「五方よし」の理念で環境経営を~小黒硝子店装(株)代表取締役 小黒正博氏(三重)

【環境経営で企業革新を―「同友会エコ」受賞企業の取り組み】(5)

小黒社長

社会貢献のビジネスモデル構築に挑戦中

 昨年の全国総会でキックオフした中同協「同友エコ」。今回は、一般住宅向けの高機能ガラスや太陽光発電などを施工する小黒硝子店装(株)(三重)の取り組みを紹介します。企業理念は、「環境によい商品やサービスの提供を通じて、社会に貢献できる企業を目指します」。

チェルノブイリ原発事故に遭遇して

断熱工房

 小黒硝子店装(株)(小黒正博代表取締役、三重同友会会員)が本格的に環境経営に軸足を置いたのは、2005年三重県が推進する「M―EMS」(三重県版小規模事業所向け環境マネジメントシステム)認証取得に取り組み始めた時からですが、小黒社長自身の思いは1986年まで遡ります。

 当時、小黒氏は新婚旅行先の欧州で、チェルノブイリ原発事故の報せを聞きます。そして滞在期間中に放射能汚染による被害や、西側と東側の情報格差による対応の違い、さらに2次被害の悲惨さなどを目の当たりにする中で、環境破壊が大きな問題につながることを痛感。同時に、正しい知識や情報を伝える役割と美しい自然を次世代に残していく責任が芽生え、その思いを今日まで抱き続けてきました。

 2000年ごろまでは従来通りの事業展開を進めていました。しかし、主要取引先がM&Aで消失するなど企業を取り巻く情勢が大きく変化する危機感から、環境経営へと大きくシフトしました。ちょうど、ガラスサッシ業界にエコ商品が出始めるという時でもありました。

 全社用車の燃費管理や、体験型ショールーム“断熱工房”の開設、認証取得以降は薪を燃料にした壁(床)暖房・給湯システムの開発、高耐久の太陽光発電パネル架台の開発などに取り組んでいます。

 また、M―EMSの取り組みをきっかけに経営指針の必要性を感じ、環境経営に対する自社の考え方を含めた理念づくりに取り組みます。その結果、環境経営を軸とした企業理念「当社は、環境によい商品やサービスの提供を通じて、社会に貢献できる企業を目指します」を成文化し、経営方針にも企業の社会性項目を設け、「社会との調和を大切にし、地域社会の発展と地球環境の保全に貢献できるよう努めます」を掲げ、社内外に公表しました。

ビジョンを明確化し社員を信頼して任せきること

 M―EMSは環境マネジメントシステムであり、組織づくりが大切であることから、中堅社員の中から「環境管理責任者」を決め、社員一人ひとりに役割と責任を分担しました。

 当初は、個人の能力や意識格差によってギクシャクした雰囲気も生まれました。そこで小黒氏は「社員全員で取り組む」と不退転の決意を表明。改めて社内の雰囲気を作り上げたことで社員それぞれに参加意識が浸透し、レクチャーをクリアしていく中で、達成感や自信がつき始め、徐々に社員の自発的な活動へとつながっていきました。

 この取り組みを通じて、特に次の2つのことを学んだといいます。

 1つは、経営者が明確に方向性(ビジョン)を打ち出し、社員に理解しやすい形にして伝えることの大切さです。会社の今後の展開に対して経営者の覚悟や真剣さをはっきりと社員に伝えないと、全社一丸の動きは作れないということです。

 もう1つは、「任せ(き)る」ということです。社長が口出ししてしまうような中途半端な任せ方では社員のやる気を損ねるばかりか、役割を分担して作った組織も瓦解させてしまうことになります。社員を信頼して任せきることが、社員の主体性を引き出し、自主的な行動へとつながり、社員を主役にしたことで、社員が互いに助け合い、協力し合う意識が生まれ、強いチームワークを築くことにもつながりました。

問題の共有化と社員の主体的参加

 社内会議も一変しました。従来は社長から一方通行的な議事進行で、社員から問題提起されることはありませんでした。しかし今では、担当ごとに自発的な発言や提案が出るようになり、社内での問題意識の共有化もしっかりと図れるようになり、PDCAサイクルの実践につながっています。

 M―EMS導入3年目で社用車の燃費向上の活動が頭打ちとなったことで新たに始めた地域の清掃活動は、地域住民とのふれ合いや事業活動の認知度向上にもつながっています。何より、社員が他者の目を意識する機会となり、相手の立場で考える姿勢が、お客様に商品提案をする際の営業活動にしっかりと現れるようになりました。

 事業づくりでは、ペレットストーブ&ウッドボイラーの販売設置、床暖房と窓の断熱改修を組み合わせたエネルギー効率の良い暖房設備の提案、同友会会員企業との連携事業など、さまざまな試行錯誤が進行中です。小黒氏自身の環境への意識と関心は高く、いくつもの可能性からビジネスモデルを描いてはいますが、今後いかに戦略的に進めていくかが大きな課題となっています。

 小黒硝子店装(株)では、近江商人の「三方よし」(「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」)の理念に「従業員よし」「地球よし」の二方を加えた「五方よし」の理念で、地球環境への貢献をミッションとして、お客様にも地球に良いものを選んでいただける事業づくりに取り組んでいます。

会社概要

創業 1919年
設立 1973年
資本金 1125万円
社員数 4名
業種 建築工事、ガラス工事
所在地 四日市市大井手2丁目
TEL 059-351-0666
http://www.oguro.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2010年 11月 5日号より