【元気印の企業訪問】新たな仕事づくりに挑戦する4つの社会福祉法人【和歌山】

企業にも負けない「経営力」を

 障害者自立支援法の施行(2006年)とその見直しの動きなど、障害者施策はこの数年、大きな変化の中にあります。そのような中、「真の障害者の自立」などの理念のもと、地域や住民のニーズに応え、「新しい仕事づくり」に挑戦している社会福祉法人があります。一般の企業にも負けないよう「経営力」「商品力」を磨きながら頑張っている、和歌山同友会会員の4つの社会福祉法人の取り組みを紹介します。

「社会福祉法人一麦会」地域の買い物難民のニーズに応えて

 社会福祉法人一麦会「麦の郷」は、障害者の自立を支援しつつ、地域を支え、地域に支えられる存在としてさまざまな事業を行っています。8月24日には、新たな事業として、地域の買い物難民のための日配品を取り扱う「麦市」をオープンしました。

 高齢化が進む一方で、郊外型の大手スーパーの進出で地域の中小スーパーが閉店に追い込まれ買い物難民が顕在化してきています。「麦市」も地元のスーパーが閉店、撤退した跡地にオープンしました。周りには高齢者が多く、また繁忙期の農家の人たちの不便を察知した取り組みで、店内には、麦の郷でつくられた食品のほか、地域の農産品、一般企業の商品などがところ狭しと並べられています。麦市の隣には、レストラン「きっちん翔(かける)」、コロッケ専門店「風車」があり、ランチから惣菜までそろいます。

 麦の郷は、日本で最初の精神障害者福祉工場・ソーシャルファーム「ピネル」で知られています。ピネルは印刷とクリーニングの事業を行い、併設されていた食品部は独立し、コロッケとおにぎりを主力商品とする「けいじん舎」(宮本久美子所長、和歌山同友会会員)として、「風車」の店名で営業しています。

 宮本氏は「A型事業所(注)として17名の障害者を雇用し、おいしい商品を作るとともにいろんな場所での揚げたてコロッケの対面販売等を重ね、平均7万円の給与を支払えるようになりました。どこにも負けない商品をつくる自信はありますが、商品の絞り込みの大事さとともに営業力の必要性も痛感しています。これからの福祉は『経営力』を学ぶことが大切です。職員の身分保障、施設の運営など課題は山積していますが、お客様からの『おいしいね』の声に励まされて今日があります」と語ります。

社会福祉法人一麦会 「麦の郷」
所在地 和歌山市岩橋
TEL 073-474-2466
URL http://www7.ocn.ne.jp/~ichibaku/

「社会福祉法人つわぶき会」将来は商品開発の道を

 社会福祉法人つわぶき会(岩橋秀樹本部長、和歌山同友会会員)は、「和歌山市障害児者父母の会」を母体に、「子を思う親の気持ち」を核とした法人理念を掲げ、通所や入所の知的・身体障害者授産施設、知的障害者更生施設などを運営しています。

 同会が運営する施設のひとつである福祉就労センター「つつじが丘苑」は、100円均一ストアで販売される商品をOEMで製造しています。同会には、薬剤師免許を持つ人材が2名も存在し、市内の化学会社や大手洗剤メーカーから技術指導などの協力もフル活用できる体制が整っていることも特徴のひとつ。

 施設の中は減圧によるエアシャワーなど、衛生管理に十分配慮。オートメーション化し、主に消臭剤や洗剤関係商品の充填に特化した作業を行なっています。当施設の利用者たちは、自分たちで効率化に向けて改善会議を運営するようにまでなったとのこと。

 岩橋氏は、「施設長の姿勢や方針で障害者の意識や行動が変ってくる。将来は和歌山の産物を生かした商品開発をめざしたい」と語ります。つわぶき会は、地域企業及び行政機関とのネットワークを駆使し、受身の事業ではなく積極的な商品開発をめざしています。

