【酒蔵を訪ねて】元坂酒造(株)(三重)

三重大学とも協力し風土にあった究極の地酒を

元坂 新氏

 紀州と伊勢を結ぶ旧熊野街道沿いの、山と川にはさまれた多気郡大台町にある元坂(げんさか)酒造(株)(元坂新社長、三重同友会会員)は、酒がじっくりと仕込める適度な冷え込みと清流宮川の清冽(せいれつ)で豊富な伏流水を使用し、小さな酒蔵ならではの少量手作りで、純米酒を中心に、芳醇(ほうじゅん)な味わいと切れの良い飲み口の酒造りを行っています。

地域に根ざしたおいしい地酒を

元坂酒造の酒蔵

 社長の元坂新氏が自社を継ぐために帰ってきた頃は、日本酒が過剰生産となり、安売りが加速していたときでした。そこで「同じ売り方をしていては大きいところに負ける。値下げせずとも売れ、地域に根ざした品質の良いものを目指すべきだ」と、品質重視と創業者の崇高な意志と情熱を伝えようと、その名を付けて新商品―清酒“酒屋八兵衛”を作りました。

 その後、地酒として特徴が最大限に出るようにと、三重県原産の「伊勢錦」という幻の酒米に取り組みはじめました。

酒米・伊勢錦を復活

酒屋八兵衛のラベル

 調べていくと、「伊勢錦」は三重で生まれ、芳醇な味を醸す酒米として近畿圏で多く栽培されていましたが、戦中の米不足や栽培の難しさから昭和25年(1950年)に姿を消していました。その伊勢錦の種籾が三重農業試験場に保存されているのが分かり、種籾(たねもみ)を一握りわけてもらい、3年をかけて初めての酒を造りました。

 しかし、コシヒカリよりも30センチメートルも背丈が高く倒伏しやすいなど栽培がむずかしく、安定した収量が得にくいため、10年以上かけて毎年できた稲の中から背の低い稲を選別固定し、短桿の品種を開発しました。

 それを、三重県内の酒蔵メーカーでも使えるようにと、三重大学と協力して品種登録に取り組みました。時を同じくして、その米を使った大吟醸酒が全国新酒鑑評会で金賞を受賞。伊勢錦を酒米として品種登録するための実績を作ることができました。

 目標だった三重県原産の酒米を使い、三重県の風土で醸した究極の地酒ができ上がったわけです。

米からつくる酒屋に

 当初、「伊勢錦」は近隣の農家に栽培してもらっていましたが、高齢化などで米作りをやめてしまいました。そこで、「それなら米を扱う酒屋として米づくりからやろう!」と、元坂社長自ら伊勢錦をつくり始めました。三重大学とも、さらに栽培しやすい品種改良と試験醸造を行っています。

三重の風土で究極の地酒造り

 食生活の多様化などで日本酒の消費が落ち込み、厳しい状況が続く中、多くの小さな地方メーカーが情報と技術力を持って、これまでにない高品質でおいしい日本酒が増えています。

 元坂社長は、「三重県発祥の伊勢錦は、酒米の最高峰と言われる山田錦の親であると言われ、味が良く酒造りにも使いやすい酒米。これを三重の酒米として他の酒蔵でも使ってもらえるよう広めていきたい。そして、三重の風土で、地元の米を使い、皆さんに楽しんで飲んでいただける究極の地酒をつくり、日本酒業界と地元三重を盛り上げたい!」と話しています。

会社概要

創業 1805年
資本金 1500万円
年商 1億5000万円
社員数 10名
業種 清酒製造業
所在地 三重県多気郡大台町柳原
TEL 0598-85-0001
http://gensaka.com/

「中小企業家しんぶん」 2009年 1月 5日号より