自主的な領域を確保し、収益力の向上を~東日本大震災の被災企業を訪問して(3)

 日本の中小企業の収益力格差が広がりつつあります。『2015年版中小企業白書』によれば、同一企業規模で売上高経常利益率が上位25%の企業(高収益企業)では、小規模企業(1000万円未満)の場合、同利益率の平均が1980年代の9・4%から2010年以降には16・5%と7・1%ポイント改善しています。

 一方、同利益率が下位25%(低収益企業)の小規模企業では同じ期間に△10・5%から△18・6%と8・1%ポイント悪化しました。その差は20・0%ポイントから35・1%ポイントへと大きく拡大しています。中規模企業(1000万円以上、1億円未満)でも、同じ期間に18・6%ポイントから29・2%ポイントへ格差が開いています。

 『中小企業白書』は、新市場開拓などイノベーションに対する意欲を持ち、環境変化に挑戦し付加価値を向上させているかにより、収益力の持続発展に格差が生じていることを指摘しています。

 東日本大震災はこの収益力格差の明暗を際立たせました。東日本大震災等の変化からどのようにして収益力を確保しているか、岩手同友会の会員訪問をさせていただき、探りました。

 第1は、各社ともイノベーションへの取り組みの直接的きっかけは危機感にありました。東日本大震災はもちろん危機ですが、実は震災以前から強い危機感、使命感に支えられた経営革新を進めてきました。

 例えば、石村工業(株)は、釜石市内の新日鉄が1989年に高炉休止となり、事業転換。危機感のもと「自社製品を持たなければ生き残れない」と奮起し、薪・ペレット兼用ストーブ「クラフトマン」や高速ワカメ攪拌塩蔵機「しおまる」を独自技術により開発し、特許取得しました。なお、同社は、東日本大震災で壊滅的な被害を受けましたが、2カ月後には操業を再開するという奇跡的な復興を遂げました。

 第2は、先を見て生きていることです。例えば、(株)高田自動車学校は地域の出生数で18年後の免許取得者がある程度読めます。地域の出生数が少なくなるのは大問題ですが、それに合わせて経営判断し、収益を確保します。18年後はこうなると読んでいるので、予定通りなのです。最近、山形の自動車学校を引き受けることもやっています。

 第3は、(株)ニュートンのように「無いものは自ら創る」という精神があること。オリジナルな自動化ラインを自ら創るなど技術力をもち、自動車に使用される各種センサー部品、点滴など医療用部品、偏光サングラスレンズの3本柱を製造。海外を含む最適な生産体制・品質・コストを実現し、中国で作るよりも国内で安くできるものがでてきました。

 第4に、(株)アイカムス・ラボに代表されるように岩手県にこだわっていること。岩手大学の精密金型との共同研究により、世界最小のプラスチック歯車減速機を開発しました。驚かされるのは、展示会などで商談する場合、アイデアを盗まれないため、特許を出してから商談をしていることです。同社は、岩手の産業活性化へ貢献することをミッションとしています。岩手の企業も自主的な領域を確保しています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2015年 11月 15日号より