「エネルギーシフト」へのアプローチ(岩手編)(2)

私たちがやってみたこと、将来に向かって展望していること

私たち自身に置き換えて考える

 前回の記事では、私たちが学んだ「専門家人材」と「地域での実践見本」の大切さをキーワードにしました。

 岩手同友会のこれまでの視察では、ドイツ、スイスに在住する日本人環境ジャーナリスト3人の専門家(MITエナジー・ビジョン社・村上敦氏・池田憲昭氏・滝川薫氏)をパートナーに、進めてきました。欧州視察では折りに触れ、エネルギーシフトを進める上では、3つの段階が必要で欧州ではこの順番で進めていることを、視察した現地で学んできました。その3つとは(1)省エネ、(2)エネルギーの高効率化、(3)再生エネルギーによる創エネです。

 しかしこのまま、岩手に持ち帰ったのでは消化不良を起こし、すぐ風邪をひいてしまいます。実践に移すためには丁寧な翻訳が必要です。同友会の例会・グループ討論での学び方は、変化球2回ひねりが大切だと言われますが、海外での学び合いでは、さらに1回転加え、3回ひねりが必要かもしれません。

 まず「日本、私たちの暮らす地域に置き換えたらどうか」で1回。「わが社で取り組むならどうか」で2回。そして「私自身はどう進めるか」で3回。そう考えたとき、前述の「エネルギーシフトの進め方3つの段階」は、岩手では独自に「4つのショウ」に翻訳しました。

4つのショウ、4つの段階

 その4つとは(1)省エネ、(2)小エネ、(3)生エネ、(4)商エネです。これは同様に順番が大切です。まず(1)省くこと、(2)小さくすること、は誰でも、家庭でもどの企業でもすぐに取り組むことができます。「地域外へ出ているエネルギーに関する投資費用(電気、燃料、熱など含)を外に出さない」ということであれば、この2つだけでも、地域に根付く中小企業にとって無数の仕事づくりにつながります。(3)エネルギーを生み出すこと、(4)エネルギー関連の事業を起こすことは、実現はできますが多少ハードルがあります。岩手では何からはじめるかを考えるときに、この視点を常に意識してきました。

 岩手から欧州視察に参加したメンバーは、競い合うように小さな取り組みを進めています。若手のリンゴ生産者は、ドイツの農家のあらゆる屋根にソーラー発電がある姿に刺激を受け、農業生産とエネルギーの自立を実現する模索をはじめています。山あいの自動車整備工場では、工場のエネルギー使用の見える化を実施。エネルギー効率の悪い古い設備をどうしていくか、社内で議論をしはじめました。そうした、地域での数多くの取り組みは、視察に参加していないメンバーにとっても刺激になり、「自分も何かやってみよう」という雰囲気が生まれています。

取り引きではなく取り組みを後押し

フォーアールベルク州のエネルギー研究所を訪問しハラルド・グマイナー氏と懇談

 こうした変化を先述のMITのメンバーと共有することで、視察プログラムにも変化が現れてきました。昨年秋の第3回視察では、エネルギー研究所での1日ワークショップを取り入れました。恐らく以前であれば全容を理解できず、お腹を壊していたかも知れません。

 創立から30年になるオーストリア、フォーアールベルク州のエネルギー研究所には、地域でエネルギーシフトを進める上での、あらゆるエネルギーに関する数値の蓄積、研究者や教育者としての専門家人材、企業が扱う原材料・製品の性能データがあります。しかしこのような専門性がありながら「敷居」が低いということに、注目を置くべきです。

 「お試しください」という姿勢を貫き、市民にはエネルギー家計簿の作り方を、自治体にはエネルギー政策の立案から実施まで歩調を合わせてアドバイス。企業のデータを公開し、取り引きではなく企業間で新たな事業を生み出す、取り組みを後押しします。

よりどころとなる場所の必要性

 人口が1000人にも満たない山あいの村でも、生活の質を大切にした豊かな暮らしが実現している背景には、こうした長年の地道な先人の努力がありました。まさに「省エネと小エネだけで、地域内の貨幣循環がこれだけできるんだ」というモデルです。私たち岩手のメンバーがエネルギーシフト研究会を立ち上げ、岩手でのエネルギー研究所の創設に心ひかれるのは、こうした姿を見てしまったからです。

 「4つのショウ」には、最近もう1つ、(5)創が付け加えられました。これは、域内での付加価値の創造という視点が加わったときに生まれるものではないかと思います。これは中小企業にとっての新たな事業と雇用の創出に直結します。

 さて皆さんも、3回転ひねりを加えて、それぞれのエネルギーシフトに今日から取り組んでみませんか。

岩手同友会事務局長 菊田 哲

「中小企業家しんぶん」 2017年 2月 15日号より