【2014新春座談会】新たな仕事づくりと地域づくり~財務体質強化と新市場創造

エネルギーシフトへの取り組みを

2014年がスタートしました。昨年は中同協の全国交流会が質量共に充実し、地域や各団体からの同友会への期待が強まりました。消費税増税など経営環境の変化に企業はどう対応し地域を変えていくのか、新春座談会を行いました。

記録:中同協事務局 冨永択馬

座談会参加者

中同協幹事長 広浜 泰久氏((株)ヒロハマ 代表取締役会長 千葉・金属缶用部品製造・販売)
中同協政策委員長 大橋 正義氏((株)大橋製作所 代表取締役社長 東京・産業用精密機械装置の開発製造販売)
広島同友会筆頭代表理事 川口 護氏((株)デイ・リンク 代表取締役会長 広島・食品スーパーマーケット)
司会:中同協事務局長 平田 美穂氏

日本経済の展望

平田(司会) 皆様明けましておめでとうございます。昨年は「アベノミクス」の効果が叫ばれこの間の同友会景況調査(以下DOR)では中小企業での影響は一部のみで、その効果が低いと出ています。昨年からの円安進行による仕入高、また4月には消費増税など価格転嫁できない中小企業への影響が懸念されています。一方、企業変革を図り「人を生かす経営」で新たな仕事づくりを行い、その輪を広げている同友会への期待が高まっています。本座談会では、新たな年にどのように企業を変え地域を変えていくか、お話をお願いします。

平田 今後の日本経済の展望をどのように考えておられますか。

アベノミクスの効果と本質

大橋 アベノミクスは結論から言うと、従来の政策の延長線上のもので何も目新しいものではありません。朝日新聞(2013年11月15日号)など各メディアで「アベノミクス一服感」という衝撃的な見出しが出ていました。アベノミクスの実体経済への影響が薄れているという内容です。

 第1の大胆な金融緩和の効果は個人消費や輸出の減少に表れている通り、薄れ始めています。大手メーカーは海外での現地生産がメインなので、内需に反映されません。円安になれば輸出が伸びるという単純な形にはならないのです。

 第2の財政政策は、大規模な補正予算を組んで公共工事に踏みこみ前年比26%アップとなっていますが、そこに依存しているだけです。民間の建設投資の増加も、消費税増税への駆け込み需要と住宅ローンの金利低下によるものだと思われます。

 第3の成長戦略は目新しさのない期待はずれ感と実体経済に影響を及ぼす動きが見えない点に問題があります。一番大きな問題は先行きの見通しがなく政策もないと、大企業は内部留保を蓄積するが、投資を積極的には行わないことです。

 その一方で、労働者の置かれている状況が深刻化しています。GDPの59%が個人消費支出。この間1996年の平均賃金が467万円で、2012年には408万円となっています。この構造的な問題を解決しない限り国の問題は解決しません。そのためにも中小企業がいかに強い経営体質を作り、雇用と新しい仕事づくりに結びつけることができるかが課題です。

円安の影響と価格転嫁 DOR調査などから

広浜 4~6月期のDORに「中小企業の景況は改善」とありますが、私どもの会社も9月頃から調子が少し上向いております。当社は缶の部品製造を行っていますが、住宅関連の商品の売れ行きが伸びています。消費増税の駆け込み需要であることは明らかです。

 消費増税以降の建設は損をすると感じている消費者からは、増税後の値引きを求められているケースも聞きました。そうなると消費税の消費者への価格転嫁が難しくなります。消費増税による企業への効果は今年の動向を注意深く見ていく必要があると思います。

 DORに「円安の影響として仕入れ単価の圧力が変わらず」とあります。同時に、「売上と客単価のDI」が全体では5年ぶりの上昇、建設に関しては22年ぶりです。

 消費税の価格転嫁に関しては原料の上昇もあり、多くの中小企業では全体的な転嫁は難しいと思われます。個々の企業での一層の企業努力が求められます。

消費増税の影響

川口 私どもは広島で小売業をしていまして、今後消費増税の影響がわかりやすく表れてきます。1989年の消費税3%導入のときは価格転嫁で切り抜けられるだろうと安易に考えていましたが、始まってみればそのコストはとんでもない金額でした。

 1997年の5%引き上げの際も駆け込み需要はありましたが、3年間は売上が前年比で下がり続けていました。また、小売業としては外税・内税のどちらの方式を選ぶのかも難しいところです。総額表示のほうが消費者にとっては親切ですが、価格転嫁できない部分が表れてきます。特に小売業には値ごろ感というのがあります。おそらく大手との値ごろ感の競争が激化し、利幅を狭まれていくと予想できます。消費税の動向を見つめ対応できる、地域に根付く中小企業としての力量が問われてくると思います。

 先般のオランダ・ベルギー視察で感じましたが、海外では高い税金でありながら無償の高度な福祉制度などで安心して暮らしています。日本の現状と比較して信じられませんでした。今後は税金を払っていることで安心に結びつくような消費税の展望を国に示してほしいものです。

