中規模の中小企業の開業が廃業を上回る~『2016年版中小企業白書』を読んで

 今年は中小企業白書(以下、白書)とともに第2回目の小規模企業白書が同時に出されました。共に大変分厚いものです。白書に加えて小規模企業白書を出す意味がいまだにわかりません。

 白書は冒頭、中小企業数が381万者であり、その推移は減少傾向にあることを書いています。「平成26年経済センサス―基礎調査」によれば、2012年から2014年かけて、2年間で4・4万者が減少しました。2009年7月から2012年2月にかけて、年平均で13・5万者減であったのに対し、2012年2月から2014年7月にかけては年平均で1・8万者減と減少のペースは緩やかとなりました。

 なぜ、緩やかとなったか。規模別に見ると、2012年から2014年の2年間で、小規模企業(製造業等で20人以下、その他の業種で5人以下)の数は9・1万者減少しているものの、中規模企業の数は逆に4・7万者増加しており、合計で4・4万者の減少となったわけです。中規模企業とは小規模企業以外の中小企業のことです。

 中規模企業が増えているのです。中規模企業の4・7万者の増加の内訳ですが、開業が7・2万者、廃業が4・8万者で、開業が廃業を2・4万者上回っています。業種で見ると、特にサービス業の開業が目立っており、宿泊業・飲食サービス業が1・5万者、医療・福祉が1・2万者と高水準となっています。

 しかし、小規模企業の廃業が全体をひっぱったようです。開業が28・6万者あったものの、廃業が45・7万者もあり、17・1万者の廃業が大きく上回っています。

 このように、小規模企業の廃業が全体を決めているわけですが、中規模企業の役割が今後注目されます。

 昨年の白書では、第3部が読ませました。テーマは「『地域』を考える。―自らの変化と特性に向き合う―」。データに基づく地域振興の具体的振興策が書き込まれました。

 今年のキーワードは「稼ぐ力」で、「地域」や「地域振興」という言葉は吹きとんでしまいました。年毎に重点は変わるとは思いますが、「地域」がなくなるとは…。

 「下町ボブスレー」の事例が出ていますが、プロジェクトのいきさつがおもしろい。「当初、細貝社長は、地域の競合他社が少なくなることで、同社の利益拡大につながると考えていた。しかし、競合他社だけではなく、大田区全体の中小企業が減少していくことが、大田区のものづくりとしての技術力の衰退を招き、やがては、その影響が同社にも及ぶという危機感を感じ、このようなプロジェクトを立ち上げた」とあります。

 このあたりを理論的に深掘りすることが求められています。中小企業振興と地域振興の関連など、まだまだ探求すべき論点は深いものがあります。

 今回の中小企業白書の事例では5社、小規模企業白書では3社の会員企業が紹介されています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2016年 5月 15日号より