同友エコ大賞 受賞企業の実践

 同友エコ2014の大賞をB部門(エコアクション21など認証取得している先進グループ)では(株)KDP(大阪)が、A部門(環境経営に取り組む挑戦グループ)ではマルチプライ(株)(宮城)が受賞しました。2社の会員に話を聞きました。

A部門 経営理念の追求でゼロエネルギービル

マルチプライ(株) 五十嵐 弘人氏

 マルチプライ(株) 代表取締役 五十嵐 弘人(宮城)

 当社の経営理念に込めた思いは成文化時と全く変わっていません。しかし、見る視点は変化してきました。一番大切なポイントは社会性の「エネルギーシフト」です。科学性の視点では「ビルの可能性を追求していくこと(エネルギーを生み、災害時において防災施設としての役割を果たす建物)」。人間性の視点では「全社一丸体制でエネルギーシフトに取り組む」。この理念の追及が「エネルギーシフト」と「地域に新たな価値を生む中小企業の新しい仕事づくり」をめざす方向につながっています。

事業領域の変化

 当社は清掃用具の販売からスタートしました。これは建物全体にかかる費用の中で0・1%の割合しかありません。この0・1%の割合から「地域の中であてにされる、必要とされる企業(存在)」になることをめざそうと思いました。

 そこから「ビルをまるごとワンストップで管理できる会社」として、「エレベーターの保守管理」「消防・高圧受電設備」「空調関連」と事業領域を広げ、現在では建物全体にかかる費用の構成比でみると0・1%から修繕費9・5%、更新費18・7%、保全費27・7%の計55・9%を担っています。

 事業定義も「ビルディングドクター」と位置付け、新たな価値観を提案できるようになり、ビルオーナーとの信頼関係も強くなりました。

困難の連続

 当時の課題は「知識、技術がないこと」「エレベーター・消防設備・高圧充電設備はすべて業界が違うこと」「お付き合いのある会社が競争相手になること」「人が育つ環境をつくること」などでした。

 当時はエレベーター・消防設備・空調はすべて協力業者に委託していました。しかし、2005年8月に発生した宮城県沖地震の際に委託していた会社が、自社のお客様を優先し当社の対応はしてもらえないということが起こり、大変なクレームとなりました。緊急時こそ、自社でやれる体制を構築しなければならないと痛感しました。

 それを機に、さまざまな業界・会社の現場に足を運び、採用環境など体制整備に取り組みました。社員の引き抜きなどもありましたが、現在では新卒者が約1年である程度のレベルまで点検ができる体制になり、点検業務に信用をいただけるまでになりました。

エネルギーシフトとビルオーナーの悩み

 現在のビルオーナーの悩みは「安全も含めて建物の老朽化に伴う修繕費を生み出せないこと」と「収入源であるテナントが抜けていくこと」です。1つの解決策は「建物の外に出るエネルギーを抑え、つくったエネルギーは無駄にしない」仕組みに変えることです。中長期的に見れば地域貢献につながります。エネルギーシフトは科学性ではなく社会性そのものです。

地中熱発電の設備

中古ビルに新たな命を吹き込むゼロエネルギービル

 中古ビルを活用したゼロエネルギービルは全国的にも初だと思います。

 コンセプトはシンプルにあるものを生かすことです。また、東日本大震災の教訓は「避難」「食料」「エネルギー」でした。その教訓をエネルギーの確保が可能な避難場所という点でビルに生かしました。

 当社の社屋電気使用・発電量を見ると10カ月間で通常数十万円の費用がかかるものが3万7000円に抑えられています。地中熱の活用では0℃から24℃まで暖かくするのと10℃程度の土の温度から24℃に暖かくするのでは使用するエネルギーを約半分に抑えられます。基本的にはポンプで地中熱を屋内で循環させているだけですからコストダウンと断熱効果を実現しています。

