英EU離脱でどうなるか

英国の離脱には必然的な面がある

 6月23日に英国で行われたEUに残留するか、離脱するかをたずねた国民投票は、大方の予想に反し、離脱派の勝利に終わりました。英ポンドが急落し、ドル/円相場は一時99円台になり、日経平均株価は1万5000円を割り込みました。

 この件から1カ月半が経過し、マーケットは今のところ冷静です。通貨ポンドの下落にも歯止めがかかっています。ただ、今後、各方面に長く影響を及ぼすものと見られています。

 英調査機関によると、低所得者の64%が「離脱」に投票したのに対し、高所得者や中所得者の57%が「残留」に投票しました(7月11日、日本経済新聞)。東欧へのEU拡大で移民が増えた一方、賃金が増えない低所得者の不満が、移民政策への批判や「反EU」感情につながりました。

 しかし、国際通貨基金(IMF)は移民が1人当たり国内総生産(GDP)を押し上げたとの試算を紹介し「移民が英国民の雇用を奪ったとの根拠はほとんどない」と強調しています。

 にもかかわらず移民を悪者扱いして、国民の不安心理や恐怖感に訴えた離脱派の主張が浸透したところに事態の深刻さがあります。

ただし、それだけで離脱するでしょうか。通常は経済的利害では離脱しないのに、なぜ離脱に踏み切ったのか。実は、EU離脱の背景には利点もあるのです。

 EUの金融規制は独仏主導により、一層厳しいものとなっています。英国の金融業はEUの監督下に直接入ることは免れていましたが、EUの規制から陰に陽に影響を受けていました。EU離脱でEU諸国向けの取引をロンドンでは自由にできなくなりますが、英国の金融機関はEUの規制から自由になり、スイスやシンガポールのような競争力を持つことも可能になると考えられるのです(7月29日、日本経済新聞)。なるほど、英国らしい生き方になります。

 それでは、大陸側に英EU離脱のメリットはないのか。それがあるのです。

 英国離脱後の週明けの6月27日、EUがNATO(北大西洋条約機構)や米国から自立させる軍事統合を進める計画を発表しました。これまで英国は、EUの内部にいて米英主導のNATOの傘下に「軟禁」してきました。ところが、英国離脱とともに、EUに対する英国の影響力が激減し、そのすきにEUがドイツ主導の軍事統合を加速したのです。例えば、オランダ陸軍の3つの旅団のうち2つがドイツ陸軍に統合されています。逆にドイツ海軍の一部がオランダ海軍の部隊の中に編入されています。このようなやり方でドイツは軍事統合を多国間に拡大していこうとしています。素早い動きです。

 しかも、軍事統合はEU統合を促進します。自国の軍の装備には巨額の政府支出がかかります。景気が悪い中で、それに踏み切るのは難しいのです。今後、誰が政権をとっても、軍事統合の傾向が続くのではないかと予測されます。軍事統合が進むと、外交安保戦略の統合も進み、EU解体の可能性も減るわけです。

 EUからの英国離脱ですが、一筋縄の観測では間に合わないようです。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2016年 8月 15日号より