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対談・対話

共通の使命−よりよきコミュニティづくり

武井正直(北洋銀行会長)と
大久保尚孝(北海道同友会代表理事)の対談
(司会) 中同協 専務幹事 国吉 昌晴


中小企業と金融機関 共栄の道

1.2002年もデフレはつづく−中小企業は臨戦体制でのぞもう
2.消費者密着の強さの発揮を−経営者の意欲と決意こそ
3.金融機関本来の使命を果たせる金融政策を

4.地域経済の存続と繁栄―中小企業と金融機関が使命感の共有を


武井正直氏
 1925(大正14)年山梨県に生まれる。50年慶応大学卒業、同年日本銀行入行。72年青森支店長、77年考査局次長兼考査役、78年(株)北洋相互銀行専務取締役、82年取締役社長、89年(株)北洋銀行取締役頭取、2000年取締役会長、2001年(株)札幌北洋ホールディングス取締役会長就任。北海道経営者協会会長など公職多数。

北洋銀行の沿革
 1917(大正6)年北海道無尽(株)として設立、44年北洋無尽(株)、51年(株)北洋相互銀行、89年(株)北洋銀行に商号変更、98年北海道拓殖銀行より営業譲渡、2001年(株)札幌銀行と持株会社(株)札幌北洋ホールディングスを共同設立。〔札幌北洋グループの概要〕資本金・558億円、預金・譲渡性預金総額・6兆299億円、支店数・281店、行員数・4265名、本社札幌市


大久保尚孝氏
 1929(昭和4)年神奈川県に生まれる。47年藤沢商業高校卒業、同年帝国銀行入行。48年同行が第一と三井に分離し第一銀行に勤務。69年11月北海道同友会設立、70年2月初代事務局長、74年専務理事、2000年代表理事及び中同協副会長就任。



1.2002年もデフレはつづく
  −中小企業は臨戦体制でのぞもう

司会 新年おめでとうございます。昨年7月、札幌で開かれた全国総会で武井会長には全国の会員に力強いエールを贈っていただきありがとうございました。さて、2002年を迎え、私どもは今まで以上に気を引き締めて時代に向き合わねばならぬと考えております。本日は金融機関と中小企業の立場から、現況をどうとらえ経営を考えるとよいのか、地域および日本経済を元気にしていくために、中小企業と金融機関の今後のあるべき方向を大いに語っていただきたいと思います。

 まず、武井さん、2002年をどうご覧になりますか。


「構造改革」で景気は回復するか?

武井 残念ながら2002年は大変厳しい年だと思います。2001年はまだ景気拡大策の予算が執行されており、「痛み」はそれほど出ていませんが、来年度予算が執行されるころから厳しさが増してきます。ある経済誌は「恐慌来る」の見出しをつけていましたが、私は恐慌とまではいわないが、相当の覚悟が必要と思います。

 今の政策は「構造改革なくして景気回復なし」の考え方で進められているが、これが問題です。構造改革の一番最初に不良債権問題が出てくる。例えば赤字が何年か続いて、債務超過に陥りそうな企業は競争力がないのだから全部市場から退場してくれ、こういう話です。

 そんなことを言ったら日本の企業の6〜7割は赤字ではないですか。その人たち全部に退場を命じることは可能か、とてもできません。しかし、このまま進むと退場命令は猛烈に出てきます。

 そもそも構造改革をしたら景気は回復するのか。私は、しないと思う。今の構造改革はサプライサイド(供給側)からの改革なのです。一例をあげると、住宅金融公庫や道路公団を民営化して景気は回復しますか。悪化するだけです。中小企業の人たちや国民の声を聴いての改革とはとても思えません。

