第2回 条例づくりを地域づくりに活かすには

拓殖大学政経学部教授 山本尚史

 中小企業振興基本条例、企業変革支援プログラム、エコノミックガーデニングに焦点を当て、地域経済と中小企業との関わりについて考える連載の第2回。今回は「条例づくりを地域づくりに活(い)かすには」です。

 地元で革新的な縫製業を営む社長さんが、今日も研究所に来て下さりました。

 「こんにちは、若先生。この前の話を聞いた後に、私も同友会に入会したんだ。初めての例会では、別の県の同友会からゲストが来て、中小企業振興基本条例づくりへの取り組みを紹介してくれた。ところで、若先生、どのようにすれば、条例づくりを地域づくりに活かすことができるのだろうね」

―そうですね、地域経済学の理論によれば、持続的な地域経済をつくるには、3つのポイントがあります。地域外から「外貨」を得るために輸出産業をつくること、地域内で経済を循環させること、地域外から購入しているものを内注化すること、の3つです。今回は、中小企業振興基本条例づくりを通して望ましい地域経済を構築するための工夫について、同友会の活動に関わってきた研究者からのお知恵をご紹介しつつ、お話しします。

 地域経済づくりには、地元の中小企業の活躍を応援することが不可欠ですが、地域ごとに歴史や社会構造や産業構成が異なっています。そこで、各地域の特性に合うような中小企業振興基本条例をつくりたいです。なぜなら、条例ができても具体的な政策につながらなければ、実際に中小企業の活躍を応援できないからです。

 条例づくりを地域づくりに活かすには、カンや観念ではなく統計データに基づいて、各地域の特性を把握する必要があります。ところが、地域の経済構造や中小企業の経営状況について詳しいデータを持っている自治体や経済団体は意外に限られています。そこで、地域経済についての実態調査を実施して必要な情報を得ることがとても重要です。

 また、地域経済の未来を担う人々は、民間企業(産)・学校や研究所(学)・役所や議会(公)・NPO(民)・金融機関(金)などにいます。そこで、条例づくりを地域づくりに活かすには、地元のキーパーソンの協力を得つつ、産学公民金の各分野の人々が参加する「円卓会議」や「産業振興会議」を正式に発足させて、地域内連携により中小企業への具体的な応援策を議論することが求められます。

―地域経済づくりのための工夫についてわかっていただけましたか。条例と地域調査と産業振興会議の3点セットが定石だ、と言う方もいますよ。

 「実践性のある理念、実態調査、関係する人々を巻き込んだ会議、の3つが大切なのだね。私の会社が直面している経営課題でもある。例会でも話してみよう。あとで、若先生の意見も聞きに来るよ」

※今回の記事は、「愛媛県東温市における中小企業振興基本条例の制定に向けた産官学民の取り組み」「調査活動で地域の未来を切り拓く」(いずれも中同協『企業環境研究年報第17号』に収録)を参考にしています。

「中小企業家しんぶん」 2013年 7月 5日号より