中小企業の経営課題は

平田 今後の経営課題についてそれぞれの分野からお話をお願いします。

ものづくりの分野から

大橋 これからの大きな問題のひとつがグローバル化です。グローバル化の課題は(1)スピード、(2)人材の2点です。

 国際的な取引では、圧倒的なスピードと専門的な知識・能力などが要求されます。会って当日に回答を求められるということも少なくありません。タイムリーな見積もりやトラブルに自分で判断し課題解決のためのメッセージを出せる社員が重要になります。そのための質の高い教育や多くの現場体験が必要です。

 教育も含めた大きな開発投資が必要になります。開発投資と開発時間を最小化するためには、異なる専門的な得意分野を持つ企業同士の持ち味が発揮でき、相互に責任の持てるネットワークの構築が今後課題になると思います。

 能力のある企業と連携することで、開発時間を短縮し、タイムリーに顧客の期待する製品を提供していくことです。今後同友会内でも連携が進むことを期待しています。

流通商業の分野から

川口 中小の小売業として最大の関心は、大手の寡占化です。大手企業の進出に対抗し、これまで地域のバランスを考えていた企業も熾烈(しれつ)な価格競争を私どもの地域で始めました。私どもも損益分岐点を下げていくなど生き残るための戦略を1つ1つ見直しています。

 私の最大の危惧は大手企業が地域に誘致されることで、その地域、日本の文化が壊されていくのではないかということです。正月三が日などはこれまで休むことが当然でした。しかし、大手企業は今元旦でも営業しています。これまで当たり前だったことが徐々に変わってきています。だからこそ中小企業は文化を守り、地域を守る使命があると思います。

 たとえば、地域の人なら誰でも知っている地方独自の漢方薬があります。地域の小売店なら必ず置いてありますが、大手の流通物というのは均一で全国共通のものです。地域の小売でなければ手に入らないものがあることが大切だと思います。

顧客ニーズへの対応

広浜 顧客のニーズへの対応を突き詰めると「今、自分たちは何をやるべきか」という課題が見えてきます。この課題抽出のために、わが社では段階的な現状分析に取り組んでいます。

 まず、最初に将来を見据えた「環境や市場の変化」について意見を出し合います。内需の変化や市場の縮小、価格転嫁への対応などを含め予想を立て今後の数値の変化を見極めます。

 2番目に行うのが「わが社の持ち味」です。たとえば、「他社と比べて開発力があり独自製品が多い」などの内容を書き込んでいます。経営指針では、明らかに差別化できている項目として11点挙げています。

 次に「お客様が望んでいること」を話し合います。良いものを早く安くといった基本的なことから品ぞろえ・技術支援・CSRなどまでを網羅し、それぞれの項目に対して、お客さまが「理想的にはこうあって欲しい」という状態を明らかにします。

 そして4番目に「克服すべき弱点・より強化すべき点」。お客様の理想にこたえているかと考えると課題は山積みになります。今年新しく「品質で他社に引けを取らないこと」が加わりました。言葉では簡単ですが、1200種ある製品における全ての機能が他社に引けをとらない形にするという課題です。あらゆる調査をし、ひとつひとつの改善が求められます。

 これらは経営指針見直しのための現状分析です。経営指針の作成見直し・実践には欠かせないものとなっています。

新たな年の我が社の戦略

平田 新年を迎えての戦略についてお願いします。

財務体質を強化するには~消費税への対応

川口 財務体質の強化は企業の自立と自信につながると思っています。今後も際限なき競合と価格競争のなか厳しい経営を強いられます。企業を守り社員を守るためにも自己資本比率を高めることが大切です。社員にその意義と重要性を説明すると納得してくれます。

 財務内容の公開に心がけております。金融機関だけでなく社員や取引先に対しても積極的に伝えます。取引先から信用調査に来られた方に「こんなにさわやかに話してくれる企業はない」と言われます。

 しかし、たいていの企業は信用調査に対し「何を疑っているんだ」という態度になるそうです。それでは互いに信頼し安心して取引はできません。積極的に情報を開示することが対外的な強みとなり企業としての信用を勝ち取ります。

 予算管理は現場に任せます。月次の決算も7日までには現場に伝えます。伝えることにより当月、次月への対策行動が早くとれるのです。社員は経営者の良きパートナーですから。

市場創造へ~付加価値の高い仕事づくり

大橋 私は企業が存続し発展する条件は(1)製品開発投資(2)人材投資(3)設備投資の3つの投資を継続的に展開することだと思います。

 中小企業最大のテーマは、自ら需要をつくりだせるかということです。市場や社会の変化に対応した社会的ニーズに応え新しい市場と製品などの開拓・開発などを実現することです。

 食べ物などの有機物の残渣(ざんさ)は、ほとんど重油などで処理されています。当社は数年後を目標に、例えば化石燃料を使わずに処理する製品の開発など、環境問題に関する新しい製品・商品の事業化を検討しています。私はその先を見据えて、マーケットや人材の確保のためにも中小企業のネットワークを生かし連携して進めたいと考えています。

