積極的市場開発で消費支出の減退に立ち向かう

黒瀬直宏嘉悦大学教授が迫る

 嘉悦大学教授の黒瀬直宏氏が全国の製造業を取材し紹介する「業界ウォッチ」特別版。第6回は合資会社鳥丸八十七商店(鳥丸克彦専務取締役、熊本同友会会員)を紹介します。

合資会社鳥丸八十七商店 専務取締役 鳥丸 克彦氏(熊本)

 鳥丸八十七商店(熊本市、従業者22人)はこんにゃくの製造と卸を行っています。こんにゃくの1世帯(2人以上の世帯)当たり購入額は、2000年を100とすると2015年は70と低下しています(総務省統計局「家計調査年報」)。

 しかし、同社では2000年度売上5800万円に対し2012年度は1億4200万円、2・4倍にもなっています。積極的な製品開発と販促活動の成果です。

業務用販売と小売店向けの2つの柱

 同社の事業には2つの柱があります。

 1つは業務用販売で、外食・中食向けや学校給食向け販売です。これが売り上げの60~70%を占め、残りが高級スーパーなど小売店向けです。

 前者は安定売上先として経営の土台となっています。後者は同社の開発力、販売力を武器とする高付加価値製品の販路として、経営の発展基盤となっています。

 一般スーパーのこんにゃくの中位の価格が100だとすると高級スーパーでは120くらいですが、さらにその1・5倍の180程度で売れる製品を供給しています。

 高級スーパー向け製品の例としては柚子を練りこんだ「ゆずっこ」があります。熊本県山都町の柚木地区は柚子の自生地、農薬・除草剤を一切使用していません。その柚子の皮をふんだんに練り込んだ30年来のヒット製品です。

 「サラダこんにゃく」は断面をS字にカットした、新食感のこんにゃくで、サラダのほかパスタ、スープなどの添え物にもあいます。

 最近の例では、焼き肉のタレで食べる「マンナンカルビ(おからを入れたこんにゃく)」の開発があります。また、「サラダこんにゃく」の新規改良版で、S字カットのこんにゃくを食べやすい長さと大きさにし、水洗いですぐ食べられる「エスコン」も開発しました。

市場は創りだすもの

 こんにゃくは料理の主人公とは言えませんが、このようにいろいろ開発の種があるとは驚きです。市場には気づかれていない需要がたくさんあるということです。

 製品開発にあたって各種の制度を有効に利用しています。

 「マンナンカルビ(おからを入れたこんにゃく)」は「農商工等連携促進法」に基づく補助金を、「エスコン」は「地域資源活用促進法」に基づく補助金を活用しています。そのほかにも中小企業基盤整備機構の行う「アドバイザー派遣事業」、「女性専門家による商品品評会」、熊本県の「テストマーケティング支援事業」などを活用しています。

 中小企業を対象とした各種支援制度は、中小企業にとっては一種のインフラであり、前向きの企業の多くが活用していますが、同社はその一例です。

 中小企業の中には製品は開発したが、売り方がわからないというケースがよくあります。中小企業にとって作るより売る方がよっぽど難しいのです。

 その点、同社は販促活動も極めて活発です。展示商談会への出店、全国のデパートでの試食販売を積極的に行っています。デパートの方からお呼びがかかることも多いようです。試食販売では同社の商品だけでなく、例えばドレッシングも一緒に販売し、喜ばれているそうです。これがお呼びのかかる理由の1つかもしれません。

 同社は家庭の消費支出が減っていても、潜在需要はたくさんあり、積極的な製品開発と販促があれば成長できることを示しています。

 市場は与えられるものでなく創りだすものです。

「中小企業家しんぶん」 2017年 4月 5日号より