【同友会景況調査(DOR)概要(2016年4~6月期)】中小企業景気低迷へ、“EUショック”で先行き不安増大

〈調査要項〉

調査時点 2016年6月1~15日
調査対象 2,384 社 
回答企業 1,013社(回答率42.5%)(建設175社、製造業331社、流通・商業312社、サービス業185社)
平均従業員数 (1)39.0人(役員含む・正規従業員)(2)31.9人(臨時・パート・アルバイト)
※業況判断DI(デフュージョン・インデックス)は、好転企業が悪化企業を上回っている割合(%)をさす。DIが100に近いほど、好転企業の割合が高いことを意味し、DIが-100に近いほど、悪化企業の割合が高いことを意味している。好転、悪化が同数の場合は、DIは0となる。ほかの指標のDIも同じ考え方で作成されている。各水準DI以外、本文中特に断りがないものは前年同期比。

水面下で2期連続の悪化

 日銀の7月短観(全国企業短期経済観測調査)は前期に引き続き、すべての規模・産業で悪化傾向にあり、次期も悪化を見込んでいます。内閣府発表の2016年1~3月期の国内総生産(GDP)速報値は実質の年率換算で1.9%増となりましたが、うるう年効果で成長率は1%程度かさ上げされており、景気の実勢は弱いままの状況です。

 DORでも業況判断DI(「好転」-「悪化」割合)は△3→△5と2ポイント悪化(図1)。足元の業況を示す業況水準DI(「良い」-「悪い」割合)も△2→△6と悪化しました。主要指標は2期連続で悪化しており、中小企業景気は低迷しています。

 次期(2016年7~9月期)は業況判断DIが△5→△3と小幅ながら持ち直す一方で、業況水準DIは△6→△8と悪化見込みとなっており、大きく回復する気配はありません。英国のEU離脱前の回答ということもあり、さらに不安は高まっていると推察されます。

 業況判断DIを業種別でみると、建設業が△16→△6で10ポイント好転、製造業が△1→△13で12ポイント悪化、流通・商業が△7→△4で3ポイントの好転、サービス業が11→9で2ポイント悪化しました。地域経済圏別では地域により好転悪化のまだら模様ですが、近畿(△1→△10)の悪化が目立ちました。企業規模別では50人以上100人未満のみ横ばいで、ほかの企業規模は悪化しました(図2)。

生産性は悪化傾向に

 売上高DI(「増加」-「悪化」割合)は△1→△3で2ポイントの悪化、経常利益DI(「増加」-「悪化」割合)は1→△3と4ポイント悪化、いずれも2期連続での悪化となりました。

 仕入単価DI(「上昇」-「下降」割合)は9→8と一時の仕入価格上昇圧力の緩和の勢いはなくなる一方、売上・客単価DI(「上昇」-「下降」割合)は2→△4の6ポイント減と下降が続き、2014年7~9月期から徐々に縮まってきた2つの指標の差が開きました。

 1人当たり付加価値DI(「増加」-「減少」割合)は△2→△4と悪化、1人当たり売上高DI(「増加」-「減少」割合)も△4→△4と横ばいで、前期に続いて改善の兆しが見られません。収益環境は厳しさが増すものと思われます(図3)。

人材不足感が緩和

 正規従業員数DI(「増加」-「減少」割合)は今期9→15と増加、人手の過不足感DI(「過剰」-「不足」割合)は△38→△29と不足感が緩和しました。とりわけ人手不足感に対する危機感の強かった建設業(△43→△33)とサービス業(△64→△47)の緩和が大きく影響しました(図4)。先行き不安が増大するなかで、人材確保・維持の努力の継続が重要な課題となっています。

設備投資への躊躇(ちゅうちょ)感のあらわれ

 設備投資の過不足感DI(「過剰」-「不足」割合)は△18→△16と不足感が緩和されました。設備投資実施割合は31.8%→32.7%と上昇しましたが、前期に予測されていた36.2%とは離れた結果です。計画がない理由として「投資しても採算の見込みなし」、「自業界の先行き不透明」という声も増え、設備投資への躊躇感があらわれています。一方で「能力増強」を目的とした設備投資をする割合が徐々に高まっていることは注目すべき点です。

人材確保と社員教育への注力

 経営上の問題点は「同業者相互の価格競争の激化」、「民間需要の停滞」の指摘が高く、不況感が表れています。また、「従業員の不足」、「熟練技術者の確保難」は若干減少しましたが、依然人材確保難に直面した状況は続いています(図5)。

 中小企業景況における先行きの不安定性が増すなかで、「新規受注(顧客)の確保」と「付加価値の増大」に力を入れる一方、「社員教育」、「人材確保」に対する努力も続いています。

 経営指針の策定と実践によって社内での経営理念の共有が進み、人材育成にもつながることが前期(2016年1~3月期)のオプション調査結果からも示されています(本紙6月15日号に特集として紹介)。景気低迷の厳しい環境下を乗り切る企業体質の構築で、地域経済を担う中小企業としての役割を果たしていきましょう。

<厳しい環境への対応>

○将来に向け、長期ビジョンの策定を事業継承予定者中心に外部の協力も得ながら実施中。部門別事業方針をあらためて社内に浸透させるために、見える化(可視化)を開始した。(埼玉、業務用酒食品卸)

○既存市場の需要低下に合わせて設備、人員配置、内装外作比率を変更するためシミュレーション、実験を行っている。その結果を受けて大幅な体制変更を予定。(愛知、帳簿印刷、DM作成発送、データ分析)

○コンピュータシステムの見直しを通じて徹底的な「見える化」を実施。受発注業務のオペレート時間を1/3に短縮し、生産性の向上とライフワークバランスの成果を得た。余剰時間を専門知識の習得と人間形成のカリキュラムに充てるべく計画中。(千葉、サービス業)

○今後高齢化が急速に進むことを考慮し、人力ではなく機械力の需要が高まると予測して、選択と集中を機械取扱に移していく。(和歌山、農業機械・資材・管材卸売業等)

○大手企業の下請けを断ったため、全体の売上が1割下落したが、利益は上昇した。従来参加していた入札物件も大幅に減少。機構改革、社員教育を徹底し、付加価値の増大をめざしている。(岡山、サービス業)

「中小企業家しんぶん」 2016年 8月 5日号より