政策選択に中小企業の声を

財務省マクロ経済政策立案のポスト新設に寄せて

 財務省は、総合政策課内にマクロ経済政策の企画・立案を担う課長級のポストを新設するそうです。しかも、「課長や新ポストにはいずれも各年次のエース級を起用する」と言います(6月22日、日本経済新聞)。

 一瞬、財務省内にマクロ経済政策を扱う部署がなかったのかと思いましたが、本来、政府内ではマクロ経済政策は内閣府(旧経済企画庁)が担っていることになっているはずだと気づきました。新聞も「政府内ではマクロ経済政策は内閣府が主に担っており、財務省側が組織強化にあたるのは異例だ」としています。

 2001年の中央省庁再編によって、大蔵省は財務省に改変され、その際に大蔵省が担っていたマクロ経済政策の統括業務は内閣府に移管されることになったはずです。

 では、いったいどうしてマクロ経済政策部門を二重行政のそしりを受けかねない財務省の中に設ける必要があったのでしょうか。新聞は、「経済政策や成長戦略といった景気の押し上げをねらった政策の立案に軸足を置く」と一応理由は述べていますが、今まで「景気の押し上げを狙った政策」を考えていなかったのか、どうか。もっと、理由は別のところにありそうです。

 そのへんのところを新聞は、「『財政至上主義』と財務省に批判的な首相官邸との関係改善を探っているのではないか、と勘繰る声もある」とか、「官邸側には財務省に対し『財政規律を重視するあまり、景気を軽視している』との批判的な声がくすぶる」と政府部内でも硬直した態度に財務省が陥っていることを伝えます。

 ここからは評者の推測になりますが、財務省が「財政規律」などの硬直した考え方だけでなく、セカンドオピニオンをも求める方向に舵を切ったのではないか、と推察します。

 実は、大蔵省から財務省に衣替えしたころから、財務官僚はマクロ経済への興味を完全に失い、関心事といえば財政再建だけになってしまいました。したがって、消費税増税を強力に推進するあまり、増税が及ぼすマクロ経済へのマイナス効果は管轄外とほぼ無視してきました。

 財務官僚は御用学者の「消費増税の影響は軽微、そのうち景気はV字回復する」といういい加減な理論を信じていたのです。ようやく事の重大性に気づいた財務省は、慌ててマクロ経済政策の企画・立案を担うポストを新設したのでないか、と推察するものです。もっとも、新しいポストを設置したからといって、正しい判断に至るとはかぎりませんが。

 セカンドオピニオンは主治医以外の医師に求める第2の意見です。この考え方が広がってきた背景には、従来の医師お任せ医療ではなく、インフォームド・コンセント(説明と同意)を受け、自分も治療の決定に関わる医療に変わってきたという社会背景があります。

 時代は変わりました。中小企業憲章にも「中小企業の声を聴き、どんな問題も中小企業の立場で考え、政策評価につなげる」とあります。中小企業と国民に開かれた財務省の新ポストとなるよう期待します。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2016年 7月 15日号より