どもの集団自身が備えている育ち合う力を信頼し、子どもたちで自主的に過ごす時間を増やすために、また教師が一人ひとりの子どもと向き合うゆとりが持てるようにするために、学習指導要領の改善と教師が30人学級で自主的に授業内容・授業時間を組み立てられるように改善すること。また、教育、文化、スポーツ施設の大幅拡充などもあわせて実施すること。

(3) 職場環境改善・人材育成への支援

 景気動向の如何にかかわらず、人材の確保と定着は、中小企業にとって重要な経営課題の一つである。中小企業の労働時間等の労働条件、職場環境、福利厚生等の雇用管理面の改善が進み、魅力ある職場づくりが進展するように、相談機関・教育機関、関連施策を一段と拡充すること。さらに、既人材の能力開発につながる生涯能力開発助成事業において、中小企業への助成率の引き上げ、年齢枠の引き下げ、給付限度額の増額、適用範囲の拡大(研究会活動や海外研修へまで)等、中小企業の実情に沿うような改善を図ること。

(4) 中小企業大学校の充実、職業教育・訓練制度の拡充を

 中小企業大学校の講師等専門スタッフを拡充し、カリキュラムのなかに経営指針づくり(経営理念、経営方針、経営計画)を必ず入れること。現在未設の四国地域に中小企業大学校を設置すること。また、生産現場における技術革新の質的変化とスピードに対応できる技術者教育・訓練制度の拡充を図ること。

(5) 就職協定廃止後の行政指導

 就職協定の廃止が、本当に自分がやりたい仕事とは無関係に各種の情報に惑わされ、就職テクニックを身につけることに窮窮とするような学生の就職活動の混乱状況に拍車をかけている。企業がいたずらに求人活動を早めて、学生を狭い就職活動に追い立てることのないよう、文部省・労働省は必要な指導監督を行なうこと。

10.労働環境改善のための政策整備を

(1) 安心して働ける社会保障制度の構築を

 高齢社会を迎え、介護保険制度の導入が行なわれるなど、公的年金や健康保険など社会保障制度全般が転機を迎えている。制度の再構築にあたっては、自己責任・自助努力任せにすることなく、将来にわたって国民が安心して働けるような社会保障制度の構築を国の責務として明確にすること。また、大企業だけでなく、中小企業の勤労者や自営業者にとっても公正・公平なものとなるような措置を講じること。

 企業年金や中小企業退職金共済を、労働移動が発生した場合にも、勤労者が個人単位で継続できるような制度に改めること。確定拠出年金(いわゆる日本版401k)導入では、あくまでも公的年金を補完するものと位置づけ、加入者が十分な情報を得て拠出金を運用できるよう、運用金融機関の情報開示を徹底すること。

(2) 労働環境悪化への不安解消

 「リストラ=首切り」という風潮の広がりと人員整理や実質賃金の低下が国民の生活への不安を増幅させ、景気にも深刻な影響を及ぼしている。雇用・賃金等国民生活の基本に関わる問題については、安定した環境を社会的に保障するシステムを早急に確立すること。雇用問題を市場原理にだけゆだねることなく、企業が雇用に果たす社会的責任の啓蒙につとめること。雇用の流動化は、熟練労働力の育成を阻害し、良質の生産活動の低下を招くおそれがある。さらに、規制緩和による労働条件等の低下を懸念する声も出ており、実態や影響を調査し、労働環境悪化により経済の活力を低下させることのない政策的措置をとること。

(3) 労働時間短縮に向かって

 労働時間短縮については、中小企業の経営実態に配慮しつつ、時間短縮のための環境整備を推進すること。中小企業の時間短縮については、自企業の企業努力だけではなく関連企業・関連業界の理解と協力、取引慣行等の転換が必要要件となっている。さらに国等は、省力化投資等に積極的な支援策を講じるとともに、業種ごとに労働時間短縮を促進する施策やこれまでの取引慣行を見直す施策、発注方式等取引改善指導事業、下請代金支払遅延等防止法、下請中小企業振興法の運用強化等、労働時間短縮のために下請取引適正化施策の一層の強化を図ること。

