【第23回経営研究集会 第5分科会】金融庁・信金幹部と「ベンチマーク」をめぐりパネルディスカッション

 10~11月には各同友会でさまざまな経営研究集会が開かれています。今回は東京・和歌山・長崎の3同友会の経営研究集会・フォーラムを紹介します。

 東京同友会は10月27日、「第23回東京経営研究集会 中小企業家サミット2016」を開催しました。

 第5分科会では「金融庁来たる!! 中小企業金融はどう変わるか~行政、貸し手、借り手の本音トーク」と題してパネルディスカッションを開催。金融庁、信用金庫、経営者の各立場から活発な議論となりました。この分科会は、金融庁が金融機関への金融仲介機能の可視化を進める「ベンチマーク(指標)」を策定するなか、その意義を確認し、中小企業家がどう対処するのかを検討する目的で開催されました。

中小企業と地域に貢献する金融業への転換を促す―金融庁

報告する日下氏

 冒頭、金融庁総務企画局の日下智晴地域金融企画室長が基調報告を行い、これまで金融機関が過度に「健全性」を追い求めた結果、企業の事業性評価をあまり行わないまま安易に担保・保証に依存する融資姿勢が存在する実態を示し、中小企業と地域に貢献する金融業への転換を促すために金融庁は方針を転換したと説明。企業側の立場にたってニーズ・課題の把握を行い、事業性評価を踏まえた対話を行っている金融機関の好事例を参考にして、金融機関自らが自己点検・評価を行う手がかりとなる「ベンチマーク(全55項目)」を策定したこと、金融庁は、各金融機関における「ベンチマーク」を活用した取り組みの進捗状況や課題について、各金融機関が金融仲介の質を高めていけるように効果的な対話を行っていくと報告しました。

金融アセスメント法制定運動の成果を確認―東京同友会

 東京同友会の三宅 一男 代表理事は、1990年代に起こった金融機関の貸し渋り、貸しはがしに対し、同友会が地域と中小企業の金融環境改善をめざして取り組んだ「金融アセスメント法制定運動」が、金融機関の営業実態を「地域への円滑な資金供給」や「利用者利便」の観点から公的機関が評価・情報公開をする仕組みを提唱したことを振り返り、今回の金融庁の「ベンチマーク」の取り組みはそれとオーバーラップするものであり、心から歓迎すると述べました。一方で、1990年代の貸し渋り、貸しはがしではメガバンクの姿勢が大きな問題になったとして、今回の取り組みをメガバンクに波及させることを要望しました。

取引先の立場にたった金融ビジネスに徹することが発展のカギ―西武信金

 西武信用金庫の落合寛司理事長(東京同友会会員)は「真の協同組織金融機関を目指す」をスローガンに、メイン取引先を守るために3万人の専門家と提携してコンサルティング機能を向上させてきた結果、預貸率が業界平均を大きく上回る76・05%になると同時に、不良債権比率を1・74%に下げてきたことを報告、今後は、企業の資金繰りや事業再生など「真の悩み」に多く応えること、地域のNPOへの融資拡大など地域課題解決も念頭において、コンサルティング機能をいっそう強化したいと語りました。

 また「ベンチマーク」が実際に効果を生むためには、各金融機関が好事例を形式的に真似るのでなく、取引先や地域の実態に噛み合った展開が不可欠になるとの認識を示しました。

自社の存在意義と発展方向の明確化がいっそう重要

 パネルディスカッションを受けてグループ討論を行い、参加者からは「金融環境の変化をよく研究し、自社と金融機関の関係改善を進めたい」「経営指針の作成・実践という同友会がめざす企業づくりを広げたい」などの感想が出されました。

 座長を務めた東京同友会政策渉外本部の佐々木 正勝 副本部長は「金融行政が中小企業と地域への貢献を重視する方向に転換した中、私たち経営者はいっそう事業の存在意義と発展方向を明確にし、発信することが重要です。そして金融機関に対して『ベンチマーク』に基づく取り組みの推進を求めていきましょう」と述べて分科会を締めくくりました。この分科会は東京同友会政策渉外本部が担当し、8つの分科会のうち最も多い73名が参加し、金融行政の変化に対する関心と、同友会の取り組みに対する期待の大きさが実感される分科会となりました。

「中小企業家しんぶん」 2016年 11月 15日号より