トランプ大統領はなぜ生まれたか

2大政党に飽き足らない無党派が歴史をつくる

 2016年のアメリカ大統領選挙は、米国民だけでなく世界の多くの人々の予想を覆す結果となりました。日本でドナルド・トランプ氏の当選を早くから予見していたのは木村太郎氏など極少数であったと記憶しています。

 確かに異例ずくめの選挙でした。政治経験も共和党指導部からの支持も無しに、ツイッターなどで直接支持者に呼びかけて予備選挙に続き本選挙に勝利したトランプ候補。一方、若年層からの強い支持で、20州を超える民主党予備選挙で躍進した民主的社会主義者、バーニー・サンダース候補。いずれも大統領選挙の常識を覆すものでした。

 このような現象を引き起こしたのは、党指導部の指示や思惑を無視して立ち上がった、いわば党指導部への「有権者の反乱」でした。 しかし、トランプ勝利は「反乱」だけで説明することはできません。近年における米国有権者の政党支持の全体的な動向を振り返って見る必要があります。

 世論調査によれば、共和党支持者、民主党支持者、2大政党以外の独立派支持者(無党派)の割合は、多少の異動はありますが、同じ30%前後の支持率を分け合っていました。

 ところが、ウォール街の金融恐慌を契機に世界不況が発生した2008年以降、独立派の割合が大きく上昇(35・1%)し、民主党(34・4%)と共和党(23・9%)支持者を上回るようになりました。

 2008年の大統領選挙で、当初党指導部から支持されていなかったリベラルで非白人出身のオバマ候補が、民主党本流のヒラリー・クリントン候補を破って大統領に当選できたのは、すでに無党派層が重要な役割を果たしていたのです。

 ですが、オバマ大統領は議会の制約などから無党派層の期待に応えることができませんでした。結果、有権者の不満はますます顕著になり、2015年の調査では、独立派が40・1%、民主党は30・4%、共和党が23・7%という状態に至りました。2大政党に飽き足らない無党派有権者が「多数派」になり、その動向が連邦レベルの選挙の帰趨(きすう)を大きく左右する状況が生まれていたのです(高田太久吉「アメリカ社会に何が起きているのか」『経済』2017年1月号)。

 もっとも、トランプ氏は財務長官、商務長官という経済閣僚にウォール街出身者を起用することにしました。格差をさらに拡大しかねません。またしても、無党派層の念願に応えることができなくなりそうです。

 翻って日本ではどうでしょうか。確かに日本でも選挙の度に、第1党は無党派という場合が多くなっています。もし、無党派層が独自の要望や主張を持つようになったとき、いずれかの時点で、驚くべき事態をもたらすかもしれません。

 例えば、「東京」と「地方」の経済の地域格差。アメリカでは「21世紀の南北戦争」というらしいですが、日本ではこの問題の矛盾の緩和を図るのか、図らないのか。教訓を汲みつくす力が問われています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2016年 12月 15日号より