(4) 育児・介護休業制度と保育所の拡充等による女性の社会進出支援

 育児・介護休業制度を実効性あるものとするためには一定の所得保障が不可欠であるから、雇用保険法による休業給付金の拡充を行なうこと。さらに、利用者のニーズに対応した保育施設・学童保育所の増設・充実、在宅介護支援制度の充実を図り、女性の社会的進出を支援すること。とくに、産休あけ、育児休業あけの保育所の拡充に力を入れること及び出産育児により長期に就労から離れる女性に対して社会復帰をはかるための施策を充実させること。育児・介護については、従業員の実情にあわせて育児・介護と仕事の両立が柔軟にはかれるような環境整備に着手すること、育児においては範囲を「未就学者」に限定することなく対応できる環境整備を行なうこと。

 介護休業制度では、休業の認められる期間が一家族当たり最長3カ月となっているが、介護の実態とは離れており、短時間勤務との組み合わせや期間の上乗せなど、それぞれの介護の実情に合わせた介護休業制度とすること。休業給付金の支給も、その実情に合わせ、支給日数の延長や給付額の引き上げなど一層の拡充を図ること。

 また、女性に関連する労働法の「規制緩和」では、男性・女性を問わず、健康破壊、生活破壊をおこさず家庭責任も果たせるような制度的裏付けを伴いながら、人間尊重の視点で慎重に対応すること。

(5) 高齢者の雇用環境

  1. わが国の総人口に占める65歳以上の高齢者人口は、21世紀前半には4人に1人の割合になる見込みであるから、公的機関が高齢者の多様な就労ニーズを高齢化社会のテンポにあわせて実現させるための環境整備を図ること。たとえば「シルバー人材センター」の拡充など、高齢者の就業を総合的に推進・援助する拠点機関を全国各地域に設置する一方、民間ボランティア組織を制度化して税制優遇措置を設けるなどである。
  2. 高齢者の日常生活を支援するために、住宅、設備の修理や改修、掃除などを公的に援助することにより安価に利用できる制度を行政と中小企業とがタイアップする方式で設けること。その際、能力や技能のある高齢者を優先的に積極的に活用すること。

(6) 障害者の就労・雇用の促進

 「国連・障害者の10年」のなかで国連が呼びかけた「完全参加と平等」の実現をめざし、より一層の充実を図ること。とくに、中小企業における障害者雇用を促進させるような支援策の拡充と利用手続きを簡素化すること。障害者作業施設設置等助成金などの適用にあたっては、障害者雇用を前提として施設の設置や整備を行なった場合、雇用前であっても助成金の支給を図ること。障害者雇用の現状は、大企業より中小企業の方が進んでいる。障害者の雇用状況を発表する際は、実情が正確にとらえられるように、法定雇用率適用外の従業員規模55人以下の企業における障害者雇用の状況も必ず発表すること。また、近年障害者及び父母、養護学校教諭等から企業における就業訓練(実習)の機会拡充の声が大きくあがっているので、企業に対してそれを促進させることになる国の「職場適応訓練」、「短期職場適応訓練」、障害者雇用促進協会の「職場準備訓練」、「職域開発援助事業」についての周知徹底措置を強めること。さらに、バリアフリー住宅・福祉機器開発を行なっている中小企業への支援(開発促進、市場の開発)に力を入れること。

11.環境保全型の社会システム構築のために

 地球温暖化などの進行に加え、世代を超えて生態系に悪影響を与える有害化学物質が排出されている。これに対しては、大量生産・大量消費・大量廃棄をもたらす経済構造から、環境負荷の少ない環境保全型の経済社会システムへの移行をはかる総合的政策の推進を急ぐこと。なお、それらの政策形成・決定・実施にあたっては、情報公開を徹底し、地域経済を担っている中小企業の声を正確に反映させるプロセスをとること。

