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ベトナムの人材育成機関と中小企業を訪ねて 嘉悦大学大学院ビジネス創造研究科 教授 黒瀬 直宏

黒瀬直宏嘉悦大学教授が迫る 番外編

 2月25日~3月1日の5日間、NPO法人「アジア中小企業協力機構」(黒瀬直宏理事長)のメンバーでベトナム(バリア・ブンタウ市、ホーチミン市)の人材育成機関と中小企業を訪問しました。5月5日号に続き報告を紹介します。

 前回は日本におけるベトナム人教育がベトナムにおける中小企業の創業・発展と日本の中小企業存続の双方に寄与していると述べました。今回のベトナム訪問でもう1つわかったのは、ホーチミン市には日本に人材を送り出す充実した人材育成機関があることです。

ドンズー日本語学校

 20世紀初期に起きた、フランスからの独立をめざし、日本で学ぶために留学生を送る「東游(ドンズー)運動」を念頭に、「日本から学び、ベトナムにつたえること」を目的に、1991年4月、グエン・ドク・ホエ氏により設立されたホーチミン市最大の日本語学校です。ホエ氏は理論物理学の研究で京都大学、東京大学に留学経験のある方で、ベトナムの工業化のための人材育成を使命とされている姿に私たちは大いに感銘を受けました。同校の事業の柱は次のとおりです。

 ・日系企業向けに日本語のできる人材の育成
 ・日本語をとおしての日・越の文化交流
 ・日本への留学生派遣

 このうち最も力を入れているのが留学生派遣です。留学生クラスは日本語教育に加え、数学・物理・化学を日本の高等学校のテキストで学習しています。留学生派遣数は1992年から現在まで580名になります。当初に比べ派遣学生は増え、ここ数年は毎年150名に上っています。留学のための奨学金制度もあります。前回述べたように、同校出身の日本留学生から起業家が多く輩出されています。

バリアブンタウ技術高等学校(前バリアブンタウ省立職業訓練高等学校)

 同校提供の映像資料では、日本人専門家が日本の職業訓練校とまったく同じレベルと話していましたが、ミツトヨの最新鋭3次元精密測定器が置かれているなど、それを裏付けていました。生産管理は日本式で3Sの日本語表記など日本語がいたるところで見られ(校内のゴミの分別も日本語で書かれていました)、入学者の4分の1が日本語コースも受講、日本の技術の取入れと日本企業への人材送り出しに重点が置かれています。

 内外の日系企業30社がすでに採用し、40名が日本で勤務しています。中卒(15歳)の2年コースと、高卒(18歳)の3年コースがあり、現在3600人が在学、自動車学科、金型学科、電機学科等18学科があります。授業の70%が実習で、卒業すると準エンジニア、準学士号を取得できます。

 訪問したのは学期が始まる1日前で、学生はいませんでしたが、全教員が出迎えてくれ、日本へかける強い期待を感じました。

越日工業大学

 越日工業大学はベトナム最大の私立大学、ホーチミン技術大学の付属校として2015年開校、在学者2100人(現在3年生まで)で、以下の教育方針を掲げています。

 ・全学生が日本文化と日本語を徹底して学ぶ
 ・モノづくりの実践力を身に着け、専門知識を学ぶ
 ・日本の産業界・大学と提携する
 ・学生中心の哲学を持った教育
 ・卒業後100%日系企業へ就職し、即戦力となる
 ・日本とベトナムの懸け橋となる
 ・協力企業(100社)に高い質を持った人材を提供する最大の教育機関

 学科は、情報技術、機械工学などの工学系と経営学、旅行・観光学、ホテル・接客管理等などの文系、計18学科あります。ホテル・接客管理ではベッドメイクの実習用にベッドも置かれており、きわめて実務的な教育を行っています。私は見学後、大教室に集まった学生に、日本の中小企業の技術は高いが、後継者がなく、優れた中小企業も廃業に追い込まれているという話をしましたが、大変熱心に聞いてくれました。彼らが日本の中小企業に関心を持ってくれるのを期待します。

ESUHAI

 ESUHAI(エスハイ)は、レ・ロンソン氏(ホーチミン工科大卒、ドンズー日本語学校卒業生、1995年10月日本留学)が2006年に設立した日本に技能実習生を送り出す機関です。同氏は日本では中小企業が大部分で、しかもレベルが高いのを見て、ベトナムにこれが必要だと考えました。日本で学ぶ手段として活用できるのは技能実習制度だが、実習生には日本で逃げ出してしまう者が多い。その理由はベトナム側にあると思ったそうです。それまでの「稼げるぞ、稼げれば企業はどこでもよいだろ!」という金で釣る集め方が問題でした。実習生には高い問題意識が必要だと考え、日本語だけでなく、目的の明確化、ビジネスマナー、ビジネスマインドの教育を行うことにしました。実習生には帰国後、レベルアップ教育をし、再就職の相談にものり、日本での実習を生かそうとしています。在籍学生は2800人、2017年には実習生1900人を送り出し、その他、日本の中小企業に送った大卒人材400人(2017年)、現地日系企業への管理職人材紹介累積500人(2017年)の実績をあげています。

 教室では、私たちの質問に学生が競って手をあげ、積極的に答えてくれましたが、直立不動の姿勢での応答には強い規律のもとに置かれている印象も受けました。

 ベトナムは予想以上に日本向け人材育成機関が充実していました。中小企業は一時しのぎの人手不足対策ではなく、中核人材の獲得という点でベトナムに注目してよいのではないでしょうか。

「中小企業家しんぶん」 2018年 5月 15日号より

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