【20.06.03】雇用調整助成金に関する要望・提言を提出

 新型コロナウイルス感染拡大による中小企業への甚大な影響の広がりを踏まえ、中同協では5月27日に提出した「新型コロナウイルスに関する第4次緊急要望・提言」補足資料として、6月2日に「雇用調整助成金に関する要望・提言」を国会議員や中小企業庁に届けました。

「新型コロナウイルスに関する第4次緊急要望・提言」補足資料 雇用調整助成金に関する要望・提言

 私たち中小企業家同友会全国協議会[略称・中同協]は、1969年(昭和44年)設立以来、自助努力による経営の安定・発展と、中小企業をとりまく経営環境を是正することに努めて参りました。
 新型コロナウイルス感染症の影響により、大不況が訪れています。多くの中小企業がこの影響を受け、業績に多大なダメージを負っています。
 そのような中でも、中小企業の多くは自社の雇用を守り、事業を継続するため知恵を尽くし、行動しています。とはいえ、影響の巨大さは一企業の自助努力だけでは対応できない規模になっており、政府からの手厚い支援を必要としています。
 中小企業の雇用を守るための重要な制度である雇用調整助成金は、政府の方針のもと多くの特例措置が実施され、改善がなされています。しかし、実際に行われた休業に対して十分な支給申請が行われていないというデータも出ています。
 これは制度の複雑さと、煩雑な手続きによって、つまずく企業が未だに多くあることも大きな要因となっています。
 当会は5月25日に「新型コロナウイルスに関する第4次緊急要望・提言」を提出いたしましたが、雇用調整助成金の申請手続きや制度運用には、さらなる簡素化と柔軟で中小企業の要望に答えられる取り扱いの改善が必要となっています。
 つきましては、当会の「第4次緊急要望・提言」を補足するものとして、雇用調整助成金に関して下記の点を要望いたします。関係各位の早急なご協力、ご支援をお願いします。

1.「概ね20人以下」となっている「簡素化の特例」の改善
(1)申請方法の簡素化への統一
 現在、簡素化・特例が繰り返されることによって、雇用調整助成金制度の助成額の計算方法は、次の3類型となっています。
(ア)「確定保険料申告書」を元に計算(通常の助成金額の計算)
(イ)「所得税徴収高計算書」を元に計算
(ウ)「実際に支給した休業手当額」を元に計算(小規模事業主用)
 このうち、(ウ)で計算する方法のみ申請方法の簡素化がおこなわれ、(ア)と(イ)については、従来の申請方法となっており、申請者にとって極めて煩雑かつ複雑になっています。
 より多くの中小企業が申請しやすくなるよう、上記の(ウ)の簡素化を(ア)および(イ)にも広げ、中小企業全体に適用するよう求めます。
(2)「概ね20人以下」の解釈の徹底
 「概ね」の解釈は労働局、担当官によって異なる行政解釈がなされています。同様の規模の企業であっても、担当する労働局、担当者によってこの特例の適用可否が異なる不公正は是正されるべきです。
 また、このような取り扱いになっている事自体、手続きの簡素化について20人で線引する合理性がないことを物語っています。

2.個人ごとの短時間休業を認めること。
 そもそもは、短時間休業はその雇用保険適用事業所に誰もいないことが要件でしたが、これが部署や店舗単位に緩和されました。
 しかし、今回のコロナウイルスで大きな影響を受けている飲食業、観光業などの対面接客が主なサービス業では、統一的な出退勤が不向きな就労実態があります。
 緩和されたとはいえ、現在の取り扱いでも、部署・部門・職種・役職・担当・勤務体制などごとに一斉に休業する必要があります。グループ内、シフト内で一人でも残って業務をした場合には、一番遅く帰った労働者の退勤時間が助成金申請の基準時間となります。
 この取り扱いは、短時間休業時間の集計、把握の手間がかかり、申請手続きを煩雑にするとともに、できる限り業務を行い、業績を改善したいという企業の意欲を削ぐ原因にもなっています。
 よって、短時間休業については、グループの考え方をなくし、個人ごとに判断するものとし、集計についても毎日30分単位で切り捨てる取り扱いを、月ごとに30分単位に四捨五入する取り扱いにするなど、集計作業の簡略化を求めます。

3.添付書類の廃止
 添付書類については、申請書に書かれた内容の確認の意味合いがあると思われますが、添付書類を揃える手間が大きく、書式の不備などにより申請のやり直しを求められていることが、雇用調整助成金申請の立ち遅れ、支給の足かせになっています。
 安倍首相も国会で答弁している通り、性善説に立って、不正などは事後対応を行うものとし、添付書類の廃止を求めます。

4.教育訓練に関する改善
 今後ウィズコロナの時期が長期化すると考えられる中、休業が長期に必要になる業種も多く想定されます。
 経営者の悩みと社員の不安は、無意味に「休業」することです。新たな事業モデルの構築や、アフターコロナ期を想定して労使が共に「学ぶ」ことが不可欠です。「多能工化」「新規事業のための職業訓練」など考え学ぶべき事は山ほどあります。
(1)教育訓練の取り扱いの明確化、手続きの簡素化
 教育訓練給付に必要な教育訓練の要件や手順を柔軟かつ明確に示し、中小企業が活用しやすくすることは不可欠です。
 また、レポートなどを「任意書式」としていることも、どこまでの情報をまとめる必要があるのか分からず、不安を招いています。
 その他の添付書類についても、厚生労働省の古いサイトに掲載されているなどわかりづらいとの声もあります。
(2)業界団体や中小企業団体などによる教育訓練の推進
 雇用調整助成金の教育訓練は、「企業内」を前提にした制度とされています。
 大企業や一定規模の教育担当者が配置できる企業では問題はありませんが、従業員数名から二桁の企業規模で、自社内での講師確保は極めて難しいことです。
 業界団体や中小企業団体が共同して実施するオンラインの片方向・双方向による教育訓練を認め、後押しする仕組みの構築を求めます。

5.特例のさらなる延長と、中長期方針の明確化
 5月25日に「雇用調整助成金の特例も9月末まで延長する」との新聞報道がされましたが、新型コロナウイルス感染症の影響が業績に影響を与える時期は、業種や事業構造によって大きく異なります。
 「すでに契約が決まっており、現在の売上は確保できているが、数カ月後の受注減が見込まれる」という企業などもあり、新型コロナウイルス感染症の感染数だけを判断基準にせず、経済の影響を慎重に判断して、特例対象期間をさらに延長することを求めます。
 また、今後第2波、第3波の感染拡大が発生した場合の対策など、中長期的かつ具体的な対策案を明確に示すことで、中小企業の不安を解消されるよう求めます。

6.休業手当支給率と日額の上限額15,000円を遡って適用すること
 上限額が8,330円であったことにより、休業手当の支給額を6割など、低く抑えざるを得なかった中小企業が多くあります。
 解雇などを行わない場合の支給率が100%となり、上限額が15,000円になるのであれば「より高い休業手当を社員に支払っていたのに」と考える企業も多くあります。
 すでに低率の休業手当を支払っていた企業についても、遡って差額を社員に支給することで、より高い休業手当支給率をもとに助成額を算定できる取り扱いを求めます。

以上
2020年6月2日
中小企業家同友会全国協議会
会長 広浜 泰久