「採用・社員教育をしている」だけで満足していませんか?

中同協企業環境研究センター公開研究会での調査結果報告から

 3月31日に、東京で中同協企業環境研究センター(以下、研究センター)公開研究会が開催され、10同友会と中同協から会員13名、事務局員11名、研究者8名の32名が参加しました。

 本研究会は、ここ数年の急激な人材不足への危機感の高まりから、研究センターで特別プロジェクトを設置、2017年に「採用と社員教育」特別調査(本紙2017年11月5日号既報)や企業ヒアリングを実施して得られた結果と教訓を経営者と研究者で共有しようと企画されたものです。

 冒頭、広浜泰久・中同協会長のあいさつの後、研究センター座長の吉田敬一・駒澤大学経済学部教授による進行で3名の研究者が報告しました。

社員教育や研修の課題が明確な企業ほど、業績もよい傾向

 研究センター副座長でプロジェクトリーダーを務める植田浩史・慶應大学経済学部教授より、「中小企業と社員教育」をテーマに特別調査から見えてきた同友会会員企業の社員教育の課題について報告がありました。

 人材確保や社員教育に関心の高い企業は業績もよい傾向にあり、「経営指針作成→『人を生かす経営』の実践で労働環境整備→経営計画に沿った定期採用の実施→社員教育→経営指針の見直し・更新」の好循環について調査結果を交えて紹介されました。

経営指針に基づき定期採用できる企業体質強化を

 続いて、「中小企業の新卒採用の特徴と意義」をテーマに山本篤民・日本大学商学部准教授が報告。定期採用や新卒採用を実施する割合は従業員規模が大きくなるほど高まり、従業員規模20~50人未満規模が、「定期採用」と「必要に応じて適宜採用」の分岐点であることが紹介されました。

 新卒・第2新卒採用企業の特徴として経営指針の策定割合が突出して高く、経営指針をもっている企業は中途採用においても若年者を対象としている傾向にあります。

3年定着率80%以上の企業では「精神力」よりも「創造力」に期待

 田浦元・拓殖大学政経学部准教授は「中小企業の採用活動と社員定着率」について報告しました。調査協力企業のうち、社員の3年以上定着率(以下、定着率と表記)が80%以上と回答とした企業が51・4%と半数を超えていることに着目し、ミクロデータ分析した結果が紹介されました。

 社員定着率別に分析した結果、「新卒採用で期待する能力」は全体で「コミュニケーション能力」「学習能力」「精神力」「想像力」「問題解決能力」の順ですが、注目すべきは定着率80%以上の企業層のみ「精神力」よりも「創造力」が高くなっていたことです。

採用と社員教育、定着率との関係性を可視化した意義

 報告後に参加者からの質疑応答、意見交換を行いました。小暮恭一・中同協共同求人委員長からは「経営指針の有無と採用・社員教育、定着率の関係を可視化することができた意義は大きい。研修の成果が『わからない』と回答する企業は、研修の目的が明確になっていないから『わからない』のではないか。『成果が出ている』と回答していても感覚的に感じただけで具体性に欠けている可能性もある」という指摘がありました。

一人ひとりの社員がどう生きるか、という視点で社員教育を

 また、梶谷俊介・中同協社員教育委員長からは「調査結果から、社員教育を意識してはいても、実践できていないという現状があることが分かった。社員教育の実践において、一人ひとりの社員が人としてどう生きるかという視点に立ち、共に育つ姿勢で取り組み、なおかつ地域の一員としてどうかかわっていくかを意識していくのであれば、規模は関係ない。(働かせる)企業側として社員教育をとらえるのではなく、働く人としてどう見ていくかを問題に考えていくべき」との指摘もありました。

自社の課題が明確になっているか?

 広浜会長からは「植田先生の調査報告結果で、『社員の教育・研修の課題を一人ひとり明確化』への指摘割合が低いことに危機感を感じている。経営指針実践上の課題として強く提起していきたい」と発言がありました。

社員教育という点から日本の構造的な課題解決の糸口を

 研究センターの前座長の永山利和氏からは「企業における採用→教育→定着→退職という社員の通過する人生サイクルは、企業の個別能力では対応しきれない局面に来ているともいえ、教育に対する投資の仕方といった構造的な問題について中小企業の立場から具体的に提言していくことは重要である」との提起がありました。

同友会でめざす企業づくりの底力を積極的に発信していこう

 研究会での報告や意見交換を受けて、植田氏から「同友会でめざし、実践してきた中小企業の採用、社員教育の形を継続して提起していくことは今後非常に重要なことになる。この間、企業のヒアリングをしてきたが、同友会には超先進的な企業がたくさん存在している。事例から学ぶことができる環境にあることは強みである」と今後の取り組み、実践へのエールが送られました。

「中小企業家しんぶん」 2018年 5月 5日号より