ドイツのシュタットベルケに学ぶ

「地方創生」では地域に持続的な事業体モデルを

 シュタットベルケとは、ドイツ各地で地域エネルギーと生活インフラの整備・運営を担う小規模の公的な事業体のことです。

 シュタットベルケという地域エネルギー会社が自由化のなかでも自己電源ベースで小売りシェアが2割程度、市場からの調達を含む小売全体では5割弱のシェアを確保し、地域に貢献し、地域になくてはならない存在となっています(瀧口信一郎「地方創生とエネルギー自由化で立ち上がる地域エネルギー事業」JRIレビュー)。

 今までの地方活性化策では公共工事が頭に浮かびます。しかし、従来型の公共工事を推し進めても、人口が減少する地方では大きな税収増もないまま、後年の維持管理費用を増大させる要因となりかねません。「地方創生」を真に実現させるには、従来の概念を捨て、地域における持続的な経済循環を生み出す事業モデルを作り出すことが大事です。

 わが国においても、地域の生活に密着したサービスを提供し続ける「事業体」を組成することにより、雇用や資金循環を生み出すことが期待されます。

 シュタットベルケの数は電力事業を手がけるものが900を超えます。デュイスブルグ市のシュタットベルケの試算によれば、大手電力会社から顧客が1ユーロの電力を買った場合、地域内に循環する資金は11セント(約10%)にとどまりますが、シュタットベルケ・デュイスブルグから買った場合には29セント(約30%)が地域内に循環するとされています。すなわち、大手電力会社から電力を買うのに比べ、電力販売額の20%に相当する資金が地域内の資金循環に加わることとなります。

 雇用で見ると、10万人を超える従業員を抱えています。このようにシュタットベルケは、「地域のため」という経営理念のもと、地域の経済と雇用双方で多大な貢献を果たしています。

 日本でも地域エネルギー事業を実現する動きが進んでいます。人口20万人程度の都市での事業展開を想定し、鳥取市を対象に試算したところ、年間30億円弱、15年間で430億円超の経済波及効果を生み出し、年間160名程度、15年間でのべ2500名弱の雇用を生み出すことがわかりました。公共工事の一時的な効果と比べ、地域の事業により、持続的に資金循環が創出されることが地域エネルギー事業の強みであります。

 シュタットベルケのような「地域事業体」を成功させるポイントは、事業基盤の構築を短期的な資金回収効率ではなく、中長期的な地域経済への便益で判断することへの合意形成です。例えば市民や地元企業の活動を支えるエネルギーインフラを整備する場合、エネルギー事業の収支だけで採算を判断するのではなく、そのエネルギーが生み出す産業活動や市民生活という2次、3次の波及効果も含めた便益を見込むべきということです。

 地方創生では、持続的な経済のエンジンを地域に埋め込むことが大切であり、地域エネルギー事業はその役割を果たせる数少ない選択肢の1つなのです。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2016年 9月 15日号より