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調査

同友会調査にみる企業倒産多発・金融環境悪化の影響
金融情勢など確かな認識にたった経営戦略の練り直しを

立教大学経済学部教授
山口義行 (中同協・企業環境研究センター委員)


 2002年1〜3月期同友会景況調査のオプション調査として、企業倒産・金融環境悪化の影響について調査しました。立教大学教授の山口義行氏に執筆いただきました。(編集部)

【目次】
  1. 厳しさ浮き彫りにした3つの設問への回答
  2. 4割の経営者が「債権の回収不能」を体験
  3. 夏以降顕著になった金融機関の変化
  4. 近畿、関東では7%の企業が取引金融機関の破綻を経験
  5. 経営環境の把握と、個別企業としての努力と環境改善に向けた運動を

 経営者10人中4人が取引先の倒産で売掛債権を回収できないでいる。去年の夏以降金融機関の貸出態度が厳しくなってきている。取引金融機関が破たんしてしまった……など。今回、中同協・企業環境研究センターが行った調査は、中小企業を取り巻く経営環境がますます不安定なものになりつつあることを示す結果となりました。

 

厳しさ浮き彫りにした3つの設問への回答

(1)取引先倒産の有無
(2)取引金融機関の態度変化
(3)取引金融機関破綻の有無

 景況調査(DOR)の2002年1〜3月期調査票には、通常の設問だけでなく、特別に3つの設問が付け加えられました。

 その1つは、「過去1年間で取引先企業の倒産・廃業はありましたか」というもので、その影響や対策を聞いています。

 このところ、企業倒産が多発していることはマスメディアによっても繰り返し報じられています。ちなみに、東京商工リサーチ調べによれば、2001年度の倒産件数は1万9,565件で戦後3番目、負債総額は16兆2,808億円で戦後2番目、そのなかで上場企業の倒産は21件にのぼり、これは過去最悪となっています。こうした情勢が同友会企業にどのような影響を及ぼしているか、これを調べようというのがこの設問項目です。

 いま1つの設問は「過去1年間で取引金融機関の態度に変化がありましたか」というもので、いわゆる貸し渋り等の状況を聞いています。小泉内閣は不良債権処理の推進を「経済対策」の重要な柱にしていますが、その圧力に急かされる形で、銀行の不良債権処理が本格化しつつあります。

 「不良債権という目詰まりがあるため、資金が円滑に流れない。だから、不良債権処理を急がなければならない」。近年、こんな論調がマスメディアを席巻してきましたが、これは大きな誤解を生むものです。というのは、金融機関が不良債権処理を急ぐと、貸出能力が低下して、かえって資金の流れが悪くなってしまうからです。不良債権を処理すると、それだけ損失が発生して、金融機関の自己資本が減少してしまうためです。こうした金融機関の不良債権処理の影響が、同友会企業にどの程度現れてきているかをみようというのが、この設問項目です。

 また、不良債権処理にともなう損失に備えたり、不良債権とまでは見なされなくとも、赤字が2期以上継続している企業など、いわゆる「要注意先」企業に貸し出しをしている場合には、金融機関は多額の引当金を積むことを金融庁から要求されます。そのため、そうした負担を軽減すべく金融機関は、借り手企業に対して貸出金利の引き上げを要請するということが増えてきています。この設問項目によって、そうした金利引き上げ要請の実態などについても明らかにされるのではないかと期待されます。

 最後に、もう1つの設問は「過去1年間で取引金融機関の破綻(営業譲渡を含む)の経験がありますか」というものです。

 昨年の1月から今年の3月までで、信用金庫や信用組合だけでも56もの金融機関が破たんしました。これは、本年4月にはペイオフを実施しなければならない、そのためには3月までにできるだけ多くの問題金融機関を整理しておこうという金融庁の政策判断が強く影響した結果です。金融庁は、できるだけ金融機関を整理してしまおうというバイアスがかかった状態で、かなり強引な検査を中小金融機関に対して行ってきました。

 その結果、金融機関の貸出債権の多くが不良債権とみなされ、自己資本比率が大幅に引き下げられ、多額の引当金や資本金の積み増しに応じられない資本力の乏しい中小金融機関が、大量に破たんに追い込まれました。取引金融機関の破たんは、借り手中小企業にとっては大変大きな問題です。 この設問は、こうした事態が同友会企業にどの程度、またどのような影響を及ぼしているかについて見ようとしたものです。

 さて、調査によって、どんなことが明らかにされたか、以下順追ってみていくことにしましょう。

4割の経営者が「債権の回収不能」を体験

 まず、第1の設問、「過去1年間で取引先企業の倒産・廃業はありましたか」という問いに対しては、「ある」と答えた企業が回答企業921社のうち561社、60.9%にまで達するという結果になりました(図1)。

