【新春座談会】企業の存続こそ経営者の使命 歴史の試練乗り越え進む同友会運動

地域に仕事をたくさんつくりだす年に

 2010年の幕が開きました。昨年はアメリカ発の世界同時不況の中、地域を元気にする同友会への期待も高まっています。今年は5万名会員を達成する年。自立型企業づくりと同友会の組織をどう強めていくか、新春座談会を行いました。

新春座談会 出席者
中同協会長 鋤柄 修氏((株)エステム会長)
中同協幹事長 広浜 泰久氏((株)ヒロハマ会長)
広島同友会筆頭代表理事 川口 護氏((株)デイ・リンク社長)
司会/中同協事務局長 松井 清充氏

[1] 企業づくりと同友会運動の展望~歴史的転換の年に、帆を高く掲げて

司会(松井) あけましておめでとうございます。はじめに2010年にあたって3人の皆様から「自社の自立型企業づくり」をどう進めていくのか、そしてそのために「同友会の組織をどう強めていくのか」についてお話をお願いします。

 とくに鋤柄さんには、中小企業憲章・条例制定へ向けての展望について、広浜さんには2010年5万名達成に向けての展望、川口さんには同友会づくりについての展望をお願いします。まず鋤柄会長からお願いします。

中小企業憲章の実現にふさわしい会に(鋤柄)

鋤柄 わが社も10年ごとに節目の年がありました。10年目は労働組合の結成、20年目は「21世紀型企業」に切り替えるための指針の見直し、設立30年目は環境問題が主役となる時代になり、環境を守り、さらに文化にまで高める企業づくりに変化させてきました。

 今年7月に当社は40周年を迎えます。昨年から、若手の中間管理職が交替で木曽の研修センターに毎週山ごもりして、次の世代のビジネスモデルづくりに取り組んでいます。

 同友会の「企業変革支援プログラム」に全幹部で取り組むと、見事に同じ傾向が出ました。経営理念の浸透が進んでいるのが明確になると同時に、新商品・サービスが弱いという点も明確になりました。新しいビジネスモデルをつくる課題として、新しい営業企画部をつくり、2010年代に何をお客に提供できるかの取り組みを始めています。

 民主党の事業仕分けで示されたように、下水道業界は国から地方への移管という方向が示されています。地域で生きる企業づくりをしているわが社にとってはいい流れといえますが、業界全体でみると、国土交通省と一体で全国に広げてきたので対応が難しくなります。国民のためにどうしていくのか、業界は岐路に立たされています。人材派遣の会社も、人材派遣法改正の方向で転換期にきています。2つとも2010年は大転換の年と言えます。

 同友会でいえば、民主党政権になって、中小企業憲章は遅かれ早かれ実現するのが見えてきました。政治が先行しています。会員が何人いるかを見ると、寂しくなる数の地域も多い。会員もいないし、何をしたらいいか分からない状況ではいけないと思います。

 全国的には憲章や中小企業振興条例の必要性を考える人が多くなってきていますが、会員の皆さんの3分の2はまだ言葉を知っている程度に見受けられます。学習を繰り返し行い、先行している同友会には引っ張っていただき、全国的運動として進めていきたいと思います。

3人に1人の増強で5万名達成を(広浜)

広浜 わが社では、缶のふたを作っていますので、ユーザーは広範囲で、日本経済の生産動向と連動しています。昨年2月が35%減の底から昨年10月に前年並みに戻ってきました。

 経営指針を作って12年。シェアトップの企業になりました。経営戦略は「品質向上・安定供給・コストダウン・新製品開発・技術サービス・提案営業」の6つです。業界トップになって業界での責任が重くなってきました。お客の期待にこたえて設備投資も進め、さらなる安定供給と製品開発を進めたいと思っています。ほかから参入できない企業となってきており、これが王道と考えています。

 しかし、業界全体でみると毎年1・5%ずつ市場が縮小している業界ですので対応を2つ考えています。

 1つは、海外に目を向けることです。中国に工場があり、中国国内に販売しており、一部日本へも供給を始めました。インドにも拠点を設けています。日本人向けの貸事務所や食事つきアパートなどが仕事になっていて、将来のインド市場の開拓に備えています。

 2つ目は、国内で第2の柱をつくることです。幹部で現在討論していますが、いまの仕事を広げていくことと、まったくの異分野の両方です。農業分野なども検討しています。50年先に向け、手を打っていく、お金もかけていきます。そのために、企業でも「自主・民主・連帯」を追求しています。

 同友会でいえば、今年は5万名を達成する年です。単純計算で退会見込み10%をいれると1万3000人の入会が必要となります。つまり3人に1人が1人の入会を進めていただければ達成できる計算になります。

 どうしたらそれができるか。入会から一気通貫に学び続けられる仕組みを作ることです。入会して、一人ひとりが学びの実践ができ、学び続けられる、その人にあった課題・役割をもっていただくなど、一人ひとりの顔が見える活動ができたら達成できます。学びの機会が増え、役割が果たせる機会をつくることです。