社会福祉法人つわぶき会
所在地 和歌山市西庄
TEL 073-452-0294
URL http://www.tuwabuki.jp

「社会福祉法人やまのこども」真の意味の自立支援を

 社会福祉法人やまのこども(古川多津美施設長、和歌山同友会会員)は、植物性乳酸菌(LBF-403菌)を肥料にしたブルーベリー・米・野菜の生産、加工を行っています。ブルーベリーはジャムやフルーツソース、野菜類はマイルドな風味のキムチ、きゅうりの醤油漬けなどに加工し、産直市場などで好評を得ています。

 10年前から始めたブルーベリー農場では、今年も約1500本の木にたわわに実り、収穫された大粒の生ブルーベリーは、特種な冷凍庫で急速冷凍し、保存しています。

 古川氏が「健康」を大切に考える中で、身体にいい善玉菌として知られる植物性乳酸菌と出合い、それを活用した事業は、やまのこどもが運営する障害者通所授産施設「マウンテンラブ」の事業の柱として着実に成長。現在、A型事業所も視野に入れて取り組んでいます。

 「1999年、グループホームの開園にはじまり、真の意味での障害者の自立支援をめざし園の充実を図ってきました。今後も、利用者が働く喜びと生き甲斐のもてる道を選択できるよう支援していきたい」と語る古川氏。

 現在では知的障害だけではなくさまざまな特性を持つ人たちを受け入れていますが、整然として、規律正しい作業風景は日常のもの。障害をもつ子・人に対して、人と人として、きちんと向き合っているからこそ生れる信頼感を基礎とし、スタッフの一人ひとりが、古川氏の揺るがない姿勢に共感し、障害をもつ子・人を大きく包んで見守っています。

社会福祉法人 やまのこども
所在地 和歌山市吉原
TEL 073-479-1133
URL http://www.mt-furukawa.com/

「社会福祉法人きびコスモス会」地域と一緒に元気でいたい

 有田みかんの郷・有田市に隣接する有田川町に、「ひとりひとりが かがやいて 生きていきたい このまちで」を理念とする社会福祉法人きびコスモス会(山崎貞子理事長、和歌山同友会会員)があります。同会の特徴はCAS冷凍と食品加工です。CAS冷凍(セルアライブシステム冷凍)は、食品の繊維を壊すことなく冷凍できる機能をもったもの。地元湯浅町の生シラスや足赤エビなどの鮮魚類、有田川町の農家の生産物である野菜類や果物を、旬の一番美味しい時期に瞬間冷凍し、付加価値商品として都市圏のデパートや外食産業などに商社を通じて販売。販路は年々拡大しています。先日は、和歌山で頑張っている企業として、同会が運営するコスモス作業所を県知事が訪問した様子が地方紙に紹介されました。

 山崎氏は「お取引いただいている商社の方が、『福祉施設ではなく1企業としてお取引させていただきます』と言ってくださったことがうれしかった。安定した生産力のために、また新しく設備を整えました。有田川町の生産者と一緒に有田川町を元気にしたいと思っています」。丁寧に生産したものであっても規格外のものはできるもの。そのような農作物を買い取ってCAS冷凍によって加工品として販売しています。

 山崎氏とCAS冷凍との出合いは、障害をもつ子たちのために何ができるのかを懸命に考えていた時にテレビでCAS冷凍が紹介されていた事が始まりです。

 「早速千葉県までメーカーの社長を訪ねました。そして『障害者の人たちの事業としていいと思うよ』という言葉をもらって真剣にどうすればいいかを考えました。そしてメーカーの社長から、『あなたの熱意に感動した』と寄付していただきました。この事業を守って次の世代に引き継ぐことが私の役割です」。

 山崎氏の福祉の精神は大きい。しかしそれ以上に経営者としての理念の確かさがあります。

社会福祉法人きびコスモス会
所在地 和歌山県有田郡有田川町
TEL 0737-52-8560
URL http://www15.ocn.ne.jp/~cosmos23/

注:就労継続支援A型は、65歳未満の人を対象に雇用契約を結び労働基準法の適用を受ける事業所。最低賃金は障害の形態によって除外されることもある。B型は、授産施設や作業所など非雇用型の施設で就労可能な人を対象。

「中小企業家しんぶん」 2011年 10月 25日号より