(1) 地球温暖化・エネルギー問題

  1. 97年12月に開かれた地球温暖化防止京都会議の議長国として、同会議で決めた地球温暖化ガスの削減目標を率先して履行すること。
  2. エネルギー消費の削減にあたっては、省エネ効率の高い製品の使用や、生産設備への移行を促す誘導政策を行なうと同時に、流通システムや、都市づくり、ライフスタイルなどエネルギー大量消費型社会となっている現状を見直す政策を強めること。
  3. 太陽光や風力などの自然エネルギーによる発電事業促進のための技術開発や助成制度の拡充と、それによって発電された電力が、電力メーカーによって安定的に買い取られるような仕組みを創設して、自然エネルギー発電事業に長期的視点で安心して取り組めるようにすること。自然エネルギーによる発電事業を促進する制度として、消費者が通常料金より多少割高であっても自然エネルギーによる電力を選択し購入できる「グリーン電力」制度導入を検討すること。
     また、原子力発電所については、原子力が人類や生態系に与える影響が大きいこと、安全性や放射性廃棄物処理において未解決の問題が大きいことを考慮して、可能な限り原子力発電に頼らない措置をとること。

(2) リサイクル・廃棄物処理問題

 ダイオキシン汚染の全国的広がりは、焼却中心主義の日本の廃棄物政策への見直しを迫っている。廃棄物削減にあたっては、製品の長寿命化や再利用の促進により、廃棄物の発生抑制を基本とすること。また、製品のライフサイクル調査に基づいて、リサイクルや適正処理のしやすい製品作りを進めるとともに、生産から流通、消費、リサイクルの各段階においてそれぞれにふさわしい適正コストを負担するシステムづくりと、消費・廃棄から生産現場へと戻すリサイクルシステムづくりに直ちにとりかかること。

  1. 容器包装リサイクル法が2000年度から完全実施され、対象がプラスチックや紙製容器・包装に拡大されるとともに、中小企業も再商品化義務を負うことになった。再商品化義務の履行においては、製造・利用した容器包装類の重量や取引先での廃棄状況の把握、帳簿記載義務など、膨大で繁雑な事務処理が必要となっているが、中小企業に過度の負担とならない措置を取り入れること。
     再商品化を委託される指定法人の運営については、実際にどれだけの量が分別回収され、再商品化されたのか、再商品化にかかった費用など、情報公開を徹底すること。委託料金の決定過程には当事者である中小企業の声を正確に反映させること。また、容器・包装に再生品が使われているかどうかにかかわりなく、一律に定められている委託料金を見直し、再生品利用の容器・包装については料金を低く設定し、再生品の供給先を狭めないようにすること。
     2001年度から実施される家電リサイクル法の運用にあたっては、大手家電メーカーと最終消費者との間におかれている中小小売店に過度の負担とならないような措置を講ずること。食品廃棄物再商品化法や建築廃棄物リサイクル法の制定にあたっては、製造者、排出者など関係者間においてコストの適正負担が行なわれるように定めること。
  2. ダイオキシン対策のため、膨大な設備投資を迫られている産業廃棄物処理業者への支援を強めるとともに、廃棄物処理業者に処理を委託する排出企業やメーカーのリサイクル・廃棄物処理責任の強化をはかること。高温による連続焼却処理を柱とするダイオキシン対策には、新たにNOx(窒素酸化物)やSOx(硫黄酸化物)への対応や、処理施設の大型化により大量のゴミが必要とされる事態がおきている。ダイオキシン対策の基本政策を、ダイオキシンを発生させない製品作りとリサイクル促進に置くこと。
  3. オゾン層を破壊するフロンや、温暖化を促進する代替フロンについて、大気中への放出を法律によって規制するとともに、その回収・保管・最終処分コストの適正負担をはかるシステムの構築を急ぐこと。
  4. 各地域内において、生産工程から出る廃棄物を工場内、地域内で循環させ、再資源化・再利用することで廃棄物をいっさい外に出さない、クローズド化を意味する地域ゼロエミッションに向かって、地域の中小企業や地域住民の参加を条件にして着手すること。