 「自主」は、全会あげて憲章・条例に取り組むときの前提、1社1社が自立していること、「独立自尊」ができていることが必要です。「民主」は、会社の中でも外でも出番づくり、一人ひとりが尊重され、その人の得意な役割を果たすことができるようにすること。その上で「連帯」があって、人間としての素晴らしさを発揮することができます。自主・民主・連帯を国民的レベルで展開することです。

1社の倒産も出さないように(川口)

川口 当社は昨年90周年を迎えましたが、30年ごとに節目があると実感しています。30年目が原爆の影響の年であり、60年目は地域の売り方が変わって倒産の危機に瀕(ひん)しました。90年目の昨年には、15番目の店をだしました。

 同友会に入って20年になります。この間、利益だけを追求した業界の仲間は姿を消しました。同友会で「人間力、人育て、使命感」を学んで今日があります。

 今後は、100年つづく企業を目指しています。小売業界はオーバーストアで店が増え、淘汰(とうた)の時代です。しかし、それぞれの地域にあった店があることが大事です。広島でも、小売り店が姿を消しています。小売り限界もいずれ来ると話しています。

 高齢化社会は、住む人が不便さを感じる社会です。ある団地では、町内の人が小売り店を守ろうと、緊急決議を出しました。そこにわれわれ中小企業の生存領域が残されています。「地域を元気にしよう」と使命感を訴えることで、半分の地代でいいという地主も出てきています。

 不景気の中、買い物をしなくなっていますが、「地域が必要としているものがわれわれにはある」と考え、既存店の生産合理性を上げていくこと、新しいチャレンジとして、昨年12月に新店舗をつくりました。

 同友会としては、広島という地方からみると、地域が元気になるにはどうしたらいいかを考えます。江戸時代には循環型経済の中で仕事がありました。これは、同友会がやることとリンクします。キーワードをここへあてると、事業展開ができます。事業展開で仕事が生まれれば雇用も生まれます。共同求人の参加企業を増やすこともできます。スローガンは「みえる経営」です。「同友会の会員は違う」と言われるように、お客や金融機関の信頼にこたえるガラス張りの経営をやっていこうということです。

 同友会も今大きく期待されています。金融機関や学校などの外部からの要請にこたえることです。県の商工労働局との懇談会は6年目になります。いま、「同友会の皆さんと話すと、元気になる」と言われます。今年は地域振興のために、条例づくりを積極的にすすめたいと思っています。

 何としても企業を存続させることをキーワードにして、同友会から「1社の倒産も出さないようにしよう」をスローガンに、地域が元気になる運動を創(つく)りだしたいと思います。

[2] 仕事づくりを通して地域や業界にいい影響を与えよう

司会 時代の転換点という話しが出ましたが、どのように対応されるのか、詳しくお話しください。

グローバルな視野で足元を見る時代

鋤柄 2010年は、地元や足元を大切にしつつ、グローバル化した経済を前提として、世界的マクロ的動きを視野に入れる時代になっています。すぐれた経営者になるには、学習する時間をつくることです。余った時間でやれば1周遅れになる、それは許されない時代です。その上で、地域経済の担い手になること。時代の変化はさらに加速しています。政治経済に興味をもって自社をどう変化させていくのかが求められます。暇を作り、金も使って、経営者が直に世界を見てくることが大事です。

 もう1つは、会社の外に出て仲間をつくり、情報交換して考えること、それには同友会しかありません。重要な経済団体として同友会が見られるようになり、われわれに期待が寄せられています。

 どれだけ自分のことを客観的にみることができるか、淘汰の時代です。需給ギャップの40兆円分は淘汰されます。少子高齢化で需要がさらに縮むことを考えていかないと生き残れません。

川口 ジェトロの呼びかけで1月にミャンマー、カンボジアを視察してきます。社内や会員に海外の状況を伝えていく役目があると思います。現地と日本企業の信頼関係の構築を見習うことが必要です。

中小企業を誇りを持って働ける場所に

広浜 われわれ中小企業家が、仕事を通して業界や地域にいい影響を与えられるのか、それが無いと存立の意味がないと思います。

 日本では7割の人が中小企業で働いています。中小企業に入るしかなかった負け犬と見られがちですが、断じてそうではありません。その人の個性が十二分に発揮できるのが中小企業です。どこまで誇りを持って働ける場所にできるか、その役割を中小企業が担っているのです。

 こういった思いをもった人をどれだけ増やしていくか。組織率10%をめざすという増強の意味は、まさにそこにあると思います。

小さなビジネスを地域で作っていくこと

鋤柄 地域に大企業を中心としたリーディングカンパニーを引っ張ってくるやり方は、トヨタショックで崩れました。小さなビジネスを地域で作っていく中小企業が大事だと分かりました。フィンランドは人口500万人の小さな国ですが、1人当たりGDPベストテンに入る国づくりをしています。バブル崩壊や、ソ連貿易が半分になってしまうような大変な時期を克服してきた動きをみると、われわれは恵まれています。