大久保 「聖域なき構造改革」という看板を掲げ、国民の期待を集め小泉さんは総理大臣になりました。ところが構造改革とは何かということがいまだに見えてこない。国民の側からすれば、役人が裏金を作って飲み食いするとか、あのような血税のムダ使いをすべての官庁からなくする行政機構の改革とか、料亭政治をやめて国民に分かりやすい風通しのよい政治に変えることを望んだはずです。公団など特殊法人の統廃合も必要でしょうが、今この時点で一律に大急ぎでやらなければならない問題ではない。

武井 要するに閉そく感が充満していますから、これを打破したいので「聖域なき構造改革」を国民にアピールし高支持率を得ているのです。なぜ閉そく感が生まれたかというとデフレーションの結果です。物価指数(卸売り)で95年を100とすると、毎年1%ずつダウン、94くらいまで下がりました。われわれの今の苦難はデフレ経済への対応にあります。

 2002年は、補正予算も景気回復にはあまり役立たないし、需要が絶対的に不足しているので物価下落はつづき、景気は回復しないという前提で経営を考えるべきでしょう。中小企業はまさに臨戦体制でのぞむべきです。


大変化の渦、国際経済

司会 大前提のところはよく分かりました。国際的には、テロと報復戦争という不幸な事態の進行でアメリカの景気はどうなるのか。また、中国の大きなうねり、これが日本にどう影響するのか、この点はいかがでしょう。

武井 アメリカ経済はIT産業ブームが去り、設備投資は落ち込み、株価は下落、テロ事件で人心が萎縮(いしゅく)、消費も落ちてきており早期回復は期待できません。日本経済はアメリカに依存する割合が高いからこの影響は大きい。

 ヨーロッパも景気がスローダウンしています。その中で中国だけが景気がいい。なぜかといえば、世界中の国が競って中国に投資をし、生産工場をつくり、安い商品をどんどん生産しているからです。私はなぜ世界中で日本だけがデフレなのかといえば、中国からの安い商品の流入に原因があると思います。日本の賃金の20分の1か30分の1、労働力は無限大といってよい。しかも計画経済で為替管理もやっています。この10年間の為替相場をみても、元はドルに対して猛烈に切り下がっています。ですから円換算で80円ぐらいの元が15円ぐらいに下がる、この為替相場では絶対に負けます。台湾、韓国、タイ、フィリピンも対中国では負けです。したがって、しばらくデフレはつづくと私は思います。

大久保 情勢はまったくその通りです。それと、最近アメリカを代表するエンロンの倒産、これはグローバル化とか市場主義を象徴する企業の破たんであり、グローバルスタンダードという風潮がいかに怪しげなものであるか、われわれに警告してくれた事件でもあると思います。


2.消費者密着の強さの発揮を
  −経営者の意欲と決意こそ

司会 このような時代状況をどう受け止めて中小企業は生き抜いていかなくてはならないのか。そこに話を進めていきましょう。


血の通う人間集団小組織の利点生かそう

武井 環境の変化に一番対応しやすい組織体は中小企業です。ところが、今世界中で起こっていることといえば統合化の嵐です。石油会社も銀行も大企業同士がどんどん統合しています。本来なら独占禁止法に反するようなことが随所でおきています。

 統合が正しい方向かというと、私は必ずしもそうとは思いません。市場での公正な競争が確保できるのか。組織が大きくなると環境への対応も遅れます。それとは逆に中小企業の生きる道は、世の中の変化をじっと見ていてパッと対応するというのが1つの生き方ではないでしょうか。

大久保 私もかって大企業で働いていて、大企業の根本的な弱点は働く人たちのハートを完全につかみきれないところにあると思います。大きなシステムのわずかな部分で一生懸命働かなくてはならない。将来を考えてもたかだか課長か係長か、そういう人たちの社会的位置付けが見えてくると、生きがいとかやる気は失せてしまうものです。

 その点、中小企業は、社長と気楽にケンカもできるような人間の血が通っています。頑張ればポストも上がる、会社も伸びる、会社の社会的立場が分かってくれば自分の責任も明らかになります。そういうプロセスが「おれは自分で生きた」という実感を持たせる、これが中小企業なのです。

