農協の社会的役割を発揮する~ある農協の行き方を聴く

神奈川県秦野市の農協に従事している宮永均氏(秦野市農業協同組合専務理事)のお話を伺う機会を得ました。

神奈川県(人口・914万人)には、13のJA(農協)があり、組合員数が34万8000人(内、正組合員6万8000人、准組合員28万人)を組織しています。13のJAの1つが「JAはだの」で、秦野市の人口、16・6万人に対し、組合員数が1万4000人(内、正組合員約3000人、准組合員約1万1000人)を組織しています。

 数字はなかなかのものですが、農村地域の変化に伴い、農協の組織も大きく変化してきました。まず、JAはだのでも顕著なように、正組合員よりも准組合員の方が著しく増えています。JAはだののように、都市近郊の農協ならなおさらです。准組合員についてどう考えるか大きな課題として直面しています。

 また、農協の1組合当たりの部門別損益(2015年)を見ると、信用事業では3億7500万円、共済事業は2億1800万円の黒字でした。ところが、農産物の販売等の経済事業が2億1800万円の赤字です。経済事業の赤字を信用事業と共済事業の黒字でカバーしているのが、全国の平均的な農協の姿ですし、JAはだのも同様です。

 これは、農協が経済活動を適切に行い、組合員の農業所得を向上させていくことが最大の使命とする主旨からすると残念な状態と言えます。しかも、頼みの綱の信用・共済事業をめぐる状況も大きく変化しています。1つは、金利低下で運用益が低下していることです。もう1つが、フィンテックの進展による経営資源(店舗網・システム等)の重要性の喪失の可能性です。これは、他の金融機関も同等の問題を抱えています。農協を含め金融機関がこれまでの金融機関としてやっていけるのか、という大きな課題に立ち向かう時代に入りつつあります。

 政府は、今後の農業振興にとって総合JAは適切な姿と考えていないようです。信用事業の譲渡・代理店化と准組合員の事業利用規制を進めようとしています。これに対して、JAはだのはJAの総合事業を守るため、農業者・農家及び農業を支える者で構成する組織に転換をめざしています。

 組合員による部会や農業法人などの小さな協同を組み込んだ協同組合経営体としての総合JAの体制整備をめざしています。従来型の縦・横の分断された機能分担による取り組みから、縦・横・斜めの統合された機能発揮の取り組みへと転換する必要があります。例えば、農業体験農園を拠点とした都市農地の新たな担い手育成の仕組みづくりです。今年4月、体験型農園の第1号を開園しました。これは、市内5農園程度まで普及する見込みです。このような活動を通じて、准組合員が農に関わる仕組みを拡大していくそうです。

 協同組合らしい社会的役割を発揮した事例です。がんばれ、農業協同組合。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2018年 10月 15日号より