「会員企業のISO取得状況」DORオプション調査より
何のための取得か、経営課題と位置づけて

東邦学園大学助教授 阿部 克己(企業環境研究センター委員

 2003年7~9月期の同友会景況調査(DOR)では、会員企業のISO取得状況について、オプション調査を行いました。その結果について、中同協・企業環境研究センター委員の阿部克己氏(東邦学園大学助教授)に分析・執筆していただきました。

取得の理由は自社内の経営改善
~取得の成果は対外評価の高まり

関心が高まっているISO取得

 最近、同友会ではISO取得への関心が高まっている。たとえば、2003年8月の労使問題全国交流会の報告にあった「最低限の会社整備として、コンサルタントには全然依存せず、自前でISO9000を取りました。これは社員教育だと思っています」という、自前で取得した事例に限られない。

 中同協の定時総会(2003年7月)の報告にも次のような事例がみられる。

 「三重の宮崎由至社長のお話を伺って、ISO取得はピンチをチャンスに変えるカギかもしれないと思ったのです」(第10分科会)、「一言で言うなら『ISOとは会社の体質改善の方法』だという気がしています。漢方薬と同じですね。飲んでもすぐには結果が出ない。でも、きちんと正しく服用すれば、着実に効果が出る」(第6分科会)、「ISOが社内の文化になれば、すばらしい規格で、これなしの経営は考えられないようになっています。お客さんにもご理解をいただいてハンコももらいますから、安心して仕事を任せてくれます」(第11分科会)。(以上、『中同協』第71号より)

 このように、さまざまの業種に携わる同友会会員企業が、ISO認証取得の効用を語るようになってきた。このような状況を踏まえて中同協企業環境研究センターでは、DOR(同友会景況調査)2003年7~9月期調査(調査時:2003年9月5~15日)のオプション調査として「ISO取得状況調査」を行った。本稿はこの調査結果の報告である。

ISO認証取得の現状は2割だが、1年後には3割になる予想

 同友会会員企業におけるISO9000シリーズまたは14000シリーズなどいずれか1つ以上のISO認証の取得状況割合を図表1によってみると、「すでに取得済み」が19・7%とほぼ2割に達している。

 さらに「今後取得予定」が11・4%あり、そのうちの8割が今後1年以内に取得予定と答えている。したがって、1年後にはISO取得企業がほぼ3割へと急増するものと思われる。しかも1年以内に予定されているISO取得の大半は9001になっている。それには新規の取得だけでなく、2000年版への移行分が多く含まれているとみられるからであろう(ISO9000シリーズは2000年12月に改正[2000年版]とされた)。

図表1 ISO取得企業の有無(複数回答)

DOR63号オプション調査図表1

業種別、地域別、規模別では

 さて、これを業種別みると、「すでに取得済み」では製造業と建設業とがそれぞれ28・9%、27・5%と3割弱になっている一方、サービス業が14・0%と1割台、流通・商業においては9・2%と1割にも達していないように、現状では業種によってISO取得への受け止め方が異なっているとみられる。ただし「今後取得予定」になると4業種とも10%前半と大きな差はみられない。とはいえ、建設業が13・7%と相対的に最も比率が高い。

 地域別には、「すでに取得済み」は2割台の九州・沖縄(とくに福岡は35・1%と突出)、北陸・中部、関東と1割台の北海道・東北、近畿、中国・四国とに2分化している。「今後取得予定」では、近畿の7・7%以外はすべて1割台をキープしている。その中でも九州・沖縄は13・6%と最大になっている。ISO取得に対する九州・沖縄の意欲の高さと近畿の低さが対照的である。

 従業員規模別には「すでに取得済み」で、20人未満は9・5%と極めて低いが、規模が大きくなるにつれて2割台、3割台と高くなり100人以上では41・2%と4割台を記録している。規模と取得割合は正比例しているのである。「今後取得予定」も100人以上が17・6%と最大で、20人未満が6・7%と最小である。ただし、20人以上50人未満は16・6%と100人以上に迫る取得予定になっている。規模別には50人以上の企業の約半数が1年以内にはISO取得企業になろうとしている。

ISO認証の取得時期は大半が01年以降

 図表2のようにISO取得の時期は、その大半が2001年以降に集中している。たとえば、90年代から取得されていたISO9001でみても、99年以前は14・2%にすぎない。2000年までに限っても3割強である。

 さらに、ISO9001は2000年に改正されたことにより、2001年以降急増傾向にあり、とくに2003年は9月の調査時点で2002年を超える勢いになっている。ISO14001においても急増は2001年からである。