(3) 環境ビジネスの育成と環境共生型企業への支援

 環境保全型の製品開発や、ISO9000、ISO14000の取得、環境保全対策の推進など環境共生型企業づくりを積極的に進めている中小企業に対しては、技術開発や設備投資資金などにおいて支援策をとること。

 リサイクル品の育成・需要喚起のために、イ)リサイクル品の品質保証を行なう規格の整備、ロ)リサイクル品を事実上閉め出している既存の規格・慣行の見直し、ハ)資源大量消費型製品へのペナルティ(制裁金)、などの措置を講じること。そのペナルティは、一般財源調達のためではなく、あくまで環境負荷を減らす経済活動推奨のためであることを明示すること。

 2001年度施行の化学物質排出管理法の適用においては、情報公開を積極的に進めるとともに、下請中小企業の負担だけが不当に過度にならない措置をとること。

(4) 地球環境保全と地域づくり

 資源小国でありながら、天然資源活用の恩恵に浴してきた日本は、地球環境保全のための国際的取り組みに大きな責任を負っている。公害防止のための技術支援や、砂漠緑化や森林の回復などの環境修復を積極的に支援すること。また、日本企業による「公害輸出」や環境破壊型「開発」を行なわないような国際社会に通用するルールづくりを強力に推進すること。

 国内の地域開発にあたっては、計画段階からその地域の中小企業や住民に十分な情報開示のうえで参加をもとめ、生態系や自然環境の保全、地域の生活環境、歴史、文化との調和をはかりながら、長期的視点で進めること。また、食糧自給率を高めるため、安全で健康な食べ物を供給する日本農業の健全な発展を図ること。地域づくりでは、農業が、治水や地域環境保全にも役立っていることを考慮すること。

(5) 国と関係府県とが協力して琵琶湖の水質保全、湿地・干潟の保護を

 琵琶湖の水質保全の問題は、滋賀県だけの問題にとどまらない。汚れた水を浄化する高度処理システムをつくっていくとともに、琵琶湖を根本から再生させるための対策と実行が必要であるから、国は関係府県と協力して抜本的な対策を進めること。とりあえず、現時点での琵琶湖周辺の開発計画、湖岸道路等と自然の浄化力とのバランスを勘案して、排出規制基準値の見直しを早急に行なうこと。また、地域の意見に基づいて全国的視野に立って湿地や干潟を保護する施策をとること。

12.国民を災害から守る防災対策の拡充

  1. 国は、地方自治体と一体となって緊急度に応じた総合的・計画的な防災対策を講じることにより被害を最小限に抑えるとともに、万一災害が発生したときには機敏に対応できるように、所管を超えて都道府県に権限と財源を集中させた知事直轄の「綜合防災本部」(仮称)を直ちに常設するよう自治体に働きかけること。さらに、北海道有珠山噴火にみられるように、被害が長期にわたる場合、国の支援による「長期自然災害における支援システム」を該当する都道府県に確立することが望まれる。
  2. 国は、「東京大震災」に備えた防災対策事業を、東京都及び特別区と協力しながら、中小企業の参加を条件にして、以下の措置を強力に推し進めること。1:既存建築物の耐震診断を大規模に実施すること。関連して、耐震診断費と防災改修工事の助成措置及びセーフティローン斡旋制度の金利助成の拡充措置をはかること。2:防災向けの耐震防災住宅の建設、簡易地下室「地震シェルター」建設の研究と普及・支援を図ること。3:都市防災不燃化事業の対象地域の拡大と個別住宅の防災不燃化を推進すること。4:地域住民と地域企業の防災活動への組織化とともに地域防災のあり方・行動について検討する場の設置を図ること。さらに、地域住民・中小企業から地震対策のアイデアや意見を募集したり、防災対策のコンテストなどを企画すること。

