岩手で進むエネルギーシフト【エネルギーシフト研究会実践事例】

平泉ドライビングスクール新築プロジェクト「地域の若者が育つ拠点を目ざして」

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 平泉ドライビングスクール新築プロジェクトは、設計から建築材の選定、断熱施工技術の習得と実践、暖冷房設備、照明設備を含めた細やかな設備へのトータルアドバイスまで、岩手同友会のエネルギーシフトにかかわるメンバーが、欧州視察での研究所訪問やエネルギーシフト研究会での学びあいを通じ、それぞれの持ち味を最大限に生かし、取り組みました。

 中小企業それぞれの強みを発揮し連携すれば、ヨーロッパにもまったく引けを取らない建築が実現できます。まさにそれを裏付けた今回の取り組みでした。

地域から愛される建物へ

 居心地のいい、いつまでも居たくなる自動車学校。構想から2年近くの時間をかけて完成した平泉ドライビングスクールの新校舎に一歩入ると、そこはまったくの別世界です。

 天井から足もとまで温度差がまったく感じられません。エアコンが出す風の音はもちろん、微かにするはずの機械の稼働音さえも聞こえません。外の空っ風をよそに、じんわりと足先から温もりが感じられ汗ばむほどです。

 田村滿氏((株)高田自動車学校代表取締役、岩手同友会会員)とエネルギーアドバイザーの長土居正弘氏が、このプロジェクトを始めるにあたって最初に確認したコンセプトは35年後、つまり2052年にも陳腐化しない建築。そしてかわいらしい建築を実現することでした。

 「陳腐化しない」ということは、すべてにおいての自由度を保ちながら、エネルギー設備技術、情報技術の活用で建物全体のエネルギーコストやメンテナンスコストが、押さえられていることはもちろん、建物のかわいらしさまで保ち続けるということです。

 将来、技術の進展に伴う蓄熱設備や再生可能エネルギー関連の設備を自由に増設することも可能です。さらにこの建物への取り組みが、省エネ建築の地域リーダーの育成をしていくことも目ざしています。

 やがてそれが地域の文化となり、コミュニティー空間として、地域から愛される建物であり続けることを願っています。

エネルギーシフトで地域の人材を育て、残す

 なぜこんなにも心地いいのか。秘密は断熱性能や気密性能だけではありません。室温、湿度だけでなく、照度やCO2濃度のコントロールも大きく影響しています。新鮮な空気を外から取り込みながらも、外気温には影響されない。空気が常に入れ替わっていることさえ、気がつくことはありません。人間の生理的な部分にまで踏み込み科学的に捉えることで快適な暮らしのあり方まで提案できます。「快適な空間、眠くならない学校」が実現できるのです。

 今までにない性能のレベルをめざす建物にかかわりながら地元企業同士、社員同士が成長していきました。エネルギーシフトの実践が、地域の人材を育て、残していくことにもつながりはじめています。

「フォーアールベルク州の持続可能な建築」パンフレットを発刊

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 岩手同友会エネルギーシフト研究会では、オーストリア・フォーアールベルク州のエネルギー研究所発刊の「フォーアールベルク州の持続可能な建築」パンフレットの日本語版を出版しました。

 岩手同友会では、2015年からエネルギーシフト欧州視察をこれまで独自に3回開催してきました。その間、フォーアールベルク州を毎回訪れ、州内の自治体や企業を視察、地域の自立した姿や人々の豊かな暮らし向きを目の当たりにしてきました。

 その中心になりエネルギーシフト・ヴェンデをけん引してきたのは、30数年前に2人で立ち上げたフォーアールベルク州エネルギー研究所です。

 地元企業に対しては、地域内で扱うすべての建材や建築材料の登録制度を作成、基準を満たした材料でなければ使えない仕組みにしています。同時に環境・エネルギー関連施策の補助制度の活用のために、企業が申請書の作成方法や考え方を学べる場を創設するなど、教育機関としての機能も有しています。

 また市民に対しては徹底して「お試しください」という姿勢を示し、誰もが興味を持って持続可能な地域づくりに取り組みやすい方法を提起し、毎日少しずつでも試してみよう、と思える仕組み作りをお手伝いしています。

 こうした地道な取り組みの中から、フォーアールベルクの特長的な持続可能な建築が生まれてきました。

 本書では、研究所そして地域全体で持続可能な地域づくりにどのように取り組んできたのかその歴史と、ツール、費用など具体的なテーマをもとに丁寧に説明を加えています。

 私たちがどこから、どのようにエネルギーシフトを手がけるべきか、そのヒントを提起してくれています。

 ぜひお手にとってご覧ください。

 「フォーアールベルク州の持続可能な建築」は1冊頒価500円(送料無料)。お問い合わせは岩手同友会事務局(TEL:019―626―4477)まで。

「中小企業家しんぶん」 2017年 10月 5日号より