「エネルギーシフト」へのアプローチ(岩手編)(3)

私たちがやってみたこと、将来に向かって展望していること

フライブルグ市郊外のホテルにて、演繹法の考え方を学び、自分の住む地域の展望を描いてみる

 ドイツの子どもたちには、小さい頃から「何のために、何をめざすのか」を繰り返し考える習慣があります。未来に実現したい明確な姿(絵)があり、それを達成するには今何をすることが必要か、遠い未来から段階を追って現在まで計画を想定し、最終的には「今何をすべきか」を自ら判断し、自らの責任のもとに行動に移します。

 「積み上げて行けばいつか実現するだろう」という考え方とは逆の発想です。

「何のために」を問いかけ続けて

 岩手の県北、葛巻町の前野モータース・前野嗣郎氏(いわて青年未来塾代表)は、一昨年参加した欧州視察で訪れたオーストリアの山間の人口1000人での豊かな人間らしい暮らしぶりが、自分が住む町の姿にそのまま重なりました。1万人を超える人口があった葛巻町の人口減少は著しく、現在では7000人ほどに。

 「人のせいにするのではなく、自分たちの手で社員と地域の未来のためにエネルギーシフトを地域で実践したい」と強く感じた前野氏は、町長に直談判し行政、企業、酪農家の垣根を越えて町全体を巻き込み、エネルギーシフトの講演会開催にこぎ着けました。満席の会場で思いを同じくしてから半年。現在では、未来の町の姿を描くプロジェクトが動きだし、企業の若手社員や住民が町の職員と一緒に6つのワーキンググループに分かれ、意見の集約が進められています。

 「何のために」をとことん問いかけ、具体的なめざす未来の姿をビジョンとして掲げ、そこから現在自分が取るべき行動に移す、こうした演繹(えんえき)的な考え方は、中小企業憲章、地域では中小企業振興基本条例、そして企業では経営指針のビジョンの実現をめざす取り組みそのものです。

未来予想図から生み出す付加価値

 「この車が自分が買う最後の車かもしれない」ご年配のお客様から何度もそう聴くにつれ、前野氏は考え方を、壊れてから直す「アフター整備」から、できる限り壊れないようにする「ビフォア整備」に180度変えました。

 岩手では冬場、毎日のように凍結防止のための融雪剤を道路に撒きます。その影響で新車でも一冬で車の下回りは錆だらけになり、整備費用が重なります。そこで始めたのが、車体のネジの1本まですべて外して錆止めを塗り組み立て直す防錆塗装です。おのずと時間もかかり費用も高くなりますが、それでも受注が相次いでいます。

 エネルギーシフトに取り組むことは、地域の未来予想図から、自社にしかできない付加価値サービスを生み出していくことにつながります。それは次の世代へのバトンリレーであり、企業づくりと地域づくりに直結していきます。

岩手同友会事務局長 菊田 哲

「中小企業家しんぶん」 2017年 3月 5日号より