 これからは中長期的な視点と広い視野で物事を考えることが必要です。三重同友会の宮崎相談役が話している事業別組織別の年齢構成表をつくり、採用育成を計画的に行うことが大切です。どういった世代のどういう人材が必要なのかを明確にするべきです。

コスト削減のヒントと中小企業の海外戦略

広浜 消費増税などを控えて、今後は「小さなことをたくさん積み上げるコスト削減」が重要になると思います。コスト削減は「ムリ・ムダ・ムラ」を徹底的になくしていくことですが、社内では今まで3~4点だった提案から、きわめて具体的な100個以上の提案を出してもらう仕組みにしています。それをひとつひとつ解決していくことで「ムリ・ムダ・ムラ」が大きく改善されていきます。どれほど多くの社員から意見をだしてもらうかが課題です。

 社内で6つのチームを作ってそれぞれで目標を立ててコスト削減に取り組み、昨年は全体で2029万円の削減になりました。目標から157%の達成率です。こうした取り組みの成果は年々積み上がっていきますので、より長期的な視点で見るときわめて大きなコスト削減になっています。

 事業展開はインドや中国にもしていますが、(1)本体がおかしくなるほどの投資はしない (2)「社会性・科学性・人間性」を進出の判断基準とする という2点を原則としています。何より日本の企業・文化は多くの東アジアで尊敬されています。海外展開のチャンスさえあればぜひ展開し、皆さんがお持ちの経験を生かしていただきたいと思います。

同友会としての課題と夢

平田 全国の皆様に地域づくりの課題と夢をお願いします。

中小企業憲章と中小企業振興基本条例

大橋 中同協の中小企業憲章本部・政策委員会合同会議では個性的な企画や他団体との連携など新たに運動に携わる人たちが多くなっています。秋田や愛媛での事例など多面的な運動の前進が困難な地域づくりの出口を切り開いてきているのではないかと思います。

 このような全国各地の同友会運動の総合的前進が、同友会に対する期待と中小企業の経済的・社会的役割にたいする認識の変化をつくりだし、そのことがまた条例づくりの追い風となっています。このことに確信を持ち、私たちは改めて出発点となった同友会運動、金融アセスメント法制定運動や中小企業憲章学習運動などの原点を学ぶ必要があると思います。その上で、中小企業憲章の国会決議をめざしたいです。

 現在の国や地域の構造はゆがんでいます。吉田敬一・駒沢大学教授が「条例をすすめるためには、地域の将来のビジョンを描ける経営者になっていくことです。経営指針でわが社の理念を語れる同友会の経営者。地域経済の集積・地域の経済発展を語れる同友会」と条例づくりについてまとめています。企業づくりに励むことが地域づくりに繋(つな)がることを意識し、各地域では条例制定を目指しましょう。

エネルギーシフトと地域づくりの展望ドイツ視察から

広浜 昨年10月のドイツ・オーストリア視察での一番の学びは「エネルギーシフト」という考え方です。エネルギーシフトとは(1)省エネ(2)地域暖房(3)再生可能なエネルギーへの転換という3つの柱に基づく考えです。エネルギーシフトは日本でこそやらなければダメだと思います。日本のエネルギー自給率は4%。輸入の33%がエネルギーに使用されており、抱えているリスクがきわめて高いからです。

 エネルギーシフトは、一極集中で大規模の高熱によるエネルギー創出よりも、地域分散で小規模の低温でのエネルギーをつくるという考え方でもあります。地域分散で小規模となれば中小企業の出番が増えてきます。日本には水力や地熱など有り余るほどの再生可能エネルギーにあふれています。しかし、日本ではドイツに比べエネルギーに関する国の方針がありません。

 大切なのは上からの方針を待つのではなく、下からの意見や実践が主流になり地域の特色となることです。地域の活性化について条例運動などにも熱心な同友会だからこそエネルギーシフトの運動に取り組み、国全体でのエネルギーに対する考え方を変えていけたらと思います。

地域における中小企業の役割

川口 地方の一番の関心事は人口減にあります。どうやって地域に人を増やしていくのか。

 UターンとIターンを希望する人たちに地方には優良な企業がたくさんあると知ってもらえるようにしたいものです。そのためにも企業の力量が問われてくると思います。地域の雇用の受け皿として中小企業が輝くべきではないでしょうか。

 広島同友会では共同求人活動に力を入れています。現在参加企業は139社です。地域に雇用をつくることもありますが、就職したいと思われる魅力ある企業づくりの活動をメインに行っています。新年度には参加企業を増やし、企業を元気にして地域を元気にしていかなければいけないと感じます。

 地域経済の歯車が狂い、産業が1度崩されるとなかなか元には戻りません。同友会として他団体とも連携し共に地域のことを考えることが重要です。地域を元気にするためにも同友会運動を進めていきたいと思います。

平田 今回のドイツ視察ではエネルギーシフトを学びましたが、同時に省エネや再生可能エネルギー開発へ向けた日本の技術は最先端にあり世界に負けていないことを実感しました。同友会のネットワークを更に生かし、新しい仕事づくり、地域づくりに結び付けて、新たな一歩を踏み出す年にしていきたいと思います。

「中小企業家しんぶん」 2014年 1月 5日号より