【酒蔵15】粋な心の文化を酒造り通して発信 伊藤酒造(株)(三重)

粋な心の文化を酒造り通して発信
自分たちが飲んで楽しめるお酒を造りたい
伊藤酒造(株)(三重)

 「鈴鹿おろし」の吹きおろす冬季の厳寒な気候と鈴鹿山系の自然水に恵まれたこの地では、江戸末期から製紙業と酒造りが盛んになりました。戦後製紙業は次第に姿を消しましたが、酒造りは今なお伝承されています。

 鈴鹿山麓美酒工房、伊藤酒造(株)(伊藤旬社長、三重同友会会員)の商標「鈿女(うづめ)」は、「天之鈿女命(あめのうづめのみこと)」に由来しています。天之鈿女命は天岩戸の前で舞を舞った芸能の神様であり、「酒造りは芸」という蔵元の思いが込められています。

「地酒とは何だろう」から方針転換

 5代目社長の伊藤旬氏は東京で学生時代を過ごし、東京方面で売れる酒造りを行ってきていました。売れ筋の味に近いお酒を造ることで多くの人の嗜好に合わせており、販売先も東京方面を中心に営業していました。

 しかし社長就任時、「これが本当に自分が造りたいお酒だろうか」「自分が本当においしいと思えるお酒を造りたい」と考え、考えた末に自分なりの「地酒」造りに取り組み始めました。地酒は地域の水や原料を使うことはもちろんですが、それだけではなく地域の人、そして自分が飲んでおいしいと思えるお酒が本当の「地酒」ではないだろうかと思い至り、今までの酒造りから方針転換を行いました。

 それまでのお客様の一部は離れていきましたが、一方では「ここのお酒がおいしい」と本当に愛して飲んでくれるお客様が新たに増えてきたとのことでした。

「知域」コミュニティーサロンとして

 こうして「地酒」について考えを深めていくうちに、お客様が直接お酒を味わえる場所が必要だと感じ、アンテナショップ「慕蔵(ぼくら)」を始めました。ここではお酒の試飲や、昔ながらの量り売りを行っており、また酒器等の販売も行っています。

 また「慕蔵クラブ」という同じ趣味を持つ仲間が定期的に古いレコードや映画を持ち寄って鑑賞しながら、お酒をおいしく楽しむ会を行ってきました。はじめは地域の人たちに集まってお酒を楽しんでもらおうという会でしたが、徐々に同じ趣味を持った人々が集まる「知域」コミュニティーの場となってきています。

 そんな中から、「自分たちでお酒を造りたい」と始まったのが「ぼくらの酒造りの会」です。これは実際に米洗い、麹つくりから醸造まで、自分たちが楽しむお酒を自分たちの手で造る活動ですが、毎年口コミで参加者が増えてきています。

 こういった活動を通して、「お酒を飲むことの楽しさ・喜びなど、今の日本が失ってしまった粋な心の文化を、酒造りや酒蔵の持っているものを通じて情報発信していくことが使命だと考えています」と思いを語る伊藤氏です。

【会社概要】
創業
 1847年
資本金 1000万円
年商 5000万円
社員数 3名
業種 清酒製造業
所在地 四日市市桜町110
TEL 059-326-2020
URL http://www.suzukasanroku.com/

「中小企業家しんぶん」 2006年 7月 15日号より