 このように、同友会会員企業のISO取得は21世紀に入ってから本格化しているのである。

図表2 ISOの取得時期

DOR63号オプション調査図表2

取得にかかった費用が総平均約500万円

 つぎにISO取得に費やした費用はどのくらいであったかをまとめたものが図表3である。これによれば、総費用の総平均は496・8万円とほぼ500万円になっているのである。また、平均値で比較すると、ISO9000シリーズの方が14000シリーズより幾分費用がかさんでいる。

 しかし、ISO9000シリーズでは総費用400万円以下が約5割をしめるが、ISO14000シリーズは4割台である。したがって、相対的にISO9000シリーズは400万以下でISOを取得する企業も多い反面、高額を費やして取得する企業もISO14000シリーズ取得企業より多いことを意味していよう。実際、1000万円以上と回答した企業がISO9000シリーズで12社、ISO14000シリーズでは3社であった。

図表3 ISOシリーズ別・ISO取得にかかった費用

DOR63号オプション調査図表3

ISO認証取得の理由

 つぎの問題は何を目的としてISO認証を取得したかである。その認証取得の理由(複数回答)としては、図表4のように全体としては「経営基盤の強化」(56・3%)、「企業イメージの向上」(49・4%)、「体質改善」(46・3%)、「将来の市場を考えて」(32・5%)の割合が抜きんでて高くなっている。このように、全体的にはISO取得を「経営基盤の強化」や「体質改善」のように自社内の経営改善(社内システム改善)を進めるために導入したという回答割合が、「企業イメージの向上」のように自社の対外評価を高めるためという回答より高い。

 ただし、業種別でみると、建設業では「公共入札に有利」(60・0%)、製造業では「取引先からの要請」(20・5%)、流通・商業では「企業イメージの向上」(56・5%)の割合が高いことに業種特有の特性が反映しているとみられる。

 規模別では、50人未満層が自社内の経営改善(社内システム改善)を重視しているが、50人以上層になると自社の対外評価向上を重視するようになっている。50人を境界にしてISO取得理由が分かれているのである。

図表4 ISO取得企業の認証取得の理由(複数回答)

DOR63号オプション調査図表4

ISO認証取得による成果とは

 それではISO認証取得によってどのような成果がでているのか(図表5、複数回答)。それについては「取引先の信用強化」(45・3%)、「社員の意識改革」(43・5%)、「企業イメージのアップ」(38・5%)、「社員教育」(36・0%)、「業務改善」(32・3%)の5つに大きな効果が認められたという回答になっており、変化なしの「変わらない」というのは5・0%にすぎないから、ほとんどのISO取得企業が一定の成果をあげていることになる。

 ただし、その成果は「取引先の信用強化」「企業イメージのアップ」のように、企業の対外評価の方面に強くあらわれている。ISO取得の理由では、社内システムの整備という面が強かったが、ISO取得の成果としては、社外評価が高まったと認識する企業が多くなっているのである。この傾向は業種別には建設業以外において、規模別には規模が大きくなるほど明確にあらわれている。

図表5 ISO取得企業の認証取得による成果(複数回答)

DOR63号オプション調査図表5

しっかりした見通しを持って

 以上、同友会においてはISO取得が2001年以降急速に増加していること、その成果として、社外評価の高まり、社内システムの改善につながっていることが明らかになった。したがって、社内に定着し「ISOが社内の文化になれば、これなしの経営は考えられない」(上述)となるのもうなずけるのである。

 とはいえ、ISO取得についてはDOR通常調査の「経営上の努力」の意見欄にあった次のような側面について、あらかじめしっかり考えておかなければならないだろう。

 それは、「ISO9001(2000年バージョン)への切り換えで審査を03年2月に済まし、ISOシステムを中心に社内組織やシステムを変えつつあります。PDCAを回す・顧客重視等の周知徹底は、まさに戦いそのものです。旧弊のベテラン社員4名からの辞表が出てきて、4名全員退社しました」「 ISO9001の取得については研究中です。わが業界では取得した企業が倒産したりしています。本当の体質改善になるのか、単なる企業イメージの向上に利用するのか、いろいろ疑問もあって研究中です。指導法人に利用されている面も感じています」という、実行プロセスの厳しさとISOへの疑問である。

 これらは、ISO取得にあたっては、少なくとも自社の経営課題の何を解決させるためにISOを取得するのかを社内できちんと位置づけてから取り組むことの必要性を示しているのではないだろうか。

「中小企業家しんぶん」2003年 12月 5日号より