なぜ今、無電柱化を推進するのか

空を覆う電線類を取りはらえば、地域の魅力が増す

 中小企業家同友会全国協議会が毎年要望する2017年度「国への政策要望・提言」の中に、「欧米やアジアの主要都市に比べて立ち遅れている無電柱化を加速し、安全で快適な都市空間の確保、災害防止、景観向上を進める。2020年東京オリンピックを1つの目標として、日本全国の都市景観の向上に努める」との無電柱化の要望事項があります。

 かつては、さほど気にかけなかった電柱ですが、訪日外国人が著しく増えたり、震災で倒壊した電柱の危険性を身近に感じる中で、「電柱がなくなれば…」と思うようになりました。

 日本の無電柱化は、諸外国と比べて極端に遅れています。ロンドンやパリの無電柱化率100%のほか、台北で95%、シンガポールでも93%、ソウルで46%です。ところが、日本の無電柱化率はわずか1%。比較的整備の進展している東京23区に限っても7%にとどまっています。

 ただし、歴史的な街並みなどで無電柱化が実施され、地域活性化や観光客の増加に寄与している例も見られます。

 例えば、石川県金沢市。景観施策の一環として、幹線道路にとどまらず、藩政時代から受け継いだ細街路(さいがいろ)(狭あい道路)の無電柱化を行いました。また、埼玉県川越市も商店街や住民が積極的に働きかけて整備されたことで知られています。「金沢や川越のようにしたらいいのに」と思いますが、そうならないのには訳があるわけです。

 日本で無電柱化が進まない最大の理由は、整備費用の高さ。道路1メートル当たり、電線共同溝整備の土木工事に約3・5億円、電気設備工事に約1・8億円かかるとされています。これは、電柱を使用する場合(1000~2000万円)に比べ、電気事業者と道路管理者の双方にとって大きな費用負担となっています。

 2013年、道路法が改正されて以降、制度改正や低コスト手法の開発が行われてきました。

 例えば、直接埋設方式は、幅員の狭い道路での地中化にも適用できるほか、土木工事費を1メートル当たり約0・8億円まで縮減できると試算されています。さらに、国土交通省は2016年2月、電線類の埋設深さ基準を浅くすることを各地の地方整備局等に通知。一般的な電力・通信用の管(径15センチメートル未満)の場合、従来は車道で80センチメートル、歩道で40センチメートルの深さが必要とされたところ、本通知によってそれぞれ35センチメートル、15センチメートルに基準が緩和されています(千田和明「無電中化をめぐる近年の動向」国立国会図書館『調査と情報』2016年9月27日)。

 日本の空を覆う電線類を「ホワイトノイズ」(普段は意識されないが、1度気づくと意識にまとわりつく微細な騒音のようなもの)と表現し、その解決を訴えている方もいます。

 良好な景観の形成や防災性の向上、道路のバリアフリー化の必要から無電中化が推進されています。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を控え、いま動きが活発化しています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2016年 11月 15日号より