自社の災害対策について「国民や地域とともに歩む中小企業」の本領発揮を

「同友会景況調査(DOR)2016年4~6月期」オプション調査より

 9月1日は防災の日でした。自社の防災を再点検された方も多かったと思います。4月に発生した熊本地震は中小企業にも大きな被害があり、地震や水害といった自然災害が中小企業経営にとって大きなリスクであることが改めて思い知らされました。2016年4―6月期の同友会景況調査(DOR)オプション項目で「自社での災害対策」を調査しました。

〈調査要項〉

調査時点 2016 年 6 月1~15日
対象企業 中小企業家同友会会員
調査の方法 郵送により自計記入を求めた
回答企業数 2,384 社より 1,013 社の回答をえた(回答率 42.5%)(建設 175 社、製造業 331 社、流通・商業 312 社、サービス業 185 社)
平均従業員数 役員を含む正規従業員 38.95 人 臨時・パート・アルバイトの数 31.91 人

小規模企業での推進がカギ

 地震や水害といった大規模な自然災害に対して、平時から具体的な対策をしているかたずねたところ、実施しているのは「自主的に実施している」(17・2%)と「取引先の要請で実施している」(2・4%)をあわせた19・6%にとどまりました(図1)。一方、「現在計画中である」(14・8%)と「検討中である」(45・5%)をあわせた60・3%が問題意識を持っており、この6割が実際に対策実施に向かうかどうかがカギになります。

 従業員規模別では規模が大きいほど実施しており、規模が小さい企業ほど「検討中」(48%)の割合が大きいことから、小規模企業の実態にあわせた災害対策の課題が整理され、参考にできる実践事例の普及が必要といえます。地域経済圏別では、実施しているのは関東と北海道・東北が全国平均を上回った一方、九州・沖縄で少なくなっており「東高西低」の傾向が見られます。熊本地震を挙げるまでもなく自然災害は日本列島どの地域でも直面したリスクという認識が求められています。

東日本大震災を契機に意識高まる

 実施している企業に開始時期をたずねたところ、東日本大震災(2011年)から今日までの時期がもっとも多い65・9%、阪神から中越の前(1995~2004年)までの開始が中越から東日本(2004~2011年)までよりも少し多いとの結果でした(図2)。東日本大震災の発生で災害対策の必要性を経営者に強く認識され、2011年以降、災害対策を行う企業が増えたことがわかります。

 そして実施している企業の対策の内容は、「緊急時の従業員の安全・健康の確保」と「従業員の安否確認方法の確立」の2つが特に多いとの結果で、社員の安全確保が最優先に考えられていることが伺えます(図3)。

 つづいて「避難訓練や避難路の確保」、「会社周辺の災害に関する危険性の把握」、「経営に必要なデータの安全確保」などが多くなっています。一方、経営者が不在の場合の指揮体制の整備、取引先等との相互支援の取り決め、事業資金の確保、優先的に復旧する事業の認定などは比較的に少なくなっており、経営再開・存続に欠かせない指揮系統、生産体制、資金確保などについては遅れが見られます。東日本大震災被災地では半年以内に再建したかどうかでその後の業績が分かれたとの調査結果があり、早期再開と存続を想定した備えが決定的に重要です。この間の東日本大震災、熊本地震の被災地企業がどのような震災対策を行ったのか、どのように再開・存続したのかを教訓化し共有することが課題となっています。

防災計画・BCP策定の推進を

 防災計画

*やBCP(事業継続計画)を策定しているかどうかでは、防災計画かBCPの「両方を策定している」と「いずれかを策定している」の合計は18・2%にとどまり、「予定はない」が44・2%と最も多くなっています(図4)。最初にたずねた「大規模な自然災害に対して、平時から具体的な対策をしているか」で「予定はない」(20%)の倍以上であり、中小企業において防災計画やBCPはハードルが高いと受け止められていることがうかがえます。

 一方、「策定途中」と「予定」の合計が37・6%あり、取り組みの必要性を感じている企業が一定数存在していることから、こうした企業への支援を強めて成果を生み、「予定はない」企業の意識を変えていくことが必要です。従業員規模別にみたとき20人未満で特に「予定はない」が54・3%と多く、小規模企業で実践できる仕組みと教訓化が求められます。

*)防災計画は人的・物的被害の防御・軽減が主眼で、BCPは被災後の事業の継続・早期復旧も視野に入れたものです。

中小企業が地域の命運を握る

 地域での災害対策への協力を具体的に想定しているかの問いでは、「自治体との防災協定を締結」と「自社内で協力を想定している」をあわせた22%が何らかの協力を想定しており、防災計画やBCPを策定している企業よりも若干多いとの結果でした(図5)。

 「準備中」、「検討中」を合わせて42・5%存在することを見ても、災害対策において地域での自社の役割を実感している企業が多いといえそうです。業種別では「自治体との防災協定」は建設業が38・2%で他業種を引き離しており、災害対策の面での建設業の貢献の大きさを物語っています。

 大規模な震災だけでも、1995年の阪神・淡路大震災、2004年の新潟県中越地震、2011年の東日本大震災と連続しており、こうした震災がなくなる可能性はない以上、震災が発生した際のリスクを最小限にとどめ、なるべく早く復旧するための対策を行うことが必要です。

 また発災時に救援や復旧、インフラや産業・生活基盤の再建がスピードをもって進むかどうかは、中小企業の存在が左右していることが分かっており、中小企業が地域の命運を握っているといっても過言ではありません。

 同友会理念の3つ目「国民や地域とともに歩む中小企業」の本領発揮の構えで、災害対策に取り組む時期にきています。

「中小企業家しんぶん」 2016年 9月 15日号より