【中同協東日本大震災復興視察ツアー 報告要旨】(3)

 中同協は3月16から17日に、「東日本大震災復興視察ツアー」を実施しました(5月5日、5月15日号既報)。今号では、1日目に行なわれた(株)八葉水産代表取締役・宮城同友会前気仙沼支部長の清水敏也氏と京都大学経済学研究科教授の岡田知弘氏、2人の報告概要を掲載いたします。

地域の復興は自社のイノベーションから

(株)八葉水産 代表取締役 宮城同友会前気仙沼支部長 清水 敏也氏

 震災から6年が経ち、気仙沼市でも大きなプロジェクトがすすんでいますが、その傍らで仮設住宅、人口減少の問題と少子化・高齢化などの問題が出ています。

 市の人口は、国立社会保障・人口問題研究所の推計値では、2040年には4万5000人とされています。今は約6万5000人ですが、震災時の7万5000人から3万人減少する予測ということです。

 市内の高校生へのアンケートでは、進学などで仙台や東京に出ても気仙沼市に「帰りたい」という回答が56・5%、「あまりそう思わない」が40・9%という結果でした。就職という人生の選択でどのように帰ってくるかということが関心事です。

 気仙沼市にかかわった企業やボランティアの方などが、「ゴーヘイ!気仙沼の会」をつくって企業誘致をしています。“ゴーヘイ!”はgo ahead!で、前に進もうという意味で、高校生をはじめ、どのように故郷に戻ってきてもらうかという取り組みです。まだ具体的な結果としてはわずかですが、少し動きが出ています。

「地方にある世界の港町」として海とともに生きる

 気仙沼は、「地方にある世界の港町」として海とともに生きていく町で、水産資源で雇用を生む挑戦も続いています。魚が水揚げされ、仲買さんを経て地方や都市部へ届く過程では、運送業だけでなく、さまざまな資材を含むサプライチェーンがあり、80%近くが水産業にかかわっています。さらに、これまで見逃していたものを活用して商品に変えていく取り組みのひとつとして、観光に目を向けました。魚市場を核としたコンテンツ、たとえば魚を入れる箱の製造や製氷なども見てもらうようにすると、これを目的に来る人も増えました。

 また、気仙沼はマグロとフカヒレが有名ですが、実はメカジキの70%は気仙沼で水揚げされます。市内10数店舗の飲食店では、メカジキを売り物にしています。

 人材育成では、同友会の仲間を含めて「経営未来塾」という取り組みをしています。そこで学んだ仲間が造船団地に組合を設立して、「未来造船」として将来にむけて企業合同をおこないました。水産の縮小で造船業も規模が小さくなった背景の中で、4社がひとつになりました。各社が課題を抱えたままでいいのかということでの挑戦で、市も場所の確保を国土交通省とともにすすめています。

新しい産業を創りだす

 次に新産業創出ですが、歌手の吉川晃司さんと布袋泰寅さんが組むCOMPLEX(コンプレックス)というユニットがあり、そこの原資を利用して公募事業に助成するというものがあります。ここに応募したひとつが帆布製品製造事業です。私の妻が責任者で、製造に6人、店舗に2人、工場には通えない製造担当が2人の女性10人でやっています。公募事業から生まれた14社が、仕事づくりと人づくりに取り組んでいることも大きな特色です。

 一方、今月20日で復興屋台村が“閉村”しますが、次の場所に移って事業を続けることができない人がたくさいます。土地のかさ上げができていない、人やお金が準備できていないなど、躊躇(ちゅうちょ)することが多いのです。しかしこの時間が長いほど町の力が削がれていきます。スピードの問題が、人の復興、心の復興に陰を落としている要因だと思います。

 これからの課題は、人の採用、魚の水揚げ、交流人口がどうなるかなどがあり、一つひとつ私たちが解決して進めていく必要があると認識しています。同友会の仲間が気仙沼市のプロジェクトに積極的にかかわって、人・仕事・まちをつくり、復興に取り組んできたことをお伝えして報告といたします。