 以上の措置はすべての都市に共通するものであるから国の強力な指導が望まれる。

13.高齢化社会・少子化社会への対応

  1. 公的介護保険の導入によって、現状の介護水準より切り下げられる、あるいは介護から切り捨てられる、負担だけが増大する、といった懸念が生まれている。高齢者が安心して生活できるように、少なくとも現行よりは充実した施策をとること。
  2. これからの街づくりにあたっては、高齢者や障害者に優しいという基本視点を入れた構想の実施が望まれる。さらに、高齢者や障害者が生きがいを感じられるような社会参加の仕組みづくりと若ものや健常者とのふれあい・交流の仕組みづくりに力を入れて整備すること。
  3. 移動入浴車やデイサービスの充実を図るとともに、在宅型介助機器の公的リース、さまざまな老人施設・障害者施設のマンパワーの充実に努めること。
  4. 高齢化に対応して福祉政策と連携したバリアフリー住宅化の推進と高齢者が安心して暮らせる環境づくりを図ること。また高齢化社会を迎えるにあたって、セキュリティ(地域ボランティアもふくめた巡回サービス)や福祉サービスの水準を緊急に向上させること。
  5. 安心して子どもを生むことができるような環境づくり(住宅問題、労働保障などを含む)と児童手当、教育への援助措置を拡充すること。

14.住生活のレベルアップと生活重視の土地対策

  1. ゆとりと豊かさのある国民生活にとっては、なによりもまず最も重要な基盤である住生活のレベルを上げていくことが肝要である。このため、良質な住宅そのものの蓄積と安全で快適な住環境の整備を強力に推進することにより、居住水準の向上を図ること。さらに、良質な賃貸住宅が大量に供給されるよう制度の見直しや助成措置を講じてライフサイクルに応じて住宅選択の幅が拡大するよう整備すること。
  2. 住生活の充実を図るためには、地価を適正な水準に戻す対応策が求められる。権限を大幅に地方自治体に委譲して、都市計画法等により生活用地を確保し、地域に多様なライフステージの市民が住み続けることができる街づくりをすすめるなど、国民生活重視型の姿勢を鮮明にした土地対策を講じること。

15.政官財の癒着をなくし清潔な政治・行政の確立と武力によらない国際貢献を

  1. 政府の役人・政治家と民間業者との贈収賄事件や高級官僚による不祥事は、あとを絶っていないが、このような事態が続くと国民の政治や行政への信頼は薄らぎ、納税意欲は失われ、日本の将来を危うくする。政治腐敗を招く根元である政党への企業献金・団体献金は禁止すること。政治・行政に対する国民の信頼を回復させるために、公務員倫理の確立、高級官僚の関連業界への天下り禁止、国民への情報公開などについて、いまこそ真摯な努力が必要である。
  2. 戦後日本の経済的繁栄は、日本国憲法のもとで平和裏に経済活動に専心できたことによってもたらされてきた。中小企業は平和な社会であってこそ繁栄を続けることができる。日本国憲法の平和理念に照らして、日本は武力によらない国際社会への貢献の道をもっと真剣に探求すべきである。

16.中小企業に関する統計・調査資料の整備・公開

 中小企業が果たすべき大きな役割に比較して中小企業の実態の諸側面を定量的に調査した各種統計の整備・公表が遅れているので速やかに改善すること。とくに労働経済、金融問題など中小企業の基礎的な指標の整備は緊急性を要している。また、中小企業白書に掲げられている調査資料には公表されないものが多いので、公表・公開を原則にすることに改めること。