中小企業の課題は倒産より廃業へ

中小企業数は減って従業員数は増えている

 中小企業を論ずる場合、いかに正確な情報に基づくかが問われます。一部の中小企業を見て、大体そんなものだと決めつけることはやめた方が良いと思うのです。

 典型的な例が、日本経済新聞の「大機小機」(2016年3月26日付)。テーマは「中小の倒産減少に隠された課題」。しばらく、その論旨を追ってみましょう。

 金融円滑化法は2013年3月末に期限切れとなって、3年が経過しました。期限切れとともに倒産の増大を懸念する声も聞かれましたが、実際には倒産は減少を続け、2015年の倒産件数は約8800件と、25年ぶりに9000件を割り込んでしまったのでした。

 ここで論者は「中小企業の倒産がなぜ持続的に減っているか」を問うてきます。そして、2つ「解」を示します。1つは、金融機関による経営支援を強調する立場です。問題企業をゾンビのように生き永らえさせ、それが倒産の発生を防止していると。論拠の乏しさを感じます。

 もう1つは、中小企業の絶えざる経営努力の結果とする見方です。そして論者は「おそらく両者とも正しく、そうした要因が重なって倒産は減少傾向にある」とします。

 問題はここからです。「確かに倒産は減っているが、中小企業では人員削減などリストラが継続的に実施されている。その結果、雇用が減少し、地域経済に暗い影を投げかけているのだ」と述べています。ご丁寧に「日本経済の再生、地方創成を図るうえで避けられない課題だ」とまで言っています。しかし、中小企業が首を斬って雇用が減少していると実際言い切れるでしょうか。

 最新のデータで見ましょう。中小企業数を「経済センサス」で見ると、2009年から2012年まで3年間で35万社の減少(年11万社余り)のペースで来ていたものが、2012年から2014年までの2年間で4万4000社減少(年2万2000社)のペースまで落ちています。総数381万社です。ところが、従業者数は、2014年に3360万人で2年間では144万人も増えています。中小企業数は減少のペースは緩やかに減ってきているものの、従業者数は増えていると言えます。つまり、「中小企業が首を斬って雇用が減少している」とは言えないのです。むしろ、中小企業関連調査でも経営課題として「人材確保」が急浮上しているように、中小企業の人材不足は深刻なのです。

 では、何が問題なのか。倒産ではなく、廃業が焦点になっているのです。2015年の休業・廃業数は2万7000社にのぼります。この8年間は高止まりしたままです。

 黒字企業でも跡継ぎが見つからないが故に廃業を選択するなどの事例が増えています。退職金が払えるうちに決断しようと。もったいない話です。

 このような可能性のある企業をしっかりフォローしてこそ、「日本経済の再生、地方創生を図るうえで避けられない課題」になるのではないでしょうか。正確な情報に基づいて中小企業を論ずる。肝に銘ずることです。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2016年 4月 15日号より