災害の時代に立ち向かう

7年目に入った東日本大震災被災地の中小企業家の取り組みから学ぶ

京都大学経済学研究科 教授 岡田 知弘氏

全国に共通する「未被災地」

 2011年5月から気仙沼市で調査を始め、復興商店街や先ほどお話のあった帆布製品製造のGANBAARE(ガンバーレ)の立ち上げを見てきました。グループ補助金という初めて登場した施策があり、政府も自治体もどう扱っていいかわからない状態でしたが、気仙沼の取り組みを新聞やNHKなどで取り上げてもらい、宮城県では18次まで、熊本県では2次、大分県では激甚災害の指定がなくとも使えるようになりました。

 最近、私は「未被災地」という表現をしています。「未だ被災していないけれども、これから必ず被災する」という、全国に共通する考え方で、日本列島は大災害の時代に入ったという認識です。地震学者の石橋克彦氏が1994年に『大地動乱の時代』を著しました。その翌年に阪神・淡路大震災、そして新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震、鳥取県中部地震と次々と起こり、火山災害、水害は毎年のように起こっています。

 判明している活断層の地図では、鳥取中部地震が起きた地域には見当たりません。これが“隠れ断層”であり、どこで地震が起こっても不思議ではないのです。行政も民間も、常に使えるBCP(事業継続計画)をつくっておく必要があります。

災害復興に必要なこと

 災害復興は、インフラと産業の復興に併せて生活の復興が必要です。企業にとっては投資活動が地域内で再開できるかどうかが重要です。熊本県では、県内に本社がある企業で働く人は8割、県外企業が2割で、圧倒的に地元企業です。ここが再投資力を再生していかないと、地域社会・経済は再生できず、復興資金がどう回るかがカギになります。

 阪神・淡路大震災では、10年後の兵庫県の調査によると、14億円を超す官民復興事業の9割を地域外資本が受注したということです。地元発注率がもっと高ければ復興は早まったでしょう。

 もうひとつは、平時から地域産業を育成しておくことです。私たちの言葉では、「中小企業振興基本条例で、事前復興を」であり、被災地でも「未被災地」でも有効に使うことができます。

 被災して7年目に入りますが、まだ災害は続いています。原発事故が収束していない福島を中心に3523人もの震災関連死となっており、私は、「政策災害」と呼んでいます。

 復興庁は、激甚被災3県の鉱工業生産能力は回復したとしていますが、ここに水産加工業は入っていません。グループ補助金交付企業で、震災前水準に回復した企業は45・2%(16年7月)にとどまります。

気仙沼・本吉地域の営業再開事業者(商工会議所・商工会会員、16年3月時点)は67%、グループ補助金による事業完了は73%ですが、同友会会員の再開は95%とたいへん高くなっています。

 一方、顕在化している経営課題もあります。東北経済産業局の調査では、人材の確保、人口減少による顧客の喪失による新規の販路確保、などが必要になっています。建設関係は復興需要がピークを迎え、縮小していきます。帝国データバンクの調査では、休廃業と倒産が増えており、特に建設業は対前年1割増です。

 このように、個別経営で解決できない課題を国や自治体による政策で打開していく活動に取り組むことも、進ちょく状況によって重要になってきます。

人間らしい暮らしの復活のために

 さて、「人間の復興」を成しとげる際には、「人間性」の復興が必要です。人間らしい生活を回復するために自ら復興に取り組む。これこそが地域の再生をはかる原動力であるということを、気仙沼のみなさんの取り組みから見いだしました。

 清水さんによると、「何もすることがないということほど、人間にとって辛いことはない」という思いから避難者皆さんの取り組みが始まります。生存の危機を経験した人々だからこそ、これだけの認識に至ったのだと思います。

 「未被災地」でも、同じような問題をかかえています。社会、企業、行政が共に、人間らしい暮らしを復活させるとはどういうことかを考えて取り組むときです。被災地の皆さんはその最先端の取り組みをされているのであり、大いに学んでもらいたいと思います。

「中小企業家しんぶん」 2017年 5月 25日号より