7割強の企業が賃上げ~社員が安心して働ける環境づくりを【同友会景況調査(DOR119号)2017年1~3月期オプション調査】

2017年度の賃上げについて

 中同協・企業環境研究センターでは、2017年1~3月期の同友会景況調査(DOR対象企業2309社のうち918社回答、平均正規従業員数37・8人)のオプション項目として2017年度の賃上げについて調査しました。2年前の2015年1~3月期に実施した同内容の調査結果との比較も交えて結果を報告します。

(中同協事務局 本多由香)

〈調査概要〉

調査時点 2017年3月1~15日
調査対象 2,309 社
回答企業 918社(回答率39.8%)(建設161社、製造業288社、流通・商業271社、サービス業191社)
平均従業員数 (1)37.8人(役員含む・正規従業員)(2)31.7人(臨時・パート・アルバイト)

従業員100人以上企業は9割が賃上げ

 2015年度調査時は「賃上げ実施を決定」、「賃上げ実施を予定」と回答した企業が57・8%だったのに対して、2017年度調査では、73・3%と15・5%もアップしました。「賃上げの是非を検討」と回答した企業は23・3%から13・2%と約10%減少し、「賃金の圧縮を考えている」と回答した企業も4・6%から1・8%と減少しています。(図1)

 このところの人材不足への危機感の高まりから、賃上げを決断する企業が増えているようです。

 業種別では、「決定」と回答した企業割合が最も高かったのはサービス業(30・3%)、「予定」と回答した割合が高かったのは製造業(50・5%)でした。

 企業規模では従業員数百人以上の企業が「決定」「予定」いずれの回答も最も高く、両項目を合わせると9割の企業が賃上げをしています。一方で「未定」と回答した企業割合が高かったのは業種別では流通・商業、企業規模では20人未満でした。

「定昇・ベースアップ」企業割合が増加

 賃上げを「決定」または「予定」と回答した企業に、賃上げの方法について聞いてみたところ、「定昇のみ」30・6%(2015年34・7%)、「定昇・ベースアップ」27・9%(2015年20・5%)、「定昇・賞与」27・9%(2015年30・6%)となりました。

 「定昇・ベースアップ」と回答した企業が増え、2年前の調査と比べると上位3項目の指摘割合の差が縮まりました。

 なお、賃上げを決定・予定している企業の7割で昇給率が1%~3%未満という結果となりました。

賃上げの理由「従業員の意欲向上」がトップ

 賃上げの主な理由として「従業員の意欲向上」(77・2%)、「従業員の生活保障」(43・0%)、「処遇改善による従業員の定着」(以下、「従業員定着」、42・0%)、「規定による定期昇給」(以下、「定期昇給」、22・4%)、「業績の回復・向上」(21・8%)が挙げられます(複数回答)(図2)。

 「労使見解」をもとにした「人を生かす経営」をめざす上で、社員が生き生きとかつ安心して働ける環境づくりのためには、給与面での保障も欠かせない要素のひとつです。それに真摯(しんし)に取り組んでいることが賃上げの理由・要因からうかがえます。

規模、業績による賃上げ理由・背景の傾向

 賃上げ理由は、以下の項目で規模による相関関係がみられました。(1)100人以上、(2)50~100人未満、(3)20~50人未満、(4)20人未満の規模が大きい順で割合を紹介しますと、「処遇改善による従業員の定着」(1)50・9%、(2)49・5%、(3)39・4%、(4)39・2%(全体42・0%)となり、「従業員の採用のため」(1)27・3%、(2)24・8%、(3)17・7%、(4)13・3%(全体17・8%)となっています(図3)。

 また、売上高が増加した企業ほど「業績の回復・向上」「定期昇給」の割合が高く、減少した企業ほど「従業員定着」「税・社会保険料上昇への対応」の割合が高かったことがわかりました。労働環境の整備を仕組み化し、実践していくことが重要です。

賃上げが難しい背景に「先行き不透明」、過半数が指摘

 一方、賃上げを決定・予定していない企業にその理由を聞いてみたところ、「先行きが不透明なため」(52・5%)、「業績の不振、低迷」(49・2%)、「賃上げより雇用維持を優先」(24・6%)、「賃上げ分を販売価格に転嫁できない」(23・0%)の順となりました(複数回答)。先行きへの危機感が賃上げに対する慎重姿勢に大きな影響を与えていることが分かります(図4)。

 世界的な情勢不安も相まって、先行きの不透明さはますます増しています。そのような中で中小企業は地域経済を担う存在として自負を持ち、どう雇用を守り維持していくかが問われています。

 置かれた状況を冷静に見極め、自社のみならず地域の行く先を見据え、社員とともに「よい会社」づくりへの取り組みを積み重ねる企業が増えれば、安心して住める地域づくりにもつながります。

 社員とともに未来を語りあい、経営指針をつくり、その中に労働環境改善を位置づけて、全社一丸となって業績の向上と環境改善を両立させていきましょう。

回答企業のコメント紹介

 「美しい社屋、社員さん思いの賃金、休暇日数、やる気などの施策を打ち出してきましたが、これからも衆知を集めて継続していきます。同友会で学んできたことをひたすら実践し、社員さんから見て“よい会社”をめざして40年やってきて本当によかったと思います(福岡、製造業)」

「中小企業家しんぶん」 2017年 6月 15日号より