【酒蔵13】品質を重んじる職人の心 (株)馬場酒造本店(福島)

品質を重んじる職人の心
(株)馬場酒造本店(福島)

旧相馬藩御用達の酒蔵

 福島県浜通り北部・相双(そうそう)地方は、幕末まで続いた旧相馬藩の領地です。毎年7月23~25日、甲冑(かっちゅう)に身をかためた500余騎の騎馬武者たちが疾走することで有名な「相馬野馬追(そうまのまおい)」は、この地の神事です。

 その相馬藩御用達であった酒蔵、(株)馬場酒造本店(馬場信治社長、福島同友会会員)は、創業280年の老舗で、馬場社長は15代目。主力銘柄である「樂實(たのしみ)」も長い伝統を誇ります。

 酒蔵のある浪江町は領内の南寄りにあたり、元禄のころ、25代藩主相馬昌胤(まさたね)公が隠居地に選んだ地です。昌胤公は信仰心厚く、神社や寺を数多く造営。祭礼用にも酒が必要だったらしく、それに伴って酒蔵も作られました。

 灘の製法を学び、何人かの藩士が酒造りにあたりました。享保年間になり、その中の1人である馬場重右衛門時康が酒造所を拝領。これが馬場酒造の祖です。酒蔵には昌胤公の子孫である順胤(ありたね)公より贈られた書簡なども保存されており、蔵が地域の歴史を伝えます。

酒蔵は福島県内最大クラスの広さと高さ

 酒蔵は、1棟の酒蔵としては福島県内最大クラスの広さで、天井の高さも3階建てくらいあります。これも灘に学び、1907年、曽祖父の時代に建造したものです。

 土蔵づくりで、天井の上に土を乗せ、その上に50センチくらいの隙間をとって、トタン屋根を二重にふいています。夏の暑さに影響されないための工夫です。

 東北とはいえ、浪江町は、黒潮のおかげで冬も温暖、夏には外気が35度くらいになります。同じ福島県内の代表的酒処・会津とは好対照です。雪深く寒冷な会津の酒蔵は、概して小さく天井も低いといいます。

伝統的なほんとうの手作りの酒

 馬場社長のこだわりは「伝統的なほんとうの手作りの酒」です。年産500石あまりの蔵ですが、造りは全て特定名称酒です。「なにより安全でうまく、適正な価格でごまかしがないこと。良い原料を使い、清潔な工場と優秀な技術で、社長自身が品質を重んじる職人の心を持つこと」を志としています。

 取材時は、ちょうど今年の絞りの最終時期で、もろみのタンクからは葡萄とメロンをミックスしたような清々しい香がぷぅんと漂っていました。

 「できあがった酒は、芳醇で味があってキレがいいものでありたい」と、馬場信治社長は目を輝かせて語ります。その風味を出すために、もろみは通常の倍である40日間寝かせてから絞ります。

 「『ほんもの』の日本酒には、ほかのアルコールにはない『うまみ』があります。うまみ=味があることを大事にしたい。でも味やコクばかりではクドくなって飲み続けられないので、キレが欠かせません。理想の味は、後味がスーッとぬけて、口の中に残らないこと」

 2004年の清酒の製法品質表示基準改正の適用を、こだわりの日本酒が消費者に選ばれるチャンスととらえ、馬場社長は、より高品質な酒づくりを続けています。

【会社概要】
創業 江戸時代享保年間
資本金 1000万円
年商 5000万円
社員数 7名(内、パート2名)
業種 日本酒の製造販売
所在地 福島県双葉郡浪江町大字北幾世橋字大町21
TEL 0240-35-2041

「中小企業家しんぶん」 2006年 5月 15日号より