避難所体験から「撥水性食器」を製品化 (株)三義漆器店 代表取締役 曽根 佳弘(福島)

【絆―復興をめざして】第21回

 震災発生から5年目の節目に、福島同友会から発行された『逆境を乗り越える福島の中小企業家たち』(2017年2月24日発行・執筆は2016年秋)より、会員企業の復興の軌跡をシリーズとして数回にわたり掲載します。第2回目は曽根氏の報告です。

 震災からの月日を振り返りますと、今までの人生の中でも本当にさまざまなことが凝縮された5年間でした。会津地方は他地区に比べ震災の被害は少なかったのですが、流通網は寸断され満足に物資は届かず、製品発送もままならない状況に陥りました。

 当社は会津から全国へ製品を発送しているので、まずは当社工場が無事であること、製品は必ず発送するということを一斉メールでお知らせしました。いかなる場合でも、売り場に穴を空けることはお客様にご迷惑が掛かりますし、そうなれば他社製品で代換えされることが必然で、一旦そうなったシェアを取り戻すことの大変さは過去の経験で痛いほど身に染みていました。

 しかしながら逆に、全国の各お取引先様からは、温かい励ましやご心配と応援の声を頂き、ありがたくて涙が溢れた記憶がよみがえります。当時、会津にも相双地区から多くの方々が体育館などで避難所生活を強いられていました。そのような中、「温かい食事を、そして少しでも日常の生活を取り戻してもらいたい」「当社の器が何かお役に立てるのではないか」と思い、市役所窓口に当社製品の寄付の申し出をしたところ、「震災直後で避難所では極度の水不足状態のため使い捨て食器しか使用できない」と断られ、10日位過ぎ水不足も落ち着いたころ約1万個のお椀や丼を寄付させてもらいました。

震災が新商品開発のヒントに

 その時感じた思いは、私たちが製造していた器に対して新たな疑問を投じました。

「より多くの人に、喜んで使ってもらうために…、を常に考えてものづくりをする」。今では当社の経営理念にもなっていますが、当時、すぐに動いたがお役に立てなかったということがずっと心に残っていたのです。

 これをきっかけに、「水をあまり使わない=汚れにくい・汚れはすぐに落ちる」、会津漆器で培ってきた塗りの技術で強力な撥水コーティングが当社でできたら、もっと多くの人が喜ぶものづくりができるのではないか?と考え、即座に塗料メーカーに協力をお願いしました。

 しかし、簡単にはできるものではなく、何度も試験を繰り返している中、塗料メーカーからは、もう無理じゃないでしょうか!と、何度も言われ、「もう少しだけ、もう少しだけ」と、粘ったものでした。あの時に心に感じた思いの強さが、行動となったのだと思います。その甲斐あり、ようやく完成した時は3年が過ぎていました。後日談となりますが、塗料メーカーもあきらめずに踏ん張っていた時、「奇跡的に生まれた」と聞きました。非常識な試験から出た偶然の産物です。

それは、今までよりも撥水効果が飛躍的にアップしており、結果として「(1)こびりつき汚れも簡単に落とせ(2)水の拭き取りがほとんど要らない(3)家事がラクに」というコンセプトにいたりました。

海外市場へ挑戦

 しかしながら、その製品化は非常に困難を極め、作った製品のほとんどは不良品となりました。そのために新たな工場建設を進め、2014年に新工場が完成しました。

 翌年には、地元メディアを始め各種メディアに「撥水性」食器が取り上げられ、消費動向低迷の中、多くの方に関心を寄せてもらえる商品として注目して頂いた結果、生産が追い付かないほどの反響とともに、工場は連日フル稼働しております。一方、震災前に7年間行っていたヨーロッパ市場への進出は、子ども向け食器であり、受注も多数いただき軌道に乗り始めたところでしたが、原発による風評被害によりお客様は離れていってしまいました。製品の放射線量テストの結果、問題なしの公的試験結果を出しても、子ども用であり市場で受け入れられず残念ながら撤退せざるを得ない結果となりました。

 そんな矢先JETRO(日本貿易振興機構)様の支援もあり、アメリカ市場に向け新たな販路開拓を目指すことになりました。合理的なことを好むといわれるアメリカの人たちに向け、当社の製品が通用するのかどうかを最低でも3年の期間を覚悟しながら臨みました。

 漆器や合成漆器などの塗り物を使用しない文化圏の人に、塗り物食器を理解してもらう事は非常に困難を極めました。安価な中国製メラミン食器が出回る中、「日本人はわざわざ高くするために、塗らなくてもいいものを塗っている」というような評価のもと、営業は苦戦しました。価値観の相違…、それは、「何のために塗るのか?」と自問自答し、汚れにくく、洗いやすい、機能的でおしゃれな合成漆器のお弁当箱の開発につながりました。それらは、まずMOMA(ニューヨーク近代美術館)売店にBentoBowl として並び、現在はアメリカ大手チェーンストアTop100 の30位にランクされるThe ContainerStore(ザ・コンテナストア)で販売されています。「多くの人に喜んでもらえる器ができないだろうか?」の思いから、日本全国、世界へお届けする製品が作れたことを大変うれしく思っています。これからも、積極的な寄付活動と人を思うものづくりを真剣に行ってまいります。

(株)三義漆器店 会社概要

創業:1965年
資本金:1,000万円
従業員数:69名
事業内容:会津塗りを全国へ販売中
URL:http://www.owanya.com/

「中小企業家しんぶん」 2017年 12月 25日号より