誰もが働く喜びを感じられる企業に(有)ヨシダ精工 社長 吉田 周生氏(熊本)

障害者雇用で実感した「周りから生かされている」喜び

 中同協障害者問題委員会が9月16~17日、奈良で開かれ、全国から約100名が参加し、同友会として障害者と共に生きる企業づくり、地域づくりについて熱心に討議しました。その中で行われた(有)ヨシダ精工社長の吉田周生氏(熊本同友会障がい者問題委員長)の報告概要を紹介します。

適性にあった仕事探しが喜び

 障害者雇用のきっかけは、3年前に初めて実習生を受け入れたことでした。はじめ2週間の予定で受け入れましたが、挨拶はしっかりするし、素直。社内でもそれまでの「ながら挨拶」をやめてきちんと挨拶していこう、というように雰囲気も変化してきました。

 結局、実習期間を1カ月間延長しましたが、社員から、彼と一緒に働きたい、と申し出があったことから、採用することになりました。

 現在、知的障害のある人と精神障害の人と一緒に働いていますが、一緒にそれぞれの特性を発揮しながら力を合わせて働いています。一人ひとりの適性を見ながら、彼、彼女らの仕事を見つけていくことが、今では自分の喜びとなっています。

ひとりも解雇したくないと「A型事業所」

 しかし、昨年おきた突然の世界不況の影響を受け、仕事が激減し、月を追うごとに仕事が半減、7分の1、8分の1、10分の1と減っていきました。それでも、だれ1人解雇したくない思いで、さまざまな情報収集をしながら奔走したところ、「就労継続支援A型事業所」を作れば、障害者の雇用が維持できるとアドバイスをもらい、今年4月に開設しました。

 当社で働いていた従業員6人のうち4人をこのA型事業所「プレジャーワーク」に指導員として移籍しました。彼らは当社で一緒に働くうちに自然とノウハウを身につけてきていたので、スムースに業務を遂行することができました。

 さらに、A型事業所を作ったことで、今まで以上に障害者を受け入れることができるようになり、現在、この事業所には15人(知的10名、精神5名)が働いています。

*「就労継続支援A型事業所」
障害者自立支援法に基づく、一般就労が困難な障害者のための就労支援事業所の1つ。利用者は、事業所と利用契約のほかに雇用契約を結び、事業所は最低賃金以上を支払う。

グループホームの世話人は元ホームレス

 その後、事業所の上に、障害のある人たちが一緒に暮らせるグループホームを作りました。それは、最初に雇用した障害者が、養護施設にいた子どもで、18歳をすぎたら帰る家がない、ということを聞いていたこともあり、また、ここで働きたいけれど、家から遠いので通えない、という人もいたからです。

 そして、なんとグループホームの世話人には、ホームレスだった50代の女性を採用しました。橋の下のテントで暮らしていた人で、彼女と6回面接をして、世話人になってもらったのです。

 当初は、とても不安がっていましたが、この不安を解消し、社会復帰させていくのが自分の役目と考えて、家族のように接していきました。今では、グループホームに入所する障害者たちの母親のような存在になっています。笑顔を見せるようになり、自己主張もできるようになってきました。納税者にもなっています。

 この10月には、2つ目のグループホームを開設する予定ですが、その世話人には、ホームレスの夫婦を予定しています。

 「働くこととは、イコール喜び」だと思います。ある精神障害の人を受け入れたときは、それまでその人と1年半もつきあってきた支援者には見せなかった笑顔を見せるようになり、今では毎日笑顔を見せています。その人は、「初めて仕事を楽しいと感じた」といい、「やっと自分の居場所を見つけた」と泣きました。その話を聞いて、私も、障害者の雇用を広げようとこれまでやってきてよかったと、しみじみ思い、うれしくなって泣いてしまいました。

 現在、この不況の中で真っ先に解雇されるのは障害者です。何とか彼らの働く場を作っていきたいと考え、熊本同友会で「障がい者雇用応援マップ」を作成しているところです。

 これまでは、「何でも自分がせんといかん」と思ってずっと生きてきましたが、障害者とかかわることを通して、今では、周りの人に生かされていると感じています。

「中小企業家しんぶん」 2009年 10月 25日号より