すぐに取り組めるエネルギーシフト~学習と見える化で、さあ行動へ!

【岩手同友会欧州視察(2)】 エネルギーシフトで豊かな社会づくりへ

 岩手同友会は昨年11月にドイツ・スイス・オーストリアへの「エネルギーシフト」に関する欧州視察を行いました。視察での学びについて連載の第2回を紹介します。

(前回の記事はこちら)

岩手同友会 案内の池田氏を囲んで

 「世界一寒い家に住んでいるのは北東北の人です。ドイツではどんなに外気温が下がっても、無暖房で部屋が17℃以下になることはない」。2年前の最初の欧州視察の時に持ち帰ったその言葉は、岩手のエネルギーシフト研究会の立ち上げの原動力となりました。「まさかそんなはずはない」と帰国後検証してみると、驚くことがわかりました。岩手県は脳卒中で亡くなる方の割合が、47都道府県中ワーストワンでした。その原因の1つとして、住居での居間や寝室とトイレなどの大きな室温差で血管が収縮しヒートショックにより亡くなる方や、健康被害に悩む方が多いことがわかりました。「我慢する」という岩手の文化が、災いした結果でした。

 エネルギーシフト研究会では県内各地で例会を開き、エネルギーアドバイザーの力を借り、それぞれの自宅、各社のエネルギー使用量の推移を持ち寄り、現状をつかんでいきました。赤外線カメラで建物を撮影すると窓から熱が逃げている姿が明らかになりました。どんなに暖冷房をしても、ガラス面や窓枠の隙間から熱が逃げてしまっています。エネルギーを「見える化」し現実を直視することで、いかに日常の生活に健康への阻害要因が多く、エネルギーの無駄が多いのか、その実態、課題をつかむことができました。同時に同友会大学でのエネルギーシフトの集中講義、ほかにも欧州から専門家を招いての講演会、行政の担当者を招いての環境関連施策の勉強会を重ね、課題解決への道筋を探っていきました。

エネルギーシフト実践のポイント

 こうした取り組みは、県の施策にも具体的に盛り込まれるようになりました。少額ですが、各企業のエネルギーの見える化を応援する施策もうまれました。そして本年3月の県議会では、中小企業振興条例を受けて検討されてきた中小企業振興基本計画の中に、岩手型の省エネ住宅を研究開発する旨が具体的に明記されました。既に北海道では北方型住宅として地域で取り組まれてきたことですが、ようやく岩手でも動き始めました。

 これまでの視察で学んだエネルギーシフトの大切なポイントは3つです。(1)省(小)エネ、(2)エネルギーの高効率化、(3)再生可能エネルギーを生かした創エネ。中でも徹底した省エネ、小エネは工夫次第で誰でも、どの企業でもすぐに取り組むことができます。

 エネルギーシフト研究会には、エネルギーシフトについて気軽に相談できる場所、E-Wende-cafe(イー・ヴェンデ・カフェ)を併設していますが、その中ではさまざまな実践が交流されています。自宅の床下に潜り込んで、DIYで断熱材を詰め込んでみた方は、実際に2~3℃室温が変わりました。ヒートポンプを赤外線カメラで撮影すると、熱の漏れが真っ赤な色になって見えました。こうしたエネルギー、熱の漏れを防ぐためには魔法瓶のような構造の建物にすることが必要です。ちょっと視点を変えるだけで、地域にたくさんの仕事があることが見えてきました。

実際に見てしまった責任

「高効率化」、「創エネ」も、大きな仕事づくりの視点になります。研究会の代表である信幸プロテック(株)の村松幸雄氏は、自宅のエネルギー自立に挑戦しています。自家用車をガソリンエンジンからエネルギー効率の高い内燃機関(電気)にし、発電が可能な車に変え、太陽光と太陽熱によりすべての電力需要を充足しようと試みています。築40年を越えるビルの立て替えを考えていた方は、新築ではなく省エネ改修を試みることになりました。平泉で自動車学校の事務所の新築を考えていた方は、これまでにない熱効率の良い建物を実現し、お客様が多数行き来する開放された場所でも、極力エネルギーを使わない自動車学校をつくろうとしています。

 これは、すべて欧州の実践を見てきた人たちの具体的な取り組みです。見ると聞くとでは全く取り組みのスピードが違います。実際に体感した人にしか感じることができない空気感。これが行動を起こす起爆剤になるのです。

 岩手同友会エネルギーシフト研究会では、地域に50名の欧州視察参加者を生み出すことをめざしています。今年10月には3回目の視察を予定、現在5回目までの計画をしています。

岩手同友会事務局長 菊田 哲

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「中小企業家しんぶん」 2016年 3月 15日号より