拓殖大学政経学部教授 山本尚史
拓殖大学政経学部の山本尚史教授は、エコノミックガーデニング(2006年度版アメリカ中小企業白書で取り上げられた、地域経済活性化のプログラムの名称)の研究で知られ、各同友会の例会・研究会でも講師として活躍中です。今回より「地域活性化の鍵~中小企業の元気」と題して、5回連載で執筆いただきます。
中小企業振興基本条例、企業変革支援プログラム、エコノミックガーデニングに焦点を当てて、地域経済と中小企業との関わりについて、5回にわたりお話しさせていただきます。
地域経済活性化について熱心に活動している経済研究所に、地元で革新的な縫製業を営む社長さんがやって来ました。
「こんにちは。おや、所長先生はおられないのかな。」
―はい、所長は研究発表のために海外出張中です。私は、地域経済活性化政策研究担当主任研究員をしております山本と申します。
「長い肩書きでわかりにくいね。私は若先生と呼ぶことにするよ。ところで、若先生、私の親友で中小企業家同友会に入っている人がいてね、永続的な地域社会をつくるのが大事だから中小企業振興基本条例を制定しようと熱心に取り組んでいる。でもね、条例の制定が地域づくりにどう役立つのか、どうもピンと来ないんだ。同友会の会合に連れて行ってもらったけど、恥ずかしいから尋ねられなかった。若先生、ちょっと教えてよ。」
―わかりました。同友会の方の説明とは異なるかもしれませんが、地域経済学の観点をご説明します。
地域づくりで望ましいことは、レジリエンスがある地域経済を構築することです。レジリエンスとは、回復力とか復元力と訳されますが、最新の理論では回復力以上のことを意味しています。
グラフをご覧下さい。ショックのために地域の経済力は一時的に低下しますが、その後は、以前のレベルに回復するだけでなく、これまで以上の成長力を見せています。これが「進化的レジリエンス」のある地域経済の姿です。
こうした地域経済を構築するには、地域内外の環境変化に対応して経済構造を変革(トランスフォーム)する能力を持つことが必要となります。そして、地域経済の変革能力を高めるためには、企業家精神に富む中小企業と、そうした企業の活躍を応援する人々の存在が不可欠です。
中小企業振興基本条例は、企業家の活躍を地域一丸となって応援したいという人々の意見を反映して制定されるものですから、条例の制定を目指すことは、地元経済において、中小企業の存在意義を認識してもらいつつ、地域力を高めることにつながるのです。
―おわかりいただけましたでしょうか。
「なるほどね、危機をバネにして更に成長する、ということだね。これは企業経営にも通じる考え方だ。若先生、とても勉強になったよ。今度来るときも、解説をお願いします。」
―はい、気軽にお越し下さい。
「中小企業家しんぶん」 2013年 6月 15日号より