新シリーズ「エネルギーシフト」へのアプローチ(岩手編)(1)

私たちがやってみたこと、将来に向かって展望していること

 私たちの生活に欠かすことのできないエネルギー。しかし、いざエネルギーシフトと聞いた瞬間に耳が閉じてしまう。そんなことはないでしょうか。実は岩手でもその繰り返しで進んできました。今回からの5回シリーズでは、具体的に岩手で取り組んできたエネルギーシフトの実践方法について、岩手同友会事務局長の菊田哲氏より紹介します。

まず触れてみることがスタート

 自分が食べたフランス料理のコースの素晴らしさを人に伝えても、食べた本人にしか、そのおいしさや雰囲気から受けた衝撃は伝わりません。誤解を恐れずに言うと、エネルギーシフトも実際に体験した人にしか、感じられないものかもしれません。でもそれを誰でもわかるようにすることが、私たちの役割ではないでしょうか。

 私たちがこれまで取り組んできたのは、(1)伝達・連携(エネルギーシフトに興味を持つファンづくり)→(2)想起・共鳴(自分もそう思う。やってみよう)→(3)行動(実際に取り組んでいる先進事例や地域に出向き、触れてみる)→(4)実践・実証(自社や地域で実際にやってみる)の繰り返しです。唐突に、「エネルギーシフトは中小企業の仕事づくりになる」と言われてもすぐには納得いかないのは、その間が欠如しているせいかもしれません。

 これまで3回行ってきた欧州視察では、毎回視察テーマが進化(深化)していきました。異国の地への憧憬からはじまった視察も、岩手に持ち帰り前述のような実証を続ける中で、課題が明確になり、次のチームにバトンリレーすることで、岩手全体の取り組みに変わっていきました。

実践を進める上で大切なこと

 最も私たちが大切にしたキーワードは「専門家」です。まず地域で伝えて行くには、一緒に思いを科学的裏付けを持って伝えることができるパートナーが必要です。視点を変えるだけで、これまで人生をかけてエネルギーシフトに取り組んできた専門家と出会うことができます。どの地域にも必ずおいでになるはずです。

 私たちが初めに出会ったのは、エネルギーアドバイザーの長土居正弘さんでした。

 ドイツやスイスにこれまで28回自費で訪問し、建築物の断熱やエネルギー管理について独自の専門的な理論をお持ちでした。同時に岩手大学などの研究機関には、工学化学分野のプロフェッショナルがおいででした。そうした方々と地域全体に伝えていく手段として、同友会内にエネルギーシフト研究会を立ち上げ、専門性と多様な企業文化が交流することで、一気に地域内から国内へ、そして海外へとのパイプが広がりました。

専門家人材を地域で育成すること

 今後さらに、エネルギーシフトの実践見本をお見せする展示場やエネルギー研究所の必要性を感じているのは、私たち自身が「地域に暮らす市民の皆さんにとってのアドバイザーであり、先導する専門家でなくてはならない」からです。

 平泉ドライビングスクールの校舎新築では、エネルギーアドバイザーの協力で地元の工務店の若手の社員が、徹底した断熱施工技術の習得や建築物の性能、CO2コントロールの考え方をOJTで学び、今や社員一人ひとりが断熱施工の専門家になっています。

 その施工技術が岩手標準になることが、持続可能な地域の実現につながっていきます。

 地域の事業所の9割9分である中小企業の「専門家人材」が学び育ち、地域に伝えていく機関が必要なのは、そうした理由です。

 ここまでくるとエネルギーシフトが、私たちにとって密接でしかも、どの企業にとっても取り組むべき喫緊の課題であることが見えてきます。まさに環境問題と地域課題に向き合うことは、中小企業の経営課題そのものといえます。

岩手同友会事務局長 菊田 哲

「中小企業家しんぶん」 2017年 2月 5日号より