 業種別(建設、製造、流通・商業、サービス業の4業種分類)では、「流通・商業」の66.4%、「サービス業」の64.7%が高く、規模別では規模が大きくなるにしたがって比率が高まり、「100人以上」ではなんと73.8%にまで達しています。(表1

 「ある」と答えた企業には、その「影響」がどのようなものであったかという点についても答えてもらっています(複数回答可、図2)。

 結果は、「影響ない」と答えた企業が20・1%にとどまったのに対し、「債権回収が不可能になった」と回答した企業が67・4%にのぼりました。これは回答企業全体の39・7%にあたる企業数です。まさに、冒頭で述べたように、10社のうち4社が、取引先の倒産で売掛債権を回収できないでいる状態だということになります。

 これは昨今の企業経営の難しさを端的に示すものだといえます。長期化する不況の中にあって、どの企業も売上の増加を必死になって追い求めています。ところが、「売上は増やしたいが、売上を増やしたことが多額の債権回収不能に帰結して、結果的に命取りになりかねない」というのがまさに今日の状況だといえます。

 いま中小企業経営者の多くが、そんな不安定で、神経質な状況の中に置かれています。「ほら、3月危機なんて無かったでしょ」とうそぶいている小泉首相が、こんな中小企業経営者の現状を理解できているとはとても思えませんが、政府も深刻に受け止めるべき事態が進行しつつあることは事実です。

 さらに、「影響」の中には、「新たな調達先を探した」としている企業も90社、16.6%あります。企業倒産の多発が、売上面だけでなく、仕入れ面にも影響を与えていることを示しています。

 こうした現状に対し、経営者はどんな対応を試みているのでしょうか。今回の調査では、「取引先企業の与信管理・リスク管理」についても質問しています(複数回答可)。回答は、「与信情報の細かなチェック」(45・0%)、「同業者からの情報収集」(44・9%)がともに多く、「売掛債権の早期回収」39・1%、「取引リスクの分散化」29・6%がこれらに続くという結果になりました。防衛手段としてとりあえずやるべきことは、情報収集や情報のチェックをより徹底すること、といったところでしょうか。

夏以降顕著になった金融機関の変化

 第2の設問、「過去1年間で取引金融機関の態度に変化がありましたか」という問いに対しては、23.0%(212社)の企業が「ある」と答えています(図3)。

 では、いつごろから金融機関の態度変化がみられたのか、その時期については、夏以降とくに10〜2月に集中しています(図4)。昨年9月のマイカル倒産以降、不良債権処理の本格化がとくに叫ばれるようになりましたが、これはまさにその時期に一致しています。また、これは、中小金融機関への金融庁による厳しい検査が、金融機関破たんを続出させていた時期でもあります。いずれにしても、金融行政のあり方が中小企業を取り巻く環境に大きな影響を与えていることは明らかです。

 この調査については、とくに地域別に顕著な違いが見られる点に注意しておく必要があります。とくに、「関東」では35.4%と平均を大幅に上回っています。これに「近畿」23・6%、「北陸中部」22・5%が続いています。これに対し、「北海道・東北」「中国・四国」「九州・沖縄」は18%台にとどまっています。東京、大阪、名古屋という大都市圏を抱え、大手銀行との取引関係をもつ中小企業の割合の多い地域で、比較的比率が高くでている点は注目に値します。ちなみに、規模別では、「20人未満」が25・5%と高く、業種別では建設業が27・4%と平均を上回る結果になっています。(表2

 金融機関の態度に変化があったと答えた企業に対しては、さらにその変化の内容について答えてもらっています(複数回答可、表3)。その結果、「借入がしにくくなった」が49・0%と第1位を占めました。これに続いて、「金利の引き上げ要求」が28・9%で2位、「追加担保・保証人を要求された」が20・6%で3位になっています。「貸し剥(は)がしにあった」と回答している企業も11・3%に達しています。

 4業種のうち、「変化があった」という回答が多かった建設業では、その71・1%が「借入がしにくくなった」と答えています。また地域別では、「九州・沖縄」で65・2%が、規模別では「20人未満」で54・7%が「借入がしにくくなった」と答えています。(表3

 山口信夫日本商工会議所会頭は「2期連続赤字になると金融機関は資金を引き揚げている」と昨今の金融状況をなげき、奥田碩日経連会長も「1998年当時より貸し渋りは厳しい」と発言していますが、同友会の調査でもこうした発言が裏付けられる結果になっています。1999年夏に中小企業家同友会が実施した調査では、「97年以降、貸し渋り、貸し剥がしを受けた体験はありますか」という問いに対して、回答企業の17・9%が、「関東」地域では24・7%が「ある」と答えていました。それと比べても今回の調査が明らかにした昨今の状態は、「1998年当時より……厳しい」ものだと言ってよいのではないかと思われます。

