さらなる雇用創出へ~農事組合法人いわき菌床椎茸組合 代表理事 渡部 明雄(福島)

【絆―復興をめざして】

 震災発生から5年目の節目に、福島同友会から発行された『逆境を乗り越える福島の中小企業家たち』(2017年2月24日発行・執筆は2016年秋)より、会員企業の復興の軌跡をシリーズとして数回にわたり掲載します。第3回目は渡部氏の報告です。

 震災から5年が経過し、復興は新たな段階に入ってきていますが、県内の農林水産業は現在もなお厳しい状況が続いています。風評被害払拭を合言葉に掲げても消費者の心は容易に変えることができないのが現状なのです。

2008年に8名でスタート

 農事組合法人いわき菌床椎茸組合は、2008年7月に組合員8名により、景気低迷などの苦しい中でスタートした事業でした。 2009年に施設面積4000平方メートル、年間生産量200トンから始まった生産施設は、2014年度には年間生産量が500トンに達していましたが、需要拡大の結果、生産が追い付かない状況となり、いわき市の勿来(なこそ)町に新工場の設立となりました。

 新工場は、2015年11月に火入れ式を行い、2016年3月からは出荷も行っています。現在の施設面積は、1万3300平方メートルまで拡大し、年間生産も500トンから1000トン体制となり、現在では多くのお客様へ対応が可能となりました。

 事業が軌道に乗り始めた矢先の2011年、東日本大震災が発生。大きな揺れに襲われ、並べていた菌床が棚から落下・散乱するも建物が耐震設計であったことや発生棚が移動式だったため大きな被害は受けなかったので引き続き出荷作業をしていました。

 しかし、数日後スーパーなどから納品休止のFAX が届き、出荷が一切停止となりました。菌床は生き物なので、出荷が止まっても手をかけるのをやめるわけにはいきませんでした。 今後を思うと不安もありましたが、真っ先に考えたのは当時49名の社員を守ること。次にわれわれは「いわきゴールドしいたけ」ブランドをつくり、消費者も喜んでくれた、ここで事業を諦めるわけにはいかないとの思いが強く社員一丸となり今日に至っています。 これらの経験より菌床製造から生シイタケ出荷までの全工程を見直し、オガ粉・菌床・生シイタケ各段階の放射能測定の検査の強化を図りました。取引先より抜き打ち検査が行われる場合もありますが、現在に至るまですべて基準をクリアしております。これからも安心・安全なシイタケを食卓に届けることを第一に考えています。

 そのために(財)日本きのこ研究所の「安心確保のためのきのこ生産標準」を取得し、販売顧客・消費者への信頼確保に努める計画です。

風評被害に負けず

 震災を乗り越え、生産を継続することはできましたが、現実は厳しく、原発事故以降、風評被害の影響は大きいです。菌床シイタケの販売を再開するも価格は震災前を大きく下回り、現在も完全に回復できない状況です。販売価格が一度安くなると、元の価格まで引き上げることは非常に困難です。

 そのため、「いわきゴールドしいたけ」を乾燥させ有効活用した6次化商品開発にも取り組み始めました。

 震災後に発足された「福島を元気にする会」にて食品加工業者の方々と話をする機会があり、その会話の中でシイタケの風味や旨み、栄養価を生かした商品をと考えました。そして、焼酎・うどん・そうめんが思い浮かび、早速、笹の川酒造様(郡山市)・円谷製麺様(浅川町)とともに商品化に取り組むこととなりました。

 商品化されたのが、「いわきゴールド椎茸焼酎」「いわきゴールド椎茸うどん」「いわきゴールド椎茸そうめん」です。苦労も多々ありましたが、妥協せずに先方と試作を重ね取り組んだ結果、胸を張れる商品となりました。

福島県農業賞を受賞

 震災・原発事故の苦境を乗り越え、シイタケ販売回復に努め、6次化商品開発を評価していただき、2015年、福島県農業賞を受賞することができました。さらに2016年、日本農業のパイオニアを顕彰する「全国農業コンクール」に出場する全国20代表に当組合が選ばれたことは大変名誉なことと思っております。

 これに満足することなく、さらに「いわきを元気にする」という取り組みを今後も続けていきたいと考えています。

 新工場の立ち上げにより、新たに18名の社員を雇用し、総勢78名となりました。私たちの組合は、地元の就職の受け口となり、事業を安定させることが責務と思っています。

 原発事故以降、被災企業は補償を受けながら経営を続けていますが、補償ありきではいずれ会社がなくなってしまいます。夢を持ち、自分たちで動いて切り開くことが大切です。

 新しいことを始めようとする場合、できないと言ってしまえば最初に終わってしまいます。私の場合、有言実行でやると宣言して力を蓄え、パートナーが現れたときに実行に移してきました。

 自分自身の力は微々たるものですが、周りの人たちの力を借りることで新たな展開ができます。これまでも今後もそのような事業を展開していきたいと考えています。

農事組合法人いわき菌床椎茸組合 会社概要

創業:2009年11月1日
従業員数:80名
事業内容:菌床シイタケの栽培と販売
URL:http://www.goldshiitake.org/

「中小企業家しんぶん」 2018年 1月 15日号より