言葉ではなく真摯な実践が生きた経営理念を生み出す
昨年11月24日に中小企業が連携し開発された「江戸っ子1号」が深海の撮影に成功しました。開発には東京同友会会員の浜野慶一氏((株)浜野製作所代表取締役)が副委員長として参加しています。どのようにして浜野製作所が産学連携に取り組むようになったのか。今回は昨年の第41回青年経営者全国交流会in東京(主催:中同協)第11分科会での浜野氏の実践報告の概要を紹介します。
社風を変えたいという思い
当社は板金加工やプレス加工などの金属加工を営んでいます。1978年に父が設立し、1993年に父が亡くなり私が28歳で社長に就任しました。
しかし、引き継いだときの社員は2名で、採用は仕事が増えたときや職人が辞めたときに中途採用するだけで社内体制はバラバラ。新製品開発や市場開拓に向かうような社風はありませんでした。
これではいけない、人が育ち、新しい製品を生み出せるような社風にしなければと痛感していました。
関満博ゼミの学生たちとの出会い
2003年ごろの火事のもらい火で会社が全焼するなど経営の苦しいときに、若手経営者・後継者を対象にした勉強会にオブザーバーとして参加しました。そこで発言したところ講師の関満博先生(経営学者、一橋大学名誉教授)から声をかけられ、「うちの学生に会社を見せてほしい」という話になりました。
引き受けると、積極的に質問してくる元気な学生たちがやってきました。その学生たちが総合商社を志望していると言うので、「いまから準備を始めるのなら、うちの会社を貸してあげる。やってごらん」とわが社にとっての産学連携がスタートしました。
社内外での大きな変化
学生たちは生産管理や営業改革などさまざまな提案をしてきました。その都度、「現状を自分の肌と足と目で確認するところから始まるんじゃない?」と学生たちに言いました。
現状を確認しようと思えば職人たちにたずねるしかありません。学生たちが率直にたずねるので、職人たちも身構えずに心を開きました。
学生たちが熱心に何度もやってくるので愛着が沸き、「また来いよ」と交流ができました。職人たちからも学生に歩み寄りパソコンの使い方などを聞くようになり、社内の雰囲気が変わってきました。
思わぬ副産物もありました。一橋大学の学生を営業に同行してあいさつをしていると、これまで接点のなかった先方の課長から電話がかかってきました。
「どうして一橋大学の学生が浜野製作所にいるのか」と強く興味を持ったそうです。学生が関わって新しいことをやろうとしている浜野製作所の将来性に注目すべきだと、議論があったようです。
学生たちによって会社に活気が生まれ、外部からも評価されていると社内でも実感されるようになりました。
念願の産学連携「HOKUSAI」「江戸っ子1号」開発
こうして会社が変わり始め、思いのある学生が入社し新しいことにチャレンジする社風ができてきました。
そして、実際にものをつくる産学連携として、早稲田大学・墨田区との産学連携である電気自動車「HOKUSAI」の開発プロジェクトに参加しました。
また、東京海洋大学・芝浦大学・海洋研究開発機構との産学連携である深海探査機「江戸っ子1号」の開発プロジェクトは8000メートルの深海での実証実験として中小企業が連携して成功することができました(本紙1月5日号既報)。社内風土が変わり、ようやくチャレンジできる人材が育ってきました。
さまざまなプロジェクトにわが社の若手社員が関わってお手伝いしています。もうかるか、もうからないかで始まるのではなく、人との縁を活(い)かし、人間として社会貢献したいという思いを1つひとつ積み重ねることがわが社のミッションだと考えています。
「中小企業家しんぶん」 2014年 1月 25日号より