 銀行のバランスシートから不良債権を切り離しさえすれば、金融再生、経済再生が可能であるかのような短絡的な政策運営の結末は、結局のところ貸し渋り・貸し剥がしの再燃、またしても中小企業へのしわ寄せでしかなかったといえます。ちなみに、大手銀行の本年3月の貸出残高は前年同月6・4%減となり、今年に入って3カ月連続でマイナス幅が拡大しました。

近畿、関東では7%の企業が取引金融機関の破綻を経験

 最後に、「過去1年間で取引金融機関の破綻(営業譲渡を含む)の経験がありますか」という設問に対しては、回答企業774社中37社、4・8%の企業が「ある」と答えています(図5)。

 昨年1年間で破たんした信金・信組の数がこれら金融機関の8%ほどにあたることからすれば、5%弱程度という数字は予想されたものより若干低かったといえるかもしれません。

 また、同一の調査票でありながら、先の「金融機関の態度変化」に関する設問に対しては922社、「取引先企業の倒産・廃業の有無」に対しては921社から回答があったのに対し、この設問に対しては、774社と100数十も回答企業数が少なくなっています。これが何によるものかははっきりしません。そうした経験の「ない」回答者が回答そのものをしなかったか、あるいは経験の「ある」回答者がその影響の大きさを勘案して回答を差し控えたか。そのどちらの影響が強くあらわれた結果なのかについては判断しようがないからです。

 ただし、これも地域間格差が大きいことに注意しておく必要があります。「近畿」「関東」ではそれぞれ7・9%、6・9%と高い比率を示しています。「北海道・東北」でも5・7%に達しています。これに対し「北陸・中部」では2・9%、「中国・四国」2・0%、「九州・沖縄」にいたっては1・9%にとどまっています。

 さらに規模別では「20人未満」が5・8%と高い結果になっていますが、これはこの1年間のうち、破綻処理された金融機関が信用組合を中心にした比較的「零細」な企業を取引対象とするものが中心であったことを反映しているといえるでしょう。(表1

 また、取引金融機関の破綻にともなってとられた対応については(複数回答可)、「受け皿金融機関へ移転」が54・3%でもっとも多く、「清算し、取引停止」が25・7%、「RCCへの送付」が2・9%という結果になりました。「受け皿金融機関へ移転」がうまくなされなかった場合、それが企業の命取りにもなりかねないことから、非常に回答しにくい設問であったことを考慮しておく必要があります。

経営環境の把握と、個別企業としての努力と環境改善に向けた運動を

 以上の調査結果が明らかにしたことは、いうまでもなく中小企業を取り巻く環境が、営業面においても、金融面においても大変不安定な状況にあるということです。経営者としては、何よりもまずこうした時代環境についてしっかりとした認識をもつことが必要だといえます。

 たとえば、現在金融機関は「要注意先」や「破たん懸念先」企業への貸し出しを減らすことで、引当金の必要がなくなり、利益が発生するという特異なシステムの中で仕事をしています。貸し出しを増やしたからではなく、減らしたことで利益が発生する。自社と取引している金融機関がそんなメカニズムのもとにあることを経営者は十分に認識しているでしょうか。

 この一事に示されているように、経営環境はこれまでとは大きく変わりつつあります。何よりもまず、こうした時代の変化をしっかりと認識できるよう、経営者一人ひとりの学習努力が求められています。そして、そうした不安定な環境のもとでどのように自社を守り、発展させるか、あらためて個別企業としての経営戦略を練り直すことも必要になります。

 そして、最後に、こうした企業努力が報われるよう、経営環境の改善に向けて、中小企業家が連帯して「声」を上げ、行動していくことも必要になります。

 この間、中小企業家同友会をはじめとする、多くの中小企業者が金融アセスメント法制定を求めて立ちあがり、また同時に金融検査マニュアルの是正を求める声を強めてきました。そうしたことが背景にあって、最近金融庁は、検査マニュアルの弾力的運用を別冊というかたちで明文化せざるをえなくなりました。

 今回の調査が、同友会企業の強靭(きょうじん)な会社づくりや中小企業運動の一層の発展のために、積極的に活用されることを期待したいと思います。

(2002年4月30日)

同友会景況調査要領

調査時:2002年3月5〜15日
対象企業:中小企業家同友会会員
回答企業数:954社
平均従業員数
 従業員数(役員含)
:40.5人
 臨時・パート・アルバイト:28.1人

「中小企業家しんぶん」2002年5月15日号より

調査 資料 対話 シリーズ「どうする政策金融Q&A」 シリーズ「どうなる金融〜不良債権最終処理」 シリーズ「どうなる金融〜信金再編の余波」 シリーズ「金融機関とともに地域を考える」 シリーズ「金融機関とともに東京同友会と東信協・保証協会」

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