【岩手同友会欧州視察(1)】 エネルギーシフトで豊かな社会づくりへ

それぞれの地域で実現するエネルギーシフト

 岩手同友会は昨年11月にドイツ・スイス・オーストリアへの「エネルギーシフト」に関する欧州視察を行いました。視察での学びについて3回の連載で紹介します。

フライブルク

 2013年秋の中同協欧州視察への参加を皮切りに、昨年春の岩手同友会第1回視察、そしてつい3カ月前の昨年11月下旬の岩手同友会第2回視察と2年の間に計3回ドイツ・スイス・オーストリアを訪れる機会に恵まれました。めまぐるしい日常から離れ、30日もの間、異国の地で「中小企業の社会化」に向き合う。自らが持って臨むテーマは毎回違いましたが、今回ほど眼前に明確な未来の映像が現れた視察はありませんでした。それは国境を越えて同じ街の姿を定点で重ねて体験することで見えてくるものでした。

 岩手同友会でエネルギーシフト研究会を立ち上げてから2年。「震災で急激に進んだ人口減少と少子高齢地域を、エネルギーシフトが救ってくれるかもしれない。エネルギーシフトで新たな雇用を生み出すことが、地域の疲弊を食い止める助けになるはず」。わずかながらも期待に胸を膨らませてきました。それはおそらく東日本大震災からの5年。岩手の地で、あの、言葉にはできない、幾重にも重なる悲しみや喜びの経験を経て生まれた思考だったのだと思います。

 しかし今回の視察はそれを根本から覆しました。あくまでもエネルギーシフトはそれぞれの市民が、それぞれの地域を見つめ、それぞれが主体的に行動を起こす契機となるためのもの。「エネルギーシフトはそのための手段」であるという確信でした。

 深々と静かに降り続ける雪の中、静まりかえったフライブルク郊外の黒い森で経験した「次世代、そして将来への配慮」という姿勢。山あいの人口わずか1000人の村で、「人間らしい快適な生活空間」を肩肘張らず謳歌している市民の姿。エネルギーシフトはその実現を担保する技術であり、人間と人間、人間と先端技術をつなぐ触媒。そしてそれを裏付ける圧倒的なエネルギーデータの蓄積。さらに木材とコンクリートのハイブリット構造材のように、これまでの固定概念を覆す考え方。実際に見た欧州の地域では、中小企業がそれをしっかりと自らの力で具現化していました。

岩手同友会

 「人口減少が進んでも持続発展し続ける地域は可能なはず。そのモデルをこの街から生み出すことができれば」。奇しくも赤石義博中同協顧問が、2014年の夏に陸前高田、大船渡を訪れ被災地を丁寧に歩み、私たちの前で講演いただいた時の言葉を思い出します。「欧州で進むエネルギーシフト、そしてIoTは、限界費用ゼロの時代を急速に呼び込み、私たちが描いてきた市民中心の時代、中小企業の時代到来の足音を確かに感じることができるものです。それはまさに、幸せの見える社会づくりそのもの。たとえ人口が減少しても豊かな生き合いができる地域は可能だ」3度目でようやく憧れではなく、めざす現実の姿にすっかり重なったのでした。

岩手同友会事務局長 菊田 哲

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「中小企業家しんぶん」 2016年 3月 5日号より