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消費者の「美味(おい)しい」を農家に伝えたい (株)ジェイエイあぐりすかがわ岩瀬 取締役事業部長 佐藤 貞和(福島)

【絆―復興をめざして】第22回

 震災発生から5年目の節目に、福島同友会から発行された『逆境を乗り越える福島の中小企業家たち』(2017年2月24日発行・執筆は2016年秋)より、会員企業の復興の軌跡をシリーズとして数回にわたり掲載します。第3回目は佐藤氏の報告です。

 JAすかがわ岩瀬(現在はJA夢みなみ)の100%出資の子会社として誕生し、間もなく15年目を迎える当社。「5年の歩み」を振り返った時、東日本大震災からの5年間はもちろん、設立から5年ごとに大きな影響を受けた「転機」を経験していることに気づいた。先の見えない大きな壁にぶち当たるたびに、もがき苦しみながら必死で乗り越えてきた。

JAの大型農産物産直所

 始まりの5年。JAの大型農産物直売所という、県内では前例のない店舗(「はたけんぼ」)の立ち上げに悪戦苦闘。農家との意思の疎通、品揃えや品質管理、店舗運営など、悩みの尽きない日々の中から「生産者と消費者の橋渡し」をテーマに掲げ、食育や交流に力を注いできた。

 続く5年。農家を前面に出した料理講習会や農業体験、観光・医療・異業種との連携で消費者や地域との良い関係を築くことができた。一方で、費用対効果や取り組み自体の必要性を問われ、言葉を詰まらせた。衛生管理や品質管理においても、法律より厳しい「はたけんぼルール」をつくり、農家とともに切磋琢磨しながら前に進み続け、年間売上12億円達成まで成長することができた。苦労も汗も涙も忘れてしまうくらい、勢いに乗った心地よい風が吹き始めていた。

出荷制限・摂取制限の中で

 東日本大震災からの5年。これまでの苦労とは比較にならない苦悩の日々。東京電力福島第一原子力発電所の事故をどれだけ恨んだことだろう。3月11日の地震発生直後、流通がストップしガソリンも手に入らない状況が続いた。食べ物を買いたくても買う場所がない、そんな中「はたけんぼ」の販売台には、農家が収穫したばかりの地元農産がいつもの様にずらりと並んだ。「これが地産地消なんだ」と感激したあの瞬間を今も忘れない。しかし、あの原発事故により状況は一変した。約6カ月にわたり「出荷制限・摂取制限」がかかり、店内の販売台から地元農産物が姿を消した。そんな状況でも決して諦めることなく、必死で種を蒔き続ける農家に、私たちはどれだけ勇気づけられたことだろう。「大変なことになったけど、今までだって台風や雹(ひょう)害、低温や日照不足…ずっと自然を相手に困難を乗り越えてきたんだから」そう話しながら涙をこらえて闘う農家の姿に「私たちも負けるわけにはいかない」と決意した。どんな状況であっても、よい農産物を育てて消費者に届けたいという農家の思いが変わることはない。しかし、「福島は農家をやめろ」「危険なものを売るな」「福島の農産物は食べたくない」といった、思い出すと胸が苦しくなる言葉の数々が耳に入ることも少なくなかった。これは風評被害ではなく紛れもない実害だ。恨んでも決して元に戻ることのない現実に絶望を感じた。その後、実害の苦しみが癒える間もなく、5年が経過した現在も続く、長い長い風評被害との戦いが始まった。

はかけんぼなら大丈夫!

 悪夢のどん底に手を差し伸べてくれたのは消費者だった。「今まで私たちの健康を支えてくれた農家を、今度は私たちが胃袋で支えます!」「自分が口に入れるものは自分で選びます。はたけんぼなら大丈夫!」そんな消費者の言葉と、地元や全国からのたくさんの応援に私たちは支えられ前を向いて走り続けることができた。今まで食育活動や地域・消費者とのかかわりを大切に運営してきたが、それは本当に必要なことなのかと投げかけられる場面が多々あった。東日本大震災から5年が経過し、信じて取り組み少しずつ作り上げてきたものは、間違ってはいなかったと確信している。お金(売上)には変えられないものを大切にしてきたからこそ私たちは今、大勢の人に支えられている。東日本大震災や原発事故を経験したことによって辛い気持ち以上に、「人の温かさ」や「感謝の気持ち」を強く感じることができた。当たり前の日常が、どれだけ幸せで尊いものなのかも。この気持ちこそ忘れずにいたい。

諦めずに戦い続ける

 これから先の5年。東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響はまだまだ続いている。風評被害だけでなく、健康や農業を取り巻く環境問題など、不安が山積みだ。あの事故がなければと「誰か」や「何か」のせいにしたい気持ちももちろんある。しかし、こんな時だからこそ、しっかり現実と向き合い、伝えなければならない事がある。農産物の放射性物質検査や残留農薬検査、加工食品の衛生検査など、厳しい検査を継続している。それは、消費者の不安を取り除くためだけでなく、生産者である農家を守るためでもある。原発事故後の「安全」は、努力を惜しまず手に入れるしかない。ここで負けるわけにはいかない。オープン当初から変わらない気持ち、「買ってほしい」ではなく「農業は素晴らしい」を消費者に伝えたい。消費者の「美味しい」を農家に伝えたい。いつの日も変わることなく足を運んでくれる大切な人たちの笑顔を守るために、私たちは決して諦めずに戦い続ける。同じ志を持つ仲間と手をつなげば、どんな困難も乗り越えられると信じている。

(株)JAあぐりすかがわ岩瀬 会社概要

創業:2003年
資本金:2,000万円
従業員数:17名
所在地:福島県須賀川市卸町54
事業内容:農産物直売所、農機事業、食材事業
URL:http://hatakenbo.de-blog.jp/blog/

「中小企業家しんぶん」 2018年 1月 25日号より

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