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ベトナムの人材育成機関と中小企業を訪ねて 嘉悦大学大学院ビジネス創造研究科 教授 黒瀬 直宏

【黒瀬直宏嘉悦大学教授が迫る 海外戦略 番外編】

 2月25日~3月1日の5日間、NPO法人「アジア中小企業協力機構」(黒瀬直宏理事長)のメンバーでベトナム(バリア・ブンタウ市、ホーチミン市)の人材育成機関と中小企業を訪問しました。その報告を2回にわたり紹介します。

ベトナムの経済

 ベトナムは1986年に始まったドイモイ(刷新)政策により市場経済への移行と対外開放を開始し、1990年代から成長軌道に乗りました。ベトナムの1人当たりのGDPは1993年に250ドルだったのが2008年には1000ドルを突破(それぞれ当時の為替レートによる)、世界銀行の分類による低所得国から低位中所得国へ発展しました。とはいえ、成長率の最も高かった90年代前半のベトナムの年平均GDP成長率は、韓国、台湾、中国、タイの成長率の最も高い時期と比べると低く、また、2000年代後半以降、GDP成長率は低下しています。政府の強力な後ろ盾を持つ国有企業が経営資源を支配し、民営中小企業を圧迫しているなどの問題があり、低位中所得国からの脱却には新たなドイモイが必要との見方があります(『現代東アジア経済論』第10章)。

日本の教育でベトナムに貢献する人材に

 ベトナムにとって重要なのは、中小企業の創業と発展を促進し、国有大企業に対抗する民営経済を拡大することです。今回の訪問で、これについては日本で教育を受けた人材が大きな役割を果たしていることに気づきました。訪問した中小企業4社のうち3社が元日本留学生と日本企業勤務経験者が中核となっていました。

 IDEAグループ(2010年設立)は、日本企業からの受託で全体設計図から構成部品の設計図を作る、いわゆる「バラシ」で事業を始め、現在では現物からの製図、ベトナム国内向けの自動機の構想設計も手掛け、売上は急増、機械部品製作にも進出しました。創設者のIDEAグループの代表者は1973年生まれ、ホーチミン工科大学卒業後2000~2003年静岡大学で機械工学を専攻、役員にも日本への留学経験者、日本企業勤務経験者が多くいます。2015年までに日本企業との取引が85社に達し、日本での留学、日本企業との取引で学んだことが同社発展の原動力となっています。

 切削加工で部品類を製作している2015年設立のリード技研ベトナムの人員は7人で、うち横浜国立大学大学院を出て、日本のリード技研で4年半指導を受けたベトナム人が副社長・工場長、ベトナムからリード技研に3年間実習生として働いていた人が1人、日本式の技術教育をしている職業訓練校のバリアブンタウテクノロジー技術高等学校の卒業生が5人です。現在も日本のリード技研では3年たったらリード技研ベトナムに行ってもらう約束で実習生が数人来ています。

 ヌマテック・ベトナムは2010年設立、プレス金型、部品類を製作しています。売上は98%がベトナム国内の日系企業向けで、順調に伸びています。創立者のベトナム人社長は日本の従業員3人のヌマテックで3年間実習、同社社長から息子のようにかわいがれ、個人として資金提供を受け、創業しました。副社長の日本人技術者の指導も発展に大きく寄与しています。

 ここで挙げた3社以外にも、日本で学んだ人材がベトナムで創業している例は多く、それを如実に感じさせられたのが、ベトナムの日本語学校の草分け、ドンズー日本語学校を訪ねた時でした。訪問後、同校卒業生10名が集合、自己紹介によると中央大、東北大、東京農工大、電気通信大、福井大、名古屋大などに留学、帰国後、木質建材会社、IT企業、ソフトウエア会社、建設会社、商社、酪農企業など、全員が企業を設立していました。

 中国では農村部で一夜にして大産業集積が出現すると言われたくらい、中小企業の旺盛な勃興が見られましたが、ベトナムにはそこまでの勢いはありません。その中で、日本での人材教育がベトナムの中小企業の創業・発展に寄与していることは注目されます。

人材教育を通じてウィン・ウィンの関係へ

 もう一つ気づいたのは、日本でのベトナム人教育が日本の中小企業にも貢献していることです。それはベトナム人が日本で一時的に働くことで中小企業の人手不足を緩和しているという意味ではありません。上記のリード技研は2008年の世界金融危機激化の時に売上の85%がなくなり、若い人に辞められ、その後も人材の獲得は難しく、企業存続の大きな壁になりました。しかし、上記のとおり、現在はベトナムからの若者を日本本社で教育し、日本向けに生産しているリード技研ベトナムの責任者や中核人材として送り返し、日・越一体で発展軌道に乗っています。リード技研のように自ら日本で教育しなくとも、日本で技能実習を受けた人を中核人材として(単なる低賃金労働者としてでなく)採用するため、ベトナムに進出する日本の中小企業も増えています。日本でのベトナム人教育は日本の中小企業に企業存続の鍵となる中核人材を供給するようになっています。日本の中小企業とベトナムは人材教育を通じてウィン・ウィンの関係に入ったと言えます。

 次回は、ベトナムの人材育成機関について報告します。

「中小企業家しんぶん」 2018年 5月 5日号より

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