[ホーム] [中同協の動き] [各地の動き] [アセスQ&A] [調査・資料] [署名運動]
シリーズ「どうなる金融〜不良債権最終処理」
「中小企業家しんぶん」2002年12月5日号より

シリーズ6

 地域金融機関の「経営基盤の更なる強化を図るため」再編の手続きを簡素化するなどの「金融機関等の組織再編成促進特別措置法」が、11月に衆議院を通過しました。

 本シリーズでは地域経済をも破壊する信金再編の中小企業への影響を、京都北部の5信金合併、都内の信金合併の実態から紹介してきました。シリーズのまとめとして、都銀や地銀の経営コンサルタントである多胡氏とコミュニティバンク研究では第一人者の由里氏、山口義行立教大学教授(次号掲載予定)に話を聞きました。その要旨を紹介します。


信金は回収率で勝負のはずが

デロイトトーマツコンサルティング  多胡 秀人氏

 信用リスクは倒産確率と回収率でとるもので、倒産確率が高い企業群でも、回収率が高ければ、信用リスクは低い。

 金融検査マニュアルの土俵でも、回収率の高い地域金融機関、特に信金などは、その裏づけとなる数値を提示できれば、中小企業への貸出がリスクの高いものになっていないことが証明でき、説得性のある数値ならば、金融庁の検査官も納得せざるを得ないはずです。

 実際、破綻しても「あの支店長にはお世話になったから、少しずつでも返していこう」という経営者は多い。一見効率が悪いように見えるフェイス・ツー・フェイス、小口融資で客にコストをかけることが回収率のアップにつながっているはずなのですが、残念ながらその回収率は信金側では数値になっていません。信金モデルでは貸出の事後モニタリングの徹底とその実績管理(計量化)が重要です。

 無意味なように見える信金マンの預金集め(仕入れ)も、貸出(販売)の際の保全となっているのです。

 都市銀行と地域金融機関では、そもそもビジネスモデルが違いますが、その違いを数値的に説明できないために、金融庁の言うがまま、貸倒率に応じた引当を積まざるを得なくなり、本来の信金らしい融資ができなくなっているのです。

 信金としてもこの不況下で業務効率を上げるために事務の共通外出しをするなどの経営努力は必要です。ただし、その役割を見失い、合併などで支店や職員をむやみに切り捨て、地域を丁寧に見る目を失っているところは、地域のためになっていない。地域の信頼も得られず、いずれ退出してもらうしかないでしょう。

多胡秀人(たごひでと)
 1951年生まれ、一橋大学商学部卒、ナショナル・ウエストミンスター銀行等をへて、現在母校の講師も勤める。全国信用金庫協会信用金庫制度問題専門委員会委員。著書に「地域金融最後の戦い」日本経済新聞社など多数。


地域の視点欠落した金融行政

中京大学助教授  由里 宗之氏

 中小の地域金融機関のやむをえぬ再編が成功するためにも、再編後の店舗網が明確な地元域と有機的なネットワークを有するか否かなど、地域性への顧慮が不可欠です。

 しかし、この間の再編を見ていると、地域性への顧慮がされていない。特に本シリーズで紹介されている京都北部の5信金合併は、転勤する場所によっては職員が同じところから通えない広範なエリアになっています。

 また東京都内の王子、太陽、日興、荒川の合併でも、王子は北区が中心なのに、その他3金庫は荒川が中心で、存続金庫は王子と、奇妙な取り合わせになっています。

「合併」がすべて?
 もともと金融庁の行う金融行政には「地域」という視点がない。地域金融機関の経営の自主権をも無視し、本来業界で決するべき再編の問題が、金融庁の検査や行政方針などでどんどん推し進められています。信金の経営者と話していても「検査官が何かにつけて『だったら合併したらどうか』と言う」、水戸黄門の印籠のように「合併」をすすめているという実態があります。

 約60年ほど前、昭和恐慌の後の戦時体制下で地方銀行を強いて「1県1行」に統合したときと相変わらず、金融監督当局は「規模が大きければ経営は安定」という素朴な「規模の経済性」(スケールメリット)の信奉、「民間金融機関は数が少ないほど監督上便利」という官僚的思考法から脱していません。

 本来金融機関が主人公であるはずが、金融庁が主人公になってしまい、資本が傷ついている信金は従来の護送船団方式から脱却できず、なし崩し的に再編の渦中へ追い込まれています。

絶たれる生命線
 中小企業金融がその営業の中心であるはずの地域金融機関にとって、リレーションシップ(顧客との関係作り)は生命線です。以前の信金では「書類作ってる暇があったら顧客のところに行ってこい」と言われるほど、顧客との関係を重視していました。本来金融庁はそれを支援すべき存在です。ところが、合併再編の実態は、職員や店舗を減らし、そのリレーションシップを切り刻んでいる。

 こういった厳しい時期にこそ、信金の顧客リレーションシップに基づいた融資が地域経済にとても大切ですが、今の金融行政には地域の視点が欠落しているため、地域経済に悪循環を生み出すことになっています。

由里宗之(ゆりむねゆき)
 1959年生まれ、京都大学経済学部卒、大和銀行等をへて現在。全国信用金庫協会信用金庫制度問題専門委員会委員。著書に「米国のコミュニティ銀行」ミネルヴァ書房など。2月に大分で開かれる第33回中小企業問題全国研究集会分科会報告者。

調査 資料 対話 シリーズ「どうする政策金融Q&A」 シリーズ「どうなる金融〜不良債権最終処理」 シリーズ「どうなる金融〜信金再編の余波」 シリーズ「金融機関とともに地域を考える」 シリーズ「金融機関とともに東京同友会と東信協・保証協会」

このページのトップへ戻る