 企業活動では、主体性を持って自主的に動く人間集団、これは絶対に強い。つまり、企業というのは最終的に消費者と結びついているところが競争にも勝てるのですから、「みんなのために役立つことがうれしい」という気持ちで意思統一できている集団、そういう中小企業こそ本当に良い商売ができるのです。


社員動かす経営理念

武井 積極的かつ謙虚に学ぼうとしない経営者は中小企業でもマーケットからおいていかれます。採算の採れないところがマーケットから排除されるのではなく、マーケットをよく見て何をみんなが望んでいるかをきっちりつかんで進むということですね。

 もう1つは経営者の意欲、これを失ったらダメです。今、何が起きているかをキャッチする柔軟な考え方、そして既成のものに対して必要ならば断固それを排除しても進むという決意、これが大切です。

大久保 やはり社員を動かすのは経営者の夢、経営理念にあると思います。経営理念で意思統一できてこそ、社員はお客さまの要求に全面的にこたえて意欲的に働くものです。そのためには、経営者はヤマカンや経験主義ではなく、ものごとを絶えず本質的、系統的につかむこと。いつも「それは本当か、なぜなのか」と自分で考え確かめていく社風を作る、つまり学びあいの気風の確立です。

 仕事で成果をあげることで評価されるだけでなく、人間として鍛えられ成長する、その変化を仲間たちが評価するという関係で結ばれていくことが大事です。いわば人間力を付けていくことが、お客さまの中にある潜在的な不満、あるいは要求を深く正確に受け止めていくことになります。そういうことを社内で積み上げていけば、中小企業は非常に明るい。足りないものだらけであることが、かえって未来が果てしなく約束されているともいえるのです。


社会貢献の視点でニーズをとらえる

武井 おっしゃる通りです。日本全体の景気はそんなに良くなることはないが、昭和初期のようなひどい恐慌にはならないと思う。なぜなら国民の貯蓄が約1400兆円あるからです。特に年配者をはじめとしたこのリザーブがマーケットとして期待されます。先日北海道で専門学校を経営している方に聞いたのですが、少子化で学生数が減少している中でそこの経営はうまくいっている。なぜかというと、既存の学校を変えて介護とか福祉関係の資格を取れる学科に切り替えていった、そうすると学生はたくさん入ってくるようになったそうです。

 大久保さんがいわれるように、社会のニーズにこたえる、社会に貢献できる仕事に使命感を持って取り組む、そういうフィルターを通して社会を見ると発展の余地はまだまだ見えてくるのです。

大久保 私は日本の今の不況は別の見方をすれば「政治不信不況」だと思います。国と地方合わせていつのまにやら666兆円もの借金ができた。そのしわ寄せが国民の将来への安心感を奪う方向へ動いている。医療費の負担が増え、年金も細くなりそうです。先ほど国民の預貯金の話が出ましたが、そのうち700兆円が自由に使える個人の預貯金だそうです。これが教育、医療、老後を考えると安心して使える状態にはない。特にゼロ金利は異常です。私は定期預金の一年物金利はせめて3%はつけるべきだと思うのです。そうすると21兆円の利息、これが消費に回るだけでも景気を押し上げる力になります。

武井 そのためにはデフレーションを克服するしかありません。利息くらい安心して使える状態にする。いかにしてデフレ経済を正すか、それが最大の政治課題と思います。


3.金融機関本来の使命を果たせる金融政策を

司会 話題が金融の方に進んできました。この数年、金融環境が様変わりし、「金融ビッグバン」のもとで都市銀行は国際競争に勝ち抜くために4大グループに再編成されていき、地域との縁が薄れてきています。地域の中で生きているわれわれ中小企業は、地域金融機関とのつながりを今まで以上に強めていかねばなりません。そこで、現在展開されている金融政策が中小企業や地域経済の繁栄にどう役立っているか重大な関心を払わざるを得ません。そこのところを武井さん、どのようにお考えですか。


