【第1次産業を地域再生の光に】(10) 幻のねぎ復活でまちおこし~さいたま市岩槻区

(有)長谷川広商店 社長 長谷川 芳雄氏(埼玉)

長谷川氏

 幻のねぎを復活させてまちおこしに取り組んでいる地域があります。人形づくりで有名な埼玉県さいたま市岩槻地区。長谷川芳雄氏((有)長谷川広商店社長、埼玉同友会会員)が代表をつとめる岩槻ねぎ倶楽部は、郷土野菜である岩槻ねぎに着目して地域を活性化しようと、岩槻ねぎ塩焼きそばを開発して「埼玉B級グルメ王決定戦」に出場したり、岩槻ねぎをメニューにとり入れた店舗を紹介した「ねぎわいマップ」を作成したりと取り組みを展開。ゆくゆくはさいたま市の観光資源に育てたいと取り組んでいます。

古典落語「たらちね」にも登場する岩槻ねぎ

 岩槻ねぎは、噛(か)むとやわらかい歯触りとともに甘味がじわっと口の中に広がります。岩槻地区では元荒川の土手を中心に江戸時代からねぎが生産されてきました。1株から10数本の茎が伸びる青ねぎというのが特徴です。古典落語の「たらちね」にも登場するなど、古くから親しまれてきました。しかし、柔らかく積み重ねることができず、大量輸送・大量陳列に向かないことから、徐々に生産農家が減り、いつしか人々の記憶から消え去り幻のねぎとなっていました。

「これはいける!」、岩槻ねぎの守り手との出会い

鈴木氏

 長谷川氏は、地元の有志でつくる「岩槻ときめき文化の会」で岩槻の文化の再発見と継承に取り組み、また中小企業家同友会のメンバーと農商工連携を模索する中で、岩槻ねぎを商業用に生産していた唯一の農家である鈴木仙一氏と出会いました。この出会いが大きな転機となりました。鈴木氏は約50年間にわたり岩槻ねぎの改良に取り組み、青葉が短くて葉折れせず、多くの茎が分かれるものを選抜・選種してきました。「“甘く、やわらかく、香り高い”。これはいける!」ということで、長谷川氏らはメニューの開発や、岩槻ねぎを取り扱う店舗の掘り起こしに力を入れました。

「ねぎ塩焼きそば」で埼玉B級グルメ王決定戦 準優勝

 2009年3月に県が主催する「食と農の展示会」に岩槻ねぎのソース炒めを出展したのに続き、「第4回埼玉B級グルメ王決定戦」に「岩槻ねぎ倶楽部」(長谷川氏が代表)を結成して挑みました。メニューは「岩槻ねぎ塩焼きそば」。メニューの開発・試作、容器の選定、当日のブースでの製造工程などは、若者からお年寄りまでたくさんの仲間が知恵を出し合い意見を交換しながらすすめるプロジェクトとなりました。「岩槻には集団での味噌づくりなど協同の絆が残っています。そうした人と人の絆がプロジェクトの成功に結びついた」と長谷川氏。「岩槻ねぎ塩やきそば」は堂々の準優勝に輝きました。

「ねぎ味噌ラスク」「ねぎ味噌パイ」も登場

 岩槻ねぎをメニューにとり入れた店舗の掘り起こしにも力を入れました。2009年からは「さいたま市ブランド構築戦略提案型モデル事業」に採択され、さいたま市から補助を受けて岩槻ねぎを取り扱う店舗を紹介した「ねぎわいマップ」を作成しました。 岩槻ねぎとさまざまな食材とのコラボレーションが広がっています。例えば「ぬた」「ねぎうどん」「天ぷら」といったベーシックなものから、ねぎと豚肉をパンにはさんだ「ねぎ豚ドッグ」、ねぎと鶏肉をのせた「ねぎと照り焼きチキンの味噌ピザ」といった斬新なもの、さらには、ねぎ味噌を使った「ねぎ味噌ラスク」「ねぎ味噌パイ」といった一風変わったスイーツ、「ねぎ味噌せんべい」も登場しました。「お客さまにさし上げるのに絶好の地元のお土産ができた」と地元企業に喜ばれています。

子どもたちに「安心・安全」の食べ物を届けたい

 現在では、岩槻ねぎの生産農家は5戸に広がりました。

 岩槻ねぎ倶楽部では、岩槻ねぎの品質を確保しながら、岩槻ねぎをブランド化し、観光資源としてPRしていこうと議論しています。

 また長谷川氏は食品卸業者として国産小麦の取り扱いなど「食の安全」の問題を重視してきました。

 子どもたちに「安心・安全」の食べ物を届けたいという強い思いがあります。

 「これまで、ねぎは好きではないと言っていた子どもたちも、イベント会場で試食をしてもらったら、“甘~い”“美味(おい)しい”と喜んで食べてくれました」と、岩槻ねぎ倶楽部事務局の長谷川裕子氏(長谷川広商店部長)。

 昔からあった本物はこんなにおいしい、ということを伝えて「食育」にも貢献していきたい考えです。

 岩槻ねぎで“ねぎわいの街”を復活させる取り組みに注目です。

会社概要

設立 1961年
業種 食品卸販売
所在地 埼玉県さいたま市岩槻区本町
URL http://www.daichi.jp/

「中小企業家しんぶん」 2011年 6月 15日号より