地域で元気がいい中小企業が求められる

川口 ミャンマーも前向きですし、ベトナムも活気があります。それに引き換え、日本の若者は草食系といわれ、活気が見られない。そういう点からも、地域で元気がいい中小企業が求められています。中小企業と同友会の見せどころです。

 アメリカについても、われわれは表面しか見ていません。内部深く入れば、開業率が高い、企業が入れ変わり立ち替わり生まれてくるダイナミズムがあります。日本は1回失敗したら犯罪者扱いになる。再チャレンジできる社会を憲章づくりで発信していくことが必要です。県の商工労働局と懇談する前に会員にアンケートをとったところ、500件以上、回答が集まり、説得の武器になりました。

小さな仕事はたくさんある

鋤柄 日本は重要なインフラ整備が遅れているので、小さい仕事はたくさんあります。将来を見据えた方向を考えることが必要です。

 補修がいるメンテナンスが大事になってきます。壊れたところへ行くと、仕事があります。人口1億人いれば、1キロ圏内を掘り起こせば仕事はあります。愛知の畳の企業は、張り替え仕事でこまめに回ると、3~5人がメシを食える仕事は年中あるといっています。下請けでいいという人もいますが、上から仕事は来ない時代です。自立性が大事です。全員営業、宅急便が来てもお客と思う、社員が総力挙げて取り組むという、団体戦の時代です。

広浜 営業マンが会社全体の素晴らしいところを全部分かっていないと、お客に提供できない時代です。全体の力を引き出すことが大事です。客観的にみて、自社のいいところをアピールすると仕事はいくらでも出てきます。

お客のニーズが聞こえる

川口 当店でも、パソコンに向かっている店長の店より、毎日店頭で焼き芋を焼いている店長の店の方が売上が伸びています。お客のニーズが聞こえるからです。住宅を見てもトラブルが無い家はなく、解決すべきことはたくさんあります。そういう仕事はいくらでもあります。

広浜 工場見学も、「企業秘密だから見せない」から、「喜んで見学してもらう」ことを売りにする企業も出てきています。深く耕せば、大企業と違う役割でいろいろ仕事が出てきます。

人間の価値を大事に

鋤柄 デフレ経済で、250円弁当がでる時代、誰のために価格競争をするのか、値段を上げる努力も大事です。価値を正当に認めることは、人間の価値を大事にしていくことになります。人の価値まで落としてはいけないのです。このことを想定した経営が求められます。イギリスがデフレからの脱却に30年近くかかった歴史から情勢を見て、点検し、企業戦略を練り直していくことが必要です。

[3] 新年をどんな年にしていくか~中小企業の使命を地域の隅々に広げよう

司会 最後に、2010年の抱負を語ってください。

理念の共有を徹底

川口 今年は、経営理念を社員と共有し、共通の方向へもっていけるチャンスと思っています。地域密着の企業コンセプトを前面に打ち出しています。店には大型看板で、「ウイ・ウイル・ビカム・コミュニティセンター」と掲げています。理念の共有を徹底し、喜ばれる店にしていきたい。

 広島同友会では、長期的には会員5000名が目標です。地域に10%の組織をつくるため、山間部や農林水産業にも広め、新しい活動として深めていきたい。先ほど広浜幹事長の3人で1人増やす提起にこたえ、同友会を正しく認識する運動をすすめて会員同士タッグを組んで取り組んでいきたいと思います。

思いっきり高く帆をあげよう

広浜 企業としても同友会としても、今年は追い風と思っています。思いっきり帆をあげる時に、寝ている人がいると困ります。一人ひとりに自分の良さを発揮してもらう。今やっていることの目標の再確認を一人ひとりについて行いたい。

 同友会も帆を高くあげることです。「労使見解」(中同協「中小企業における労使関係の見解」)、求人・教育など、先輩からの財産を一人ひとりの会員が最大限活用をしていくことです。ちょっとしかかじっていないのでは、実にもったいない話しです。その財産を活用できるように、一人ひとりの顔が見える活動をしていけば、3人に1人の増強は難しくないと思います。

5万名会員達成と憲章制定運動の年に

鋤柄 今年は、憲章草案を何度も読み返して頂きたい。そのうち3つくらいは自分の会社と同友会の方針に掲げて取り組んでいただきたい。そうでないと、口では憲章と言っても、やっていることは違うではないか、ということになります。

 経済の転換点にあたり、今年は5万名会員も達成した、憲章の提案と運動もしたという年にしたい。その気持ちで取り組み、自社では経営指針を見直し、指針の中に憲章も入れて取り組む、そうでなければ時代遅れであると分かる取り組みをしてほしい。政治もマニュフェストに掲げてやる時代、経営者も方針に掲げて取り組みたいと思います。

司会 ありがとうございました。地域の高い期待にこたえ、帆を高くあげて進む年にしていきましょう。

「中小企業家しんぶん」 2010年 1月 5日号より