貸したくても貸せない矛盾

武井 金融機関側からすると、まず「貸し渋り」なんてしていません。むしろ、一生懸命貸したい。

 ところが、ズバリ言って、赤字企業には貸せないという金融庁の「検査マニュアル」があるところに問題があるのです。赤字企業は「要注意先」です。3年続いての債務超過企業は「破綻懸念先」で70%の貸倒引当金を積まなければならない。引当金を70%積んで貸すのだったら貸さない方が良いではないかとなります。こういう政策をとりながら「貸し渋りはけしからん」といわれても、これは矛盾しています。

 考えてみると、債務超過といっても、資本金1000万円くらいの企業は、すぐ債務超過になってしまいます。それに世の中、すべての企業が黒字にならなくても良いでしょう。借りた金の元本は、3年とか5年以内に返してしまうという経営体制でなくても世の中が安定していればいいわけです。たとえば、駅裏のラーメン屋さんが1000万円借りて利息は払っている、3年後に返済しきれないがなんとかやっている。そういうところも、不良債権だからお取り潰しだというようなのは間違いだと私は思います。

大久保 そのラーメン屋さんだって、アルバイトの学生やパートを雇っているとすれば雇用に貢献しているのです。

 私どもの会員の所得を調べてみますと、経営者の所得は年々減っているのです。「もう子育ても終わったから」と自分の給料はどんどん下げて、場合によっては自分の金を会社に貸し込んで資金繰りを付けている。ですから、年間100万や200万の赤字はどうってことはなかったわけです。

武井 自分の給料を減らしたり、自分の預金を下ろして会社に入れたり、出したりして何とか均衡させている企業はわりあい多いのが実態でしょう。ですから、金融庁の検査時に、経営者の個人資産も見てくれというんですが、見ませんね。

大久保 そういう企業を評価しないという政治、これは冷ややかなものです。


日本の社会風土無視の「グローバルスタンダード」

武井 それから、危険度に応じて金利を上げろという話があります。アメリカを見てみろ、高い金利から低い金利までいろいろあるではないか、銀行は経営の努力が足らないのではないかと。これは、われわれのところではやっていません。現状では死にそうな人に死ぬことを急がすようなものだからです。

 これには、アメリカと日本の文化、風土の違いがあります。アメリカの企業は、マーケットから直接資金調達する道がいくらでも開かれています。しかし、日本は圧倒的に金融機関からの資金調達、間接金融が多いわけですから、構造が基本的に違うのです。それを同一視しているところに混乱の原因があります。BIS基準(国際決済銀行による自己資本比率規制)というのもそういうマーケットの違い、事情を反映せずに進めるので混乱が起きるのです。

 日本の国民は証券が嫌いという人が多い。預貯金が好きで250兆円からの郵便貯金があるでしょう。

大久保 日本の国民は長い封建制時代から絶えず不安の中で生活をしてきた歴史がありますから、警戒心が強く、手堅い生活を望むのではないでしょうか。

武井 それは別の言葉でいうと、稲作農耕民族と狩猟民族の差です。ですから稲作農耕民族にいきなり狩猟民族のまねをしろといわれてもにわかにはできかねる。

大久保 アメリカは独立して日も浅く、どちらかというと新興国家です。アメリカンドリームといわれる成功者への願望、これは少しきつく言うとにわか成金的要素が強い。日本の場合は違っていて、そこに定住し、長年努力しないと社会的信頼は得られない。

 グローバルスタンダードという基準があたかも世界共通のものさしのようにいわれていますが、中身は、アメリカンスタンダードです。この価値観を押し付けてもらっても困る。いわば、三食をパンにするのが近代的ですよってことですから。(笑声)