 今後は日当たりの良いエントランスのガラス窓に透明な有機薄膜太陽電池OPV(発電する窓)の設置を検討しています。

 エネルギーは生活のために必要なものです。自分たちでつくっていくことが望ましいはずです。

 現在の建物は蒸気機関車に引っ張られているように1つに頼り切っている状況です。今後は建物のさまざまな場所が、各自でエネルギーを生み出し、担っていく新幹線型に変わっていくと思います。このビルを発信基地、ショールームとして新たな建物の価値を提案していきます。

マルチプライ(株)の経営理念

1、私達は、決然たる意志と「ま心」で、智恵(ちえ)と想像力を活かし、地球浄化に挑戦します。
1、私達は、究極れた(すぐれた)商品をもって、社会に安心でかけがえのない空間を提供し続けます。
1、私達は、多くの出会いと気付きから、共に学び成長する、夢の実現者です。

■会社概要■
設立:1990年
資本金:2,100万円
従業員数:286名(うち正社員45名)
事業内容:建物設備保守管理サービス、清掃機器メンテナンス・清掃用資機材製造販売指定管理業務
URL:http://www.multiply.jp/

B部門 環境経営でいきいき会社づくり

(株)KDP 金谷 宏氏

(株)KDP 代表取締役会長 金谷 宏(大阪)

 前職の会社が倒産し、家内と2人で創業しました。家族を守るために始めた会社は16億円まで成長し、社員数も47名になっていました。しかし、売上が上がってもどこか不安で心が満たされませんでした。社内にはいつも不信感を抱き独立する社員が後を絶たなかったからです。

 そんな時、ワラをもつかむ思いで同友会に入会しました。悩みを打ち明ける仲間ができると、私の中から少しずつ不安は消えていき、経営課題を解決するいろんな仕組みやヒントもたくさん見つかりました。

「人と社会が豊かになるために、KDPができること」

 私たちは人材サービス業を通して「人と組織の最適化」を提案しています。「家事・育児・介護・健康」など、物理的に条件が合わず、働きたくても働くことを諦めている方々がたくさんおり、働きたいと願う人たちのライフスタイルに沿って、働きがいを実感し、もっと自由に自分らしく働ける環境を提供したいと考えています。

 「それぞれの可能性を見いだし適材適所の実現」を意識することで、より多くの人が働きやすい環境が実現されるのです。さらに言えば自分の能力が高まり、人生においてこの上ない財産となります。

会社周辺の定期清掃

エコアクション21への取り組み

 2007年に大阪同友会環境部会が主催するエコアクション21スクールへの参加をきっかけに、翌年の2008年には、社内に「環境委員会」が発足しました。当初は何から初めて良いものかわからず、エコアクション21スクールに社員が交代で参加し、まず環境について「知ること」からのスタートでした。

 また、環境省が主催する環境コミュニケーション大賞に2011年から毎年参加し、今年度は「優良賞」を受賞しました。

 中同協地球環境委員会主催の同友エコには、2009年からエントリーし、毎年CO2の削減を進め、今回の2015年は念願の「同友エコ大賞」受賞しました。

 最初の環境活動レポートを発行してから節電、エコドライブ、分別、リサイクル、グリーン購入など8年間環境経営を日々実践することや熊本同友会が取り組んでいる同友の森に55本の記念植樹に参加。それを皮切りに、環境保全について学びを深め、在来種1100本を植える大阪同友会のプロジェクト「中環の森1100本プロジェクト」という生物多様性保存の取り組みに行政を始め、地域の方々と取り組んだことなどの企業姿勢が評価されました。こうしてみると、まず、「知ること」→「学ぶこと」→「継続して改善し」→「成長すること」だと思います。

 今後とも環境委員会をさらに盛り上げて行きたいと思います。

■会社概要■
設立:1992年
資本金:3,300万円
従業員数:33名 パートアルバイト650名
事業内容:総合人材サービス業
URL:http://www.kdp21.com

「中小企業家しんぶん」 2016年 2月 25日号より