問題多い「金融検査マニュアル」

司会 昨年春に中同協では、金融庁に「金融検査マニュアルは大企業と中小企業への適用を分けてダブルスタンダード化すべきだ」との要請を行いました。その時の金融庁の回答は、「われわれは一律にやってはいません。マニュアルにも弾力的運用ということが書いてある」と言われました。

武井 それは現場の検査官によって非常に差があります。弾力的運用をやっていると先般のマイカルのような事件がおきるのです。あそこは「要注意先」でしたが破たんした。「銀行の見方は甘いのではないか、もっと厳しくやれ」とこうなるのです。しかし、「破綻(はたん)懸念先」と認定すれば、先述のように、引当金を大幅に積まねばならない、そうすると自己資本比率は下がり銀行経営の健全性にひびいてくる。ここが問題で、貸し出しを解消した方が自己資本比率は上昇するのです。ですから、銀行も自衛手段として貸出金の回収に回らざるをえない。しかし、弱い企業からは逃げろ、つぶせということになれば、今や銀行の社会正義とは何かということです。

大久保 すべてアメリカンスタンダードに置き換えられているところに問題があるのではないか。もっと世論を高めて社会の風潮を正していく必要があると思います。

 一方で私たちは、別のスタンダードが必要であろうと考え「金融アセスメント法」の制定運動を進めています。これは、地域への円滑な資金需給や利用者側の利便性にどれだけ金融機関が配慮しているかを公的機関が評価し、その情報を公開しようというもので、結果として、地域経済にやさしい金融機関と中小企業との共存共栄をはかろうというものです。全国的にも署名活動が進み、北海道では道議会をはじめ、なんと9割を超える市町村議会が法案促進を求める国への意見書を採択してくれています。このままでは疲弊していくばかりの地域経済への危機感がそうさせているのだと思います。


ペイオフ解禁で地方の痛みは増す

武井 公共投資もすっかり悪者扱いされているが、日本全体から見て、北海道に必要な公共投資はまだまだあるわけで、一方的、一面的な批判をされては困ります。

 おっしゃる通り、金融機関の本来の使命はいかに企業を育てるかにあります。ですから、自己資本比率だけで金融機関を判断するのではなく、本来の使命をいかに果たしているのか、また、果たせるような環境を整えることが大事でしょう。

 その点で、ペイオフ(破たん金融機関の預金払戻保証額を元本1000万円とその利息とする措置)解禁問題も金融機関からの資金移動を生じさせ、弱い金融機関の経営をますます困難にさせてしまう困った措置だと思う。倒れた金融機関の預金者はすべて保護してあげるべきではないですか。私はペイオフ反対論の立場です。

大久保 先日「北海道新聞」に「ペイオフ解禁は時期尚早」という小論を書きました。お客さんに銀行を選べといってもそんな訓練も習慣もないところにいきなりは難しい。政府は国際的信用問題だというが、まず国内の信用を得てからの話でしょう。問題の立て方が逆です。このあおりで、地方の信組の破たんが相次ぎ地方にとっては、生き死ににかかわる大きな痛手となっています。

武井 この問題は3月になると猛烈に大きな問題になりますよ。信用金庫などは声を出したくても出せない。あそこは危ないのではないかと疑われると困るので。

司会 最近は日本商工会議所のトップや各中小企業団体からも、こぞって反対の声が出始めています。与党の中からも反対、慎重論が表明されるようになりました。

4.地域経済の存続と繁栄
  ―中小企業と金融機関が使命感の共有を

司会 では、そろそろしめくくりとして、中小企業と地域金融機関の今後のあり方、双方が繁栄する方向についてお話し下さい。


コミュニティスタンダードの確立を

武井 今の風潮であるグローバルスタンダードに対して、私はコミュニティというスタンダードを提起したい。要するに人間はコミュニティの中で生存するのであって、どちらが住みやすいかといえばグローバルよりコミュニティです。

大久保 私はヒューマンスタンダードと言っています。

武井 コミュニティは本来ヒューマンなのですから同じ意味です。通貨だってエコマネーが出てくる時代です。たとえば、お買い物ひとつとっても郊外型のスーパーマーケットで安い物を買うのもいいが、お年寄りが歩いて買い物ができる最寄りの商店街の充実、これも欠かせられない。いかにして住みよい町を作るかということは、中小企業の生きる道であると思います。

 21世紀は人間がより豊かに生存していくために、限界にきている天然資源をどう活用するのか、環境をどう守っていくのかが大きな課題でしょう。そして、われわれのコミュニティをもっと大事にしていこう、そこに金融のあり方も問われてきます。地域の人たちとどういう社会をつくっていくのかというコンセンサスを得ていくことが必要なのではないでしょうか。


「金融アセス法」の理念もコミュニティづくり

大久保 そのお考えは、私たちが準備を進めている「金融アセスメント法」の理念と合致するものです。地域の人たちにどれくらい優しい金融機関であるかをいくつかの基準で公開していただく。企業の側も自己努力を惜しまず、将来への可能性を融資の重要条件にしてもらう。そのために、金融機関はお金だけでなく、知恵も口も出す。そして、地域全体が主体性を持ちながら、お互いに援(たす)けあいの関係を構築する、まさにコミュニティづくりです。

武井 銀行は本来、金貸しではなく情報産業なんです。ですから、どういう方法で社会のニーズをつかめるか知恵も出す、商品づくりや販路の拡大など、良きアドバイザーとしての役割があるのです。そういう全体像を明らかにしながら、地域との接点を広げていくことこそ銀行の生きる道でもあると思います。

司会 最後に1つだけ、武井さんに質問です。1997年11月、北海道拓殖銀行が破たんしました。その受け皿に北洋銀行がなり、当時「小が大を飲み込んだ」と大きな話題になりました。あのような重大な決断をされる時のトップの心境、また判断基準についてお聞かせ下さい。

武井 自分のところの5倍もある銀行を引き受けてくれという要請、しかも1時間か2時間で返答してくれということです。これは大変だ。しかし、金融機関の最大の使命は地域経済の存続にあります。北海道というコミュニティを守らなければならない。これを放棄すれば北海道が崩壊する、一度混乱に陥ると国民経済的に猛烈なロスが出ます。

 最大の決断の要素は使命感です。もうこれは、大きい、小さいの問題ではありません。使命感を共有する集団、これは文化だと思いますが、そこがしっかりしていれば、組織が大きくなっても大丈夫なのです。そういう意味では、中小企業が大企業に勝てるのです。私たちの場合もそのことを実証したと思います。

大久保 働くことが、自分自身が人間であることを実感できるような状態であることが一番望ましい。まわりにいる人たちすべてが当てになり、また自分も何かの時、何をさておいてもその人たちのために飛んでいきお役にたちたい、そういう人間関係にこそ本当の安心感があります。当てにしあえる人間関係の輪が大きい人ほど、幸せで豊かな人生であるといえるのではないでしょうか。ですから、そういう状況を作っていくことこそ経済的にも活力を生むことになります。

 今年は経営者自身が、人間のありよう、人間の生き方というものを根元から見直し考えることが大切ですね。

武井 そうです。原点にたってもう一度見直す。グローバルスタンダードという価値観に押し流されるのではなく、立ち止まってよく見ると、そこに豁然(かつぜん)として生きる道が開けるのです。

司会 貴重なお話ありがとうございました。

「中小企業家しんぶん」2002年1月15日から

調査 資料 対話 シリーズ「どうする政策金融Q&A」 シリーズ「どうなる金融〜不良債権最終処理」 シリーズ「どうなる金融〜信金再編の余波」 シリーズ「金融機関とともに地域を考える」 シリーズ「金融機関とともに東京同友会